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航空機模型専門誌『スケールアヴィエーション』編集長・石塚さんが自ら模型撮影を行うそのこだわりの理由とは!?

航空機模型ファンに人気の専門誌『スケールアヴィエーション』(大日本絵画刊)。実機と見まごうばかりの数々の作例写真が他の模型雑誌とは一線を画している。それらの模型撮影を行っているのが、編集長の石塚真さん。

カメラマンではなかった石塚さんが、なぜ自身で撮影するにいたったのか、模型雑誌というメディアで写真で表現したいこととは何かを聞いた。

石塚真さん プロフィール
1978年生まれ、北海道苫小牧市出身。2002年より『月刊モデルグラフィックス』編集に携わり、2006年に月刊モデルグラフィックス副編集長、2008年1月より航空機模型専門誌『隔月刊スケールアヴィエーション』編集長を務める。

すべては頭の中にある航空機の写真を再現すること

まず大前提として、飛行機は時代やどのようなエンジンで推力を得ているか、その機体がどのような目的で作られたかによって、形が全然違います。だから、同じ角度で色々な飛行機を撮影したとしても、その機体のかっこよさは引き出せません。飛行機模型の専門誌として、まずは「この飛行機、かっこいいな」と思ってもらわなくてはならないので、かっこよさが表現されていない写真は載せたくないんです。

うちで編集している模型雑誌の作例撮影は、物撮りに強くて模型の撮影にも慣れているスタジオにお願いしています。そのスタジオのカメラマンさんたちは、カタログに使うような物撮りに関してはもちろんプロなんですが、ただ、飛行機のマニアではない。だから「この機体はここから見るとかっこいいよね」という決めカットの撮影は、自分でファインダーを覗いて撮るのが一番手っ取り早かったんです。これは最近始めたわけではなくて、今の雑誌の前、2005年ごろに飛行機ページを担当していた『モデルグラフィックス』の撮影の頃からやっていました。

というのも、僕は幼い頃から飛行機、あとはミリタリーも好きだったので、小学生くらいの頃から飛行機関連の専門書を読み漁っていたんです。その結果、世の中で知られている飛行機の形状はだいたい頭に入ってしまっていて、記憶の中にあった。それ以外にも「あの本のあのページに載っていたあの写真、かっこよかったな」みたいなことまで全部覚えていたんで、あとはそれをスタジオで再現すれば、写真に関して素人の自分でもなんとかなったんです。

「屋外で、自然光で模型の写真を撮る」というのも、そういった発想から生まれたアイデアでした。専門誌に載っていた実機の写真の記憶とスタジオ撮影の経験があったから、「こっちに光源があって、こうやって光が当たっていればあのかっこいい写真が再現できて、間違いなく実機っぽく写るな」という計算ができたんです。そこでカメラマンに「模型を屋外で撮りたいんですが……」と相談して、そのまま車でロケに行きました。それが屋外での飛行機模型の撮影を始めたきっかけでしたね。

↑ジオラマを屋外で撮影。水の表現がうまく見せられると読者の反響が大きいという。ジオラマなので実際には水ではないとわかっていながらも、見事に表現された海に読者の思い描く海が重なることで高評価につながる。

読者の反響が手応えに、とにかくカッコいい写真を載せる


屋外での撮影に関して手応えを感じたのが、読者からのお便りで「本物だと思った」という声が寄せられた時ですね。「模型雑誌を買ったのになんで実物の飛行機の写真が載ってるんだろう」と思ったんだけど、ページをめくったら製作工程の写真やスタジオ撮影の写真が載っていて、そこでようやく模型だとわかった……という声を寄せてくださった読者の方がいまして、これはやっぱり嬉しかったですね。

というのも、やっぱり模型を作る動機のひとつに「実物が好きで、それにできるだけ近いものを手元に置きたい」という欲求があると思うんです。本物っぽい、外で見たらそのまま実物に見えるようなものを作ったりコレクションしたりするというのは、モデラーにとって大きな喜びです。普段からずっとそういうことを考えている読者の方から「この模型は本物に見えた」という声をいただけたというのは、濃いモデラーに向けて仕事をしている立場からすれば相当の褒め言葉ですよね。

このご意見をいただいたことで、これなら屋外で実機のように模型を撮って、そしてそれをメインのカットとして誌面を作っていっても大丈夫だという確信が得られました。この確信は、今に至るまで持ち続けています。

『スケールアヴィエーション』の編集長になって改めて分かったんですが、僕はやっぱり「かっこいい写真」が好きなんですよ。女の子のグラビアにしてもアーティスティックでコントラストが強いものの方が「掲載したい!」という気持ちになるし、そう思って見ていると色々と写真に興味も出てきた。もう編集長になって以来「自分でもこういう写真を撮ってみたいし、自分の雑誌に載せる写真は全部のカットがカッコよくないとイヤだ」と思っています。屋外での撮影も、その「この飛行機のカッコいい写真を載せたい」という気持ちからやっているんです。

↑この写真も石塚編集長のお気に入りの一枚。最初からこの構図で撮影すると決めて、アパッチだけでなく、DD51車両も含めモデラーさんに発注して撮影を行った。400mm単焦点で撮影し、背景のボケ感含め模型の力強さが表現されている。

