2022年3月13日に10日間の熱戦の幕を閉じた北京2022パラリンピック冬季競技大会。躍動するパラアスリートたちを追い撮影を行なった写真家・小川和行さんから取材手記第2弾が届いた。最新のカメラ・レンズがスポーツ撮影の最前線で、どう威力を発揮したのかをレポートしていただいた。
- 激撮・北京パラリンピック! 現地速報編
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見ごたえ満点! 小川和行×北京2022パラリンピック ギャラリー
選手が見せる「自分らしさ」を写しとめる
クロスカントリー・Iweta FARON選手。障害のある右手にもネイルを入れていて素敵だと思った。見やすいEVFも手伝い、ファインダーを覗いているときにふと気づけることも多く、そんなところもしっかりと抑えることができる。
迫力いっぱいのゴール前の混戦シーン
パラアイスホッケー・Michal GEIER選手 (74番) のゴールシーン。ゴール前のごちゃついたところでも、「α1」のフォーカスエリア「トラッキング : 拡張スポット」設定で、狙った選手をきちんと捕捉して撮れた。
声を頼りに滑走する美しいシルエット
視覚障害のアルペンスキーは、ガイドの背中のスピーカーの声を頼りに滑る。アンダーにして印象的に。この種目ではそこまでナーバスにならなくてもよいが、パラスポーツでは撮影音の影響を抑えたい種目も多い。無音撮影も可能なミラーレスはとても有効だ。
チェアスキーの疾走感を流し撮りで描き出す
アルペンスキー・Josh HANLON選手。チェアスキーの疾走感を流し撮りで表現した。小型で軽い「α1」と軽量設計の「FE 400mm F2.8 GM OSS」のコンビにより手持ち撮影でスムーズに振れる。「軽さ」は強い味方だ。
挑む選手の目の表情をキャッチ!
スノーボード・Maxime MONTAGGIONI選手。「リアルタイム瞳AF (人物)」設定で連写したカットの1枚だが、アスリートの生き生きとした眼差しを高速滑走の中でもきちんと撮りきってくれた。
一気にミラーレス化が進んだ撮影の現場。性能の進化を魅力的な写真撮影に生かしていきたい
今回は、「ソニー α1」をはじめとする私の使用機材についてや、世界のフォトグラファーたちがカメラ機材についてどんな話題していたかをお伝えしたい。
今大会は昨年のパラリンピック東京大会同様に、ソニーのシェアの拡大を実感した。またキヤノン、ニコンについても一気にミラーレス化が進んで、各国のほどんどのフォトグラファーが「α1」「EOS R3」「Z 9」のいずれかを使用していた。その結果、一眼レフは大幅に少なくなった。
そのミラーレスの気になる耐久性、信頼性について。直前に開催の北京オリンピックでは、極寒の気象条件下でミラーレス機に不具合があったというウワサを耳にしたが、寒さが緩和したパラリンピック期間では、私の機材は全く問題なく、トラブルの話もほとんど聞くことはなかった。しかしバッテリーについてはやはり不安があったし、「余裕を持って交換しよう」という声もあった。
AFに関して。今回撮影した競技では、いきなり視界に飛び出してきた選手にAFでピントを合わせる必要がある競技はスノーボードくらい。そのほかの競技は「きちんと捕まえて、きちんと追いかける」AF性能とその使いこなしが求められた。動きやシーンの特徴として、アルペンスキーでは「高速滑降」、クロスカントリーは「激しい上下動」、アイスホッケーは「密集や激突」といったポイントがある。1枚1枚確実に押さえたい場合はシングルAF、動きを柔軟に捕捉して連写したい場合はコンティニュアスAFとトラッキングを活用。「α1」のAF・高速性能は、期待に応えて、パラスポーツの魅力的なシーンを数多く捉えてくれた。
今回使用した中でも最新の機材が、望遠ズームの「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」。II型になって驚くほどに軽量化を果たし、動きの素早いアスリートの撮影も実に軽快に行なうことができた。軽さに加えて、画質も大幅に向上。5000万画素の「α1」の画質性能をしっかり引き出せるシャープな画質はありがたく、それはすなわち、部分的にトリミングしてもよりシャープに表現できる力を持っているということだ。またズームリングのトルクがI型よりも少し重めな点は、手袋をしての操作でも調整しやすく感じた。
「α1」のEVFは、クリアで見やすく、連写中もブラックアウトがないため、覗きながらも新たな発見がある。クロスカントリー選手のネイルなどは、自分の目の前に来るまで全然わからなかった。シャッターを切り始めてからそのキレイなネイルに気がついて、狙いを切り替えた。こうした機材の進化をしっかり自分の中で消化して、アスリートたちの魅力的な姿を伝えるために、生かしていきたいと考えている。
小川和行 (Kazuyuki Ogawa)
1979年、神奈川県出まれ。30歳から写真を始めて、日本写真芸術専門学校卒業後の2012年、スポーツフォトエージェンシー「フォート・キシモト」に入社。オリンピック・パラリンピックをはじめ多くのスポーツイベントを取材。2018年独立しフリーランスに。ロンドンパラリンピックで受けた衝撃が忘れられず、パラスポーツを中心に国内外で取材を行なう。