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もう1つの恐るべき感染症。コロナ禍の裏で増加に転じる「マラリア」

2022/5/25

2008年から毎年4月25日は「世界マラリアデー」になりました。この日はマラリア撲滅に向けた世界的な取り組みや進歩を確認する機会として設けられています。それに先立つ4月21日に、WHO(世界保健機関)はアフリカ3か国で計100万人以上の子どもたちがRTS, Sマラリアワクチンを接種したことを発表しました。しかし、マラリアのない世界はまだ訪れていません。

マラリアはまだまだ終わらない

 

マラリアとは蚊によって媒介される感染症で、語源はイタリア語の「mal(悪い)」と「aria(空気)」。人間に感染するマラリア原虫は5種類(熱帯熱、三日熱、卵形、四日熱、サルマラリア)あり、なかでも特に重症化を引き起こし、致死率の高い熱帯熱マラリア原虫は、世界のマラリア感染者の多数を占めます。感染すると悪寒や発熱だけでなく、脳症、腎不全、肝機能障害、出血などの合併症を発症するマラリアは、古代から人類を悩ませてきました。マラリアの病原体が発見された19世紀後半以降、ワクチンを含めた治療法の開発は目覚ましい進展を遂げてきましたが、宇宙を開発するまでの科学技術を生み出している現代においても、人類はいまだにこの感染症を克服することができていません。

 

近年では、新型コロナウイルスのパンデミックが、途上国のマラリア撲滅に向けた取り組みに影響を及ぼしました。WHOの「ワールド・マラリア・レポート2021」では、2020年には世界で約2億4100万人がマラリアに感染し、約62万7000人が死亡したと推計されています。前年と比べると、感染者数は1400万人、死亡者数は6万9000人増加。世界各国の政府や医療機関などが新型コロナウイルスの対策に追われた結果、それまで減少傾向にあったマラリアの感染が再び増加に転じるという異常事態が発生しているのです。

 

例えば、ブータンや東ティモールは、2025年までにマラリアの撲滅を目指すWHOの「E-2025」と呼ばれる取り組みの対象国に含まれていますが、両国ではその計画に黄信号が灯っています。一国だけの対策でマラリアの蔓延を抑えることはできず、隣国からの国境を越えた感染拡大を止めることが急務。政府機関および国際機関の協力体制の強化に加えて、現場の医療従事者が国境を越えて情報を交換できるアプリが開発されています。

 

日本にとっても現在進行形の課題

公衆衛生が高いレベルで維持されている日本にとって、マラリアの蔓延は遠く離れた途上国の話、もしくは過去の出来事と考えがちですが、様相は変わるかもしれません。温暖化の進行によって日本でマラリアの感染が再び広がるのではないかという説が以前にありましたが、現在、地球規模で気候変動が起きており、マラリアを媒介する蚊の生息地域も変化しています。熱帯熱マラリアを媒介するコガタハマダラカは、日本では沖縄地方の宮古・八重山諸島でのみ存在が確認されていますが、その生息地域が温暖化によって拡大する可能性はまったくないというわけではないでしょう。

 

一方、日本は世界各国の政府機関や民間機関などと協力しながら、途上国のマラリア対策を支援してきました。民間企業に目を移せば、住友化学による防虫蚊帳の配布や、九州メディカルによるボウフラ殺虫剤の展開など、途上国の現地住民の命と健康を守るための基本的な蚊媒介感染症対策製品が導入されています。マラリア撲滅という国際的な課題において、今後も日本にはあらゆる面で世界各国から大きな期待が寄せられていくでしょう。

 

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