飛行機模型撮影の最大の敵は“風”

屋外での撮影には気温など大変なことも多いんですが、一番の大敵は風ですね。というのも、プラモデルの飛行機って完成してもすごく軽いんです。しかも、空気に乗って飛行するものを模しているので、風が吹くと実際に揚力が発生して飛んでいっちゃう(笑)。作例が破損してしまうことも何度かありました。

ベースがあって、その上に模型を配置するジオラマ型の作例だったら、飛行機なども全部固定されていてまだ撮影しやすい。ただ、基本的には飛行機の作例単体を持ち運んで、それを自前のベースの上に置いて位置を調整しながら撮影するので、飛行機を固定することができないんです。なので風は本当に大敵です。作例が壊れないように万全の配慮はするんですが、もし万が一破損してもページが作れるよう、事前にスタジオで撮影するようにはしています。

屋外なので当然天候に左右されるところがあり、そこも辛いところですね。雨だともちろん撮影できないですが、雲の表情が完全にない曇天の場合、屋外で撮っても白ホリのスタジオで光を回して撮るのと変わらなくなってしまう。そういう場合はスマホでアメダスのレーダーを見ながら、雲が晴れるのをひたすら待つことになります。

最初はキヤノン EOS Kiss Digitalから、現在の愛機はニコン D800

先に言ったように、自分で屋外撮影を始めた時も写真の知識はほぼありませんでした。だから最初に使ってたのは、会社にあったイベント撮影用の「EOS Kiss Digital」です。当初はメインのカットに使うつもりなんか全然なくて、小さいカット程度だったんでそれでもなんとかなったんですが、今はカメラボディはニコンのD800を使っています。レンズは基本標準ズームレンズ24-70の一択、望遠レンズは400㎜単焦点を使っています。同じ社内の編集部の人間から安値で譲ってもらったものですが、基本その2本しか使っていません。

飛行機模型は被写体としてそんなに大きくないという理由もあり、画角的には標準ズームで充分です。400㎜単焦点だと後ろが綺麗にボケてくれて、機体だけが浮かび上がってくるので、これはここぞというときに使ってます。最近、ようやく自分の中で400㎜で撮るならこういう絵だなというノウハウが掴めてきました。

背景を合成しないのがポリシー

表面に置いたものを反射するアクリル板の上に模型を置いて撮影する手法も本誌では多用していますが、これは高級時計や宝飾品の撮影で使われている手法ですね。高級感が出るので、模型撮影に取り入れることにしたんです。

模型ってどうしても「子供向けのオモチャ」「男の子向けホビー」というイメージがある。だからこそ、高級なものであるかのように演出して撮る必要があるんじゃないかと思うんです。作例を作ってくれたモデラーさんや、飛行機模型を楽しんでいる人たちが、「自分たちのやっている趣味はこんなに大人っぽくてかっこいいんだぞ」って、家族や恋人に自慢できるような写真を載せたいと思っていて、アクリル板を使った撮影を始めたのもそういう発想からですね。

あとは、鏡面の上に模型を置いて撮ると、金属的な質感が非常に硬そうに写るというのもあります。プラモデルは当然プラスチックでできているんですが、そこに塗装することで実機と同じアルミやジュラルミンのような金属的な光沢を表現できる。その冷たさや硬質な感じをいかにして表現するか考えた時にたどり着いたのが、鏡面を使った撮影だったんです。

ただ、SNSに模型の写真を投稿するのが一般的になってから、鏡面になっている素材の上に模型を置いて撮るという手法が結構一般的になっちゃったんですよ。ただ、模型をそう言ったものの上に置いて撮るのは間違いなくウチが始めたはずなんで、勝手にパイオニアだと思っています(笑)。

もうひとつポリシーとしては、「背景は合成しない」というものもあります。飛行機が空中を飛んでいるような写真も、糸を使って吊るして撮影して、撮影後に糸の部分を消しています。これも、風が吹いたら終わりですね。風が吹かない場所で撮影して青空を合成した方が安全だし早いんですが、なんとなく空気感が伝わらないような気がしていて。まあ、これはもうただの勝手なこだわりみたいなものですね(笑)。

2024年4月12日発売の最新号はA-10が表紙!

最新号がクローズアップするのは、30㎜アヴェンジャー砲を搭載し、圧倒的な火力で敵装甲戦力を狩り尽くす…。唯一無二のルックスから高い人気を博す対地攻撃機、A-10サンダーボルトⅡ。

同月発売の新製品、グレートウォールホビー1/48 A-10Cを筆頭に、アカデミー製キットを用いメンテナンスシーンを再現した情景作品や、往年のタミヤ/イタレリ 1/72 A-10Aを極限にまで作り込んだ2作などを掲載。

恒例の連載陣も、水彩色鉛筆を使った迷彩塗装法が必見な松本州平氏によるキ45屠龍(ハセガワ 1/48)や、A-10のライバルとして外せないSu-25 フロッグフット(アートモデル 1/72)、OV-10Aブロンコ(ICM 1/72)を収録しています。

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