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退職後、途上国で農場経営へ。ラオス×農業のポテンシャルと課題について

2022/11/21

面積にして日本の本州ほどの国土に、約710万人が暮らすラオス。その南部に広がるボラベン高原は、ラオス有数の農業地帯として知られています。

 

そんなボラベン高原で、2012年より農園を経営しているのが山本農場の山本郁夫さんです。青年海外協力隊やJICAでの農業支援など、途上国での活動経験が豊富な山本さん。なぜラオスで農業を始めたのでしょうか。インタビューを通して、途上国における農業の可能性、農場経営のヒントを探ります。

山本郁夫さん●1955年生まれ。農業機械メーカー勤務を経て、青年海外協力隊隊員としてケニアへ。その後、JICAの農業専門家として東南アジアや南米などの途上国で活動する。帰国後は、アイ・シー・ネット株式会社のコンサルティング部に勤務しつつ、国内で8年間農業に取り組む。その後、同社代表取締役に就任。退職後、2012年よりラオス・ボラベン高原で農場を経営する。

 

ラオス有数の農業地帯・ボラベン高原

標高1000mを超えるラオス南部・ボラベン高原は、熱帯地方に属しながら年間を通して気温が25度前後と冷涼なため、温帯性作物をはじめ、さまざまな農作物の栽培に適した地。タイ、ベトナムなどの大消費地に近いという地の利にも恵まれています。

 

中でも盛んなのが、コーヒーの栽培です。国内9割のコーヒーがボラベン高原で生産され、海外企業の投資による1000ha規模の大農園や加工工場が点在。ほとんどの農家がコーヒー栽培に従事する、この地域を代表する一大産業になっています。他にも、白菜やキャベツなど高原野菜の産地として知られています。

海外資本によるコーヒー農園

 

それにもかかわらず、ボラベン高原には未開発の農地や農業資源も多く、ポテンシャルを十分に引き出せているとは言えません。多くの企業や農家がさまざまな農産物の生産に取り組んでいますが、農業技術、流通ルートの確立、労働者の確保などの課題に直面し、頓挫するケースも。一方で、近隣地域にパクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区の開発が進められるなど、日本企業・日系企業からも注目を集めています。それだけ伸びしろの大きいエリアであることが窺えます。

 

日系企業と連携し、タマネギのシェアNo.1を目指す

山本さんがボラベン高原で農場を始めたのは、2012年のこと。開発コンサルタントとして世界各国で農業支援を行ってきた山本さんは、40代の頃に国内で農業を始めたものの、道半ばにして諦めた過去がありました。やがて定年退職が間近に迫り、かつて果たせなかった夢を叶えるため、ラオスで農業を始めようと決意。

 

「開発コンサルタントをしていた頃、JICAの依頼を受けてカンボジア、ラオス、ベトナムの貧困地帯を調査しました。3カ国を巡ったところ、もっとも魅力を感じたのがラオスのボラベン高原。農業の発展可能性、ラオスの人々の親しみやすくて大らかな人柄に惹かれました。そこで、これまでの知識と経験を生かし、ボラベン高原でもう一度自分が目指す農業に挑戦しようと考えました」

 

こうしてラオスに渡り、42haの農地を借り受け、ひとりで農場経営を始めた山本さん。この地で目指したのは、環境に優しい循環型農業でした。

循環型農業実施のため、現在でも牛の放牧を行っている

 

「肉牛を放牧し、牛糞でたい肥を作り、作物に還元する“耕畜連携”の農業を始めました。当初はコーヒーの栽培から始めましたが、やがて日本企業と業務提携し、イチゴの試験栽培を始めることに。日本から来た技術者とともにイチゴを生産し、ラオスでも大きな評判を呼びました。ただ、貿易協定や検疫の問題に阻まれ、タイやベトナムへの輸出は叶いませんでした。その後、新型コロナウイルスの影響により、残念ながら提携企業が撤退を余儀なくされたのです」

 

そして現在、力を入れているのはタマネギとタバコ。どちらも日系企業と連携しながら、取り組みを進めています。

タマネギの苗づくりはビニールハウス内で実施

 

2021年から試験栽培を始めたタマネギは、日系企業であるラオディー社の依頼がきっかけ。今後の主力作物になると山本さんは期待しています。ラオディー社は、ラオスで高品位なラム酒の生産に成功し、ヨーロッパの展覧会で金賞を受賞するなど実績のある企業。ビエンチャン近郊に農場と醸造所を持っています。日本の大手食品会社の依頼を受けた同社が乾燥タマネギの仕入れ元を探していたところ、山本さんに行き着いたそうです。

 

「ラオスではタマネギの生産量が少なく、国内で消費するタマネギの多くはベトナムや中国から輸入しています。そこで、まずは周辺の農家を巻き込んで規模を拡大し、ラオス国内のマーケットを見据えた生産を考えています。日本に輸出するのは乾燥タマネギですから、形や大きさが不揃いなB品を加工しても問題ないので、将来的にはラオディー社と協力して国内マーケットの余剰分やB品を加工輸出するようにしたいと考えています」

 

昨年、初挑戦した試験栽培は、病害により失敗。しかし、提携しているラオディー社の士気は下がることなく、今年、山本農場は2haのタマネギ畑を開墾しました。今後は、10haまで拡大することも検討しています。

 

一方、タバコの生産を依頼したのは、パイプなどの喫煙具やタバコを輸入・製造・販売する浅草の柘製作所。現在の作付面積は1haですが、長い目で生産量を増やしていく考えです。

 

生産したタマネギとタバコは、どちらも提携する日系企業が買い上げてくれるため、物流ルートを開拓する必要はないと山本さん。

 

「個人で物流ルートを開拓するのは大変ですが、日系企業と組めばその苦労はありません。日本でも個人で小規模な農業を始めると、農協に農作物を収めて生活できるようになるまで3年はかかります。農協のような組織ができあがっていないラオスのような国では、現地の市場で販売するのが関の山。日系企業と手を組むのは、販売ルートを確保するうえで大きなメリットです」

 

日系企業と連携するメリットは、他にもあると言います。

 

「農業は、人材・物・資金の3つが不可欠。私も当初はひとりで農場を運営していましたが、徐々に現地の日系企業の方々との人間関係が構築され、そこからイチゴの栽培が始まり、現在のラオディー社や柘製作所との取り組みに広がりました。日系企業と連携し、お互いにできること・できないことを補完しながら農業に取り組むほうが、最終的な成功に結び付きやすいと実感しています」

 

途上国人材とともに働くことの課題

現在は、住み込みの家族を含む4名を雇用している山本農場。農繁期にはその都度、労働者を確保し、日本で技能研修を受けたサブマネージャーがハブとなって労働者を仕切っています。しかし、労働力はまだまだ不足しているとのことです。

山本農場にて住み込みで働いているラオス人家族と山本さん

 

「人材・物・資金の中でも、特に重要なのは人材です。ラオス人はどちらかというと労働意識があまり高くなく、1日来て、翌日からはもう来なくなり……の連続。もちろん勤勉な方もいますが、コーヒーの収穫時期になると『来週から来ないよ』と言われることも。今はコーヒーの価格が高く、その分労働者の待遇も良