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神戸とアフリカの国・ルワンダの「ICT」で繋がる縁と新たな挑戦

2022/7/11

2040年には人口が世界の4分の1を占めるという予測があり、魅力的な市場として世界各国の企業や投資家から注目されているアフリカ。著しい経済成長が期待されるアフリカの中でも、とりわけICT立国として注目されているのがルワンダです。

 

そんなルワンダと、ビジネス機会の発掘と人材育成を目的に、日本の自治体でいち早く経済交流を図っているのが神戸市。神戸はかつて世界有数の貿易港を持ち、国際都市としても発展してきた街でもありましたが、1995年の阪神淡路大震災を機に、従来の重厚長大産業(重化学工業など)に次ぐ新しい産業の柱として、医療分野やICT(情報通信技術)分野の産業育成に注力しています。

 

今回は、神戸市 医療・新産業本部の大前幸司さんと織田 尭さんに、ルワンダと経済交流を推し進める理由や、ルワンダとのさまざまなプロジェクトの中でもとくにユニークな起業支援プログラム「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」についてお聞きました。

●大前幸司氏/神戸市 医療・新産業本部新産業部企業立地課 外国・外資系企業誘致担当係長。神戸市への外国・外資系企業の誘致を担当する傍ら、ルワンダとの経済交流も担当。コロナ禍以前の2019年にはルワンダで開催されたトランスフォーム・アフリカ・サミットに市内企業などと共同でブース出展。アフリカにビジネス進出する企業の誘致にも取り組む。

 

●織田 尭氏/神戸市 医療・新産業本部 新産業部 新産業課 イノベーション専門官。神戸市で若年層の起業家向けプログラムや交流機会、各支援者や施設同士の連携などを行なう。2017年から起業支援施設・スタートアップカフェ大阪のコーディネーターとして勤務した後、2021年7月に神戸市に民間出身人材としてジョイン。

 

ルワンダ共和国●人口約1200万人、面積は四国の1.5倍ほどのアフリカ東部に位置する国。首都はキガリ。1962年にベルギーから独立後、共和制に移行。1994年にはジェノサイド(大虐殺)が勃発。現在はポール・カガメ大統領の下、経済も急速に発展を遂げ、近年では“アフリカのICT立国”として注目されている。

 

ルワンダと神戸市を繋ぐキーワードは「ICT」

――ICTの観点で神戸市とルワンダの接点は始まったそうですが、なぜルワンダをパートナーに選んだのか詳細な経緯を教えてください。

 

大前 背景として、神戸市が次世代を担う優秀な起業家を輩出できるスタートアップエコシステムの形成に力を入れていたことがあります。2016年には米国シリコンバレーのアクセラレーションプログラムを日本で初開催するなど、海外との連携を進めていました。ちょうどその頃にルワンダの学生が市内の大学に多く留学していたことがきっかけで、ICT立国を目指して成長を続けているルワンダに着目しました。その後、ICT分野の産業育成、人材育成の面で、2016年に首都・キガリ市とパートナーシップを締結。2018年には、ルワンダICT省とのパートナーシップも締結しました。

 

あと、ジェノサイドと震災という、お互い異なる苦難からともに復興を遂げてきたという共通点も、神戸とルワンダがつながった理由の一つなのかもしれません。

 

――自治体が一国家と経済的なパートナーシップを結ぶのは珍しいケースですね。 

 

大前 国家間の大きな方向性を決めるのはもちろん国ですが、自治体は普段から実際の経済活動を行う企業と身近な関係を築いているため、ビジネスの状況をよりリアルに把握できています。このため、具体的な事業を行うという点では、自治体の方が企業のニーズを的確に捉えたきめ細かな施策が打ち出せると思います。

 

――具体的に、ルワンダとはどんな取り組みを行ってきたのでしょうか?

