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【2023ベストバイ】表現したかった写真の質感を「ピクトラン局紙」が叶えてくれた

久しぶりに行動の自由が戻ってきた2023年。プロ写真家の皆さんに「2023年、買ってよかったモノ」を一斉調査しました。2024年の明るく楽しい写真ライフの参考になれば幸いです。さあ、どんなアイテムが出てくるかな?

プロが買って良かったモノ教えます! 2023ベストバイ特集

藤井智弘さんの2023ベストバイ「ピクトラン局紙」

【2023ベストバイ】藤井智弘さん
ずっと苦手に思っていたピクトラン局紙でしたが、いざ使ってみると好みの仕上がりになりビックリ。アート紙としては比較的手ごろな価格なのもありがたかったです。

久しぶりの写真展を成功に導いたインクジェット用アート紙

2023年は、ようやく9月に千葉県のオーエンス八千代市民ギャラリーで写真展を開催できました。というのも、本来この写真展は2021年の4月に行なうはずだったもの。2020年にギャラリーの企画展としてお話をいただき、準備に取り掛かり始めると、新型コロナで突然延期の連絡。なんとギャラリーがコロナワクチンの接種会場として使われることに決まり、展示等の運営が一切できなくなりました。

「いつギャラリーとして再開できるかわかりません。キャンセルでも構いませんよ」と担当者に言われましたが、せっかくのお話でギャラリーも素晴らしいつくりなので、コロナが落ち着くまで待つことに。それから約2年。ようやくギャラリー運営が再開され、写真展も開催できることになりました。

歴史あるヨーロッパの街を表現するために黄色味の強いプリント用紙が欲しい

写真展の内容は、これまで撮りためてきたヨーロッパの作品。すべてモノクロです。これまでモノクロプリントには、ピクトリコの「GEKKO シルバーラベル プラス」を使ってきました。バライタ調で銀塩プリントに近い雰囲気が出せるところがお気に入り。表面の白はややクリーム色で落ち着いているところも好みです。

しかし今回は、ヨーロッパが持つ長い歴史や奥深さを強調するため、より黄色味の強い用紙にしようと考えました。どの紙にしようかと悩んでいたところ、ふと自分が『CAPA』2020年7月号で執筆した記事「アート紙で極めるプリント術」でさまざまな用紙を試したのを思い出し、あらためて確認してみることに。そこで目に留まったのが、越前和紙をベースにした「ピクトラン局紙」です。黄色味が強かったのを思い出し、モノクロにも合うのでは、とまずは試してみることに。

中間トーンの色再現と黒の締まりもよい温黒調の仕上がりに

ピクトラン局紙はインクジェット用アート紙の中では古くから販売され、知名度の高い用紙です。私もずいぶん前から存在を知っていましたが、実はあまり好みではありませんでした。紙の表面が光に反射すると、独特のキラキラ感があり、それが馴染めなかったのです。ところがテストプリントをすると、今までの印象ほどキラキラが目立たず、黒もしっかり締まって深みがあり、想像以上に良い仕上がり。中間トーンの再現も申し分ありません。今回の写真展は、このピクトラン局紙に決定しました。

【2023ベストバイ】藤井智弘さん
写真展のメインビジュアルの作品です。黄色味が強い、いわゆる温黒調の仕上がり。黒の締まりも申し分なく、この紙でプリントすることに決めました。

展示作品は32点。サイズはA3ノビ。これを自宅で使用している顔料インクジェットプリンター「エプソン PX-5600」でプリントしました。「PX-5600」は、発売から約15年が経つ、今や骨董品。仕上がり品質は十分高いのですが、これだけの枚数のA3ノビをプリントするのは初めてなので、無事に終えられるかドキドキしながらの作業でした。

ついにプリントが完成し、広々したギャラリーの壁に作品が並んだ姿を見たときは、約2年半待った甲斐があったと感無量でした。会期中は多くの方にご覧いただき、とても好評。中でもプリントについて質問される方が多かったのも印象に残っています。それもピクトラン局紙のおかげと言えるでしょう。これからもモノクロ作品の主力として活躍してもらいます。

【2023ベストバイ】藤井智弘さん
9月に千葉県八千代市にあるオーエンス八千代市民ギャラリーで開催した写真展「EUROPE」。ギャラリーの白い壁と黄色味が強いピクトラン局紙がマッチして、狙い通りの表現ができました。