「絶景写真」と聞くと、つい海外の遺跡や大自然を思い浮かべてしまうところですが、もちろん日本にも絶景や珍しい風景写真が撮れるスポットはたくさんあります。
たとえば、こんな写真。
実は今お見せした写真、すべて「ある地域」で撮られたものなんです。
そこは、朝日、夕日、星空まで、一日まるごと自然撮影を楽しめる、和歌山県の「南紀熊野ジオパーク」です。
和歌山県にある、自然写真の宝庫
多様な生物がおり、世界的にも珍しい地質を有するこの場所は、自然写真や風景写真にとって格好の“修行の地”!
南紀熊野ジオパークは、和歌山県南部と奈良県の一部にある10市町村で構成されており、「日本ジオパーク」に認定されています。
和歌山県新宮市、白浜町、上富田町、すさみ町、那智勝浦町、太地町、古座川町、北山村、串本町、そして奈良県十津川村の一部が範囲です。
ジオパークとは「地球・大地(Geo)」と「公園(Park)」を組み合わせた言葉で、歴史・文化・動植物・食などを通じて、土地と人の暮らしの関わりを実感しながら楽しむことができる場所をいいます。見どころとなる場所は「ジオサイト」として保護し、地域を元気にするため、資源を活かす取り組みが行われています。
アクセスは自動車はもちろん、飛行機や電車でも。東京からなら、羽田空港より南紀白浜空港まで約70分。京阪神方面は新大阪駅より「JRきのくに線」特急で約2時間30分で、JR白浜駅に到着。名古屋方面も、名古屋駅からJR新宮駅まで約3時間30分です。
撮影時の移動には、レンタサイクルや電車移動も手段ですが、レンタカーがあると機動力アップ!でオススメ。
地図を見ての通り、とても広範囲なのも南紀熊野ジオパークの特徴。山河あり、海岸あり、地層あり、大樹ありと、あらゆる自然がそろっています。
広大なエリアだけに、安全に見どころを案内してくれる「ジオパークガイド」として認定を受けた方々もいらっしゃいます。
今回は、ガイドの一人で、毎年開催される『南紀熊野ジオパークフォトコンテスト』の入賞者でもある長谷洋さん(@gottsu_hiroshi)に、「写真を一日中楽しむ」という観点から、撮影地としての魅力を教わりました!
長谷さん、最近は自分を被写体にして撮るのにもハマっているそうです。躍動感!
「串本町にある本州最南端の地、潮岬(しおのみさき)を基点に、朝日を撮るなら東側エリア、夕日を狙うなら西側エリアへ進むのが基本です。あとは、メインを海岸にするか、山間部にするかを決めておくと、時間も配分しやすいと思います。ちなみに、冬場の時期の潮岬なら、朝日と夕日を同じ立ち位置から同時に見ることもできますよ!」
たとえば、こんな土日はどうでしょう。
初日は東京・羽田空港から南紀白浜空港へ。白浜町や上富田町といった西側エリアで、海岸線や地層の褶曲、渓谷などを撮影します。「夕日が海食洞門に重なる」という珍しい円月島も楽しみ、一泊。明朝早くに大きく串本町方面へ移動して、橋杭岩や荒船海岸から朝日を狙い、その後は那智の滝や新宮方面を攻める……と、すると、2日間たっぷり撮れます。
「南紀熊野ジオパーク」の“必写”スポット
そんなことも踏まえつつ、いったい南紀熊野ジオパークでどんな写真が撮れるのか、まずはいくつかの特徴的なスポットを紹介しましょう。印象的な写真を交えて、テーマごとにまとめてみました。
「絵画的・海」
「ありえない!岩!!」
「水と自然のシンフォニー」
「絵になる太陽」
ここに載せたスポットは、どれもジオサイトとして登録されているところ。ジオサイトは行きやすく安全なところが多いため、南紀熊野ジオパーク初心者にはうってつけの撮影場所だとか。
ただし、干潮時でないと行けないような場所もあるので、事前に南紀熊野ジオパークセンター(串本町)で情報収集するのもいいでしょう。
「たとえば、有名スポットの“串本町の橋杭岩”でも、太陽の加減や天候で毎日表情が違うものなんです。僕は大きな岩や地質を“何かに見立てて撮る”というのも楽しんでいて、『この角度から見ると口を開けたゴリラみたいだ』なんて思うと、また面白く撮れます。撮る人の想像力でいくらでもアングルは見つかりますからね!」
107箇所のジオサイトに、手つかずの自然たち
さて、いくつかを“必写”スポットとして紹介しましたが、ほんとうにこれらは一部分。
他にも、絶景や景勝地の撮影となると“最高のアングル”がありそうだと、ガイドの長谷さんに「ここは絶対に行くべし!というポイントはありますか?」と聞いてみました。すると、「一生かかっても撮りきれないほどの自然が魅力なんですよ」と笑って返してくれました。
「南紀熊野ジオパークには107箇所のジオサイトがあります。僕はガイド歴5年で、ここらが生まれ故郷でもあるのですが、まだまだ回りきれていません!もちろん、ジオサイト以外にも自分で撮影スポットを見つけ出す楽しみもありますからね
嬉々として語る長谷さんの作品を見せてもらうと、これらが自分の行ける範囲で、刻一刻と変わる雄大な自然を相手に、いつでも狙えるという代えがたい写欲が伝わってきます。
長谷さんと写真との付き合いは、25歳の頃にスキューバダイビングを始め、ニコンのフィルムカメラにNexusっていうハウジングを付けて、海底写真を撮ったことから。
それから地元に戻って、5年ほど前にジオパークガイドの講習を受けてみると、子供の頃から当たり前にあった自然の景色や紀伊半島の成り立ちが、勉強するほど面白くなっていったそう。
「地質や自然を勉強しようという思いから、5年ほど前から本格的にカメラを手に。そうしたら、カメラのほうにも熱中してきてしまいました(笑)」
OLYMPUS OM-D E-M10のレンズキットに始まり、今もOLYMPUSのマイクロフォーサーズが愛機。自然めぐりのときは「OM-D E-M1 Mark II」に、レンズは「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」と「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」の2本。これに1.4倍テレコンバーターの「MC-14」を合わせることで、幅広く対応できているといいます。
「三脚は使わず、手持ちが基本です。やはり自然は待ってくれませんから、少しのズレなら自分で微修正したい。特に朝日や夕日だと刻々と情景が変わるので、三脚では追いつけません。今では“人間三脚”といわれるくらい、得意になってきました(笑)。その意味では、まさしく自然撮影の修行になると思いますね!」
長谷さんのように写真が得意なジオパークガイドに撮影同行をお願いすることも可能だとか。2名以上からの申し込みで、料金は2時間5千円より。
たとえば、世界的にも有名な「フェニックス褶曲」のあるポイントは、大潮の干潮時でないと渡れない場所にあるため、地形をよく知るガイドとめぐったほうが安心とのこと。
そして、これまでの常識を覆すほどの手つかずの自然や、豊富な生物に出会える場所でもあります。それを裏付けるのが、長谷さんの“ものすごい発見”エピソードでした。
「シダ植物を勉強して山に入ったら、日本では絶滅危惧Ⅱ類に指定されている“ヒメホウビシダ”を見つけました。このシダはずっと屋久島にしかないと言われていたのが、株の大きさなどから推察するに、この南紀にも自生していたんです。まだまだ私たちの知らない自然の大発見がありえるでしょう!」
動植物のことも学んでから赴けば、撮影だけでなく歴史を変える証人になれてしまうのかもしれませんね。
紹介しきれない、南紀熊野ジオパークの魅力
四季によって撮りがいがあり、また撮り方によって表情の異なる岩や海などの自然物が豊富な南紀熊野ジオパークは、まさに修行や撮影旅行にぴったりです。ここでしっかり腕を磨いて、また安心に世界へ渡航できるようになってからなら、さらに写真紀行も楽しめるはず。
また、エリア各地の自然物や広大な地形は、ポートレートやコスプレ撮影など、人物フォトでも強い味方となってくれます。長谷さんも最近、某大人気マンガのキャラに扮して、天狗の面を着けて撮影を楽しんでいるのだとか……!
昨今、なかなか移動がしにくい世情ですが、動けるようになったら身軽な装備で1泊2日、ぜひ撮りまくり旅に出たいものです。
撮影地を含めた地域情報を得るなら、串本町の南紀熊野ジオパークセンターがおすすめ。
南紀熊野ジオパークの情報発信や調査研究の拠点となる施設で、紀伊半島の大型立体模型に、火山の噴火など迫力ある映像で投影するプロジェクションマッピング、大地のでき方を再現する体験装置、館内ガイドによる河川や津波の実験などで、南紀熊野の自然を楽しみながら学べます。
開館時間:午前9時から午後5時まで
休館日:年末年始(それ以外は土日祝も開館)
入館料:無料
駐車場:あり(無料・21台)
また、長谷さんを始め、ジオパークガイドの申し込み・問い合わせはこちらより行えます。
住所:〒649-3502 和歌山県東牟婁郡串本町潮岬2838-3
TEL:0735-67-7730
FAX:0735-67-7191
E-mail:nankikumano.gpgc@gmail.com