 

大前  神戸市関係の企業とともに、2017年から3年連続で 「トランスフォーム・アフリカ・サミット」にブースを出展しました。ブースでは神戸市の取り組みを紹介するとともに、避雷器を製造販売する音羽電機工業株式会社やオフショア開発に取り組む株式会社ブレインワークスなど、ルワンダの課題解決に役立ちつつ、ビジネスとして成り立つ可能性のある企業の取り組みを紹介しました。また、 サミットでは、ルワンダの若者たちがICTを駆使した高い水準のビジネスプランを披露する機会もあり、世界中の投資家が注目。市としても、そこに市場としての将来性を感じました。

2018年にルワンダで開催された「トランスフォーム・アフリカサミット」日本ブースの様子

 

アフリカ人留学生と企業とのマッチングイベント

 

起業家マインドを育てる独自の支援プログラム

――神戸市の数ある海外とのビジネス支援の中でもユニークだと感じたのが、起業支援プログラムである「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」です。

 

織田 実は2015年から、学生や若手の起業関心者に、日本以外の環境にいる起業家や挑戦者に会い、起業に向けてのモチベーションを挙げていただくため、アメリカのシリコンバレーへ派遣するというプロジェクトを行っていました。その後2018年に神戸市がルワンダとパートナーシップを締結した際、成長性の高い市場である一方で課題の多いアフリカ、特にICTが急速に発達しているルワンダに学生を派遣することで、社会課題解決に向けて取り組む若手が増えてほしいという想いを込め、「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」プログラムの実施が決まりました。

 

――どのようなプログラムなのでしょうか? 

 

織田 2018年度と19年度は実際にルワンダへ渡航。約2週間の滞在中に、ルワンダという国を知るために、歴史をはじめ文化や慣習などを学んだり、現地起業家と体験談を交えながらディスカッションを行ったりしました。一部すでに事業を開始している方がいたり、参加メンバー同士でチームを組んだ人もいますが、それぞれで解決したい課題を見つけ、課題解決のためのビジネスプランを考えて最終日に発表。そのプレゼンテーションをルワンダの現地の起業家たちが審査するという内容でした。18年度は19名、19年度は13名の学生が参加。20年度からはコロナ禍のため、オンラインで実施しています。

↑「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」プログラムで2018年に現地へ訪れた参加者の皆さん

 

参加者が考案したビジネスプランの一例として、ルワンダの現地での仕事不足などの課題をテーマにしたものがありました。ルワンダはシングルマザーが多く、彼女たちの多くは職に就くことができません。その課題に対して、イミゴンゴという伝統工芸品を活用したアクセサリーを製造販売することで雇用を生みだせないかというプランです。しかも帰国後、参加者同士でチームを組んでクラウドファンディングを行ったり、さらに、オンラインツールを使いコミュニティを作ることで、参加者同士がそれをサポートし合ったりするなど、渡航の後もそれぞれで動きがありました。日本にはない課題に向き合うことで、独創的なアイデアが生まれると思っています。

 

――まさにプログラムへの参加がきっかけですね。ほかにも起業事例はありますか? 

 

織田 オンラインプログラムになってからですが、廃棄コーヒーを画材として活用した「廃棄コーヒーアートプロジェクト」を立ち上げ、絵画展や子ども向けのワークショップを展開している女子大生がいます。ほかにも、アフリカ布で高校生向けの通学バッグを制作した方も。バッグのデザインはアフリカ人デザイナーに依頼していました。

 

また先述のイミゴンゴのプランを考えた、山田さんという方は渡航時、プログラムとは別に、単独でコーヒー農園の方にヒアリングもしていました。そしてルワンダ産のコーヒーを提供する「Tobira Café」を2020年9月に沖縄県読谷村波平に、2号店を昨年12月に神戸市東灘区にオープン。売上の5%を現地ローカルNPO団体へ寄付しているそうです。

↑参加者の山田さんがプログラム参加後に沖縄でオープンした「tobira cafe」。ルワンダ産の豆を使ったコーヒーがいただける

 

↑今年2月には神戸市東灘区に「tobira cafe」2号店をオープン

 

――神戸市としては、本プログラムは期待通りの成果を得られていますか? 

 

織田 プログラムの目的は創造的な人材の育成であり、起業家マインドを身につけ、行動を後押しするきっかけを作ることです。そこから起業家が生まれるかは正直わからないところがあります。

 

プログラム参加者から起業家が生まれるのは喜ばしいことですが、参加者が神戸市の事業を介して多くを経験し、それを持っていろいろなところで活躍し、それが地域に還元されたり、若者が活発に活動している神戸に繋がれば、と思っています。もちろん、神戸に移住したり、会社を設立、移転するなど、長い目で見た時の関係性に期待するところはありますが、これまでは市民だけに限定するのではなく、より広い発想と多様性から起きる化学変化に期待し、地域も国籍も関係なく参加者を募集していました。

 

――プログラム参加後のサポート体制はどうなっていますか? 

 

織田 過去の参加者にも声がけをし、交流の機会を提供したりしています。グループチャットで参加者同士がつながっているため、参加者に何か進捗があった時は情報がアップされます。またその後も有機的に、参加者同士や一部運営メンバーとオンラインでの個別相談をしていたりもしています。

 

ルワンダはじめアフリカでのビジネスには「スピード感」が不可欠

――ビジネスセミナーでの成果など、企業とのマッチングという点ではいかがでしょうか?  

 

大前 横浜で開催されたイベントに、市内の企業と共同出展したことがありました。その際、フードロスの削減を模索していたルワンダのICT関係の方が、神戸市ブースに出展していたコールドストレージ・ジャパン株式会社という企業が展開する「冷凍物流」事業に興味を持ったのです。その後、他の国内企業とともにルワンダの企業と手を組み、合弁会社を作るに至りました。現在は、冷凍物流システムの温度管理を遠隔で行うなどの実証事業をルワンダで行っています。 このように企業とルワンダとのマッチングに関しても確かな手応えを感じています。

 

――アフリカは魅力ある市場なので、今後も興味を示す企業は増えそうですね。 

 

大前 現在はコロナ禍で中止していますが、以前は神戸市内でも、アフリカで実際にビジネスを展開されている方に登壇いただくビジネスセミナーを開催していました。参加者が100人近くにのぼるなど盛況でした。まだ具体的な事業になってはいませんが、アフリカ市場に魅力を感じる企業は増えていると感じます。一例を挙げますと、ルワンダではありませんが、ダイキン工業株式会社とWASSHA株式会社というベンチャー企業が合弁会社を設立し、タンザニアでエアコンをサブスクリプション方式で提供するビジネスを展開しています。アフリカでは外国製の安価なエアコンが流通しているのですが、メンテナンスサービスもなく、壊れたらそのままのことが多いそうです。このビジネスモデルが普及すれば、廃棄されるエアコンがなくなるとともに、人々が手軽にエアコンを利用することができます。このように、アフリカには多くの課題があり、その解決のための新たなビジネスのチャンスも多いのではないでしょうか。

 

――今後、ルワンダやアフリカ全体でのビジネスを考える場合、留意すべき点などありますか? 

 

大前 地域によって文化、言語も異なるので、アフリカを一括りにはできないですが、ルワンダの例で言うと、先ほどのコールドストレージ・ジャパンの例もそうですが、ICT技術は日々進化しますので、そのスピードに対応しつつ、ビジネスを展開していく、フットワークの軽さが必要です。このため、アフリカへのビジネス進出はスタートアップが中心です。

 

また、日本とアフリカでは距離がありますし、商習慣も異なります。当然、アフリカのマーケットや商習慣をよく知る人は必要です。そんな時は、日本に留学経験のあるルワンダをはじめアフリカの方はキーパーソンになり得るでしょう。

 

現地で話を聞くと、他国のアフリカへの進出は日本よりもスピードが速いです。日本の企業も積極的にアフリカでのビジネスに挑戦してもらいたいと思います。今年7月20日にはコロナ禍で中止していたアフリカビジネスセミナーをオンラインで再開します。まずはこうしたセミナーに参加してアフリカでのビジネスについて知って頂きたいです。

 

――神戸市のように、今後、アフリカ諸国と連携して事業展開をする自治体も増えそうですね。 

 

大前 各自治体には姉妹都市がありますし、オリンピックの時に各国の選手団を受け入れるなど、さまざまな交流関係があります。ルワンダに関しても、神戸市だけでなく、岩手県の八幡平市が交流を続けています。八幡平市はリンドウの生産地ですが、交流のあるルワンダでの育成栽培に協力し、その花はヨーロッパに輸出されているそうです。また横浜市は、神戸市が取り組む以前からアフリカ地域との経済、文化交流に力を入れています。他にも色々な例があると思いますが、こうした自治体の取り組みが増えていくことで、少しでも日本企業のアフリカへのビジネス進出につながればと思います。

 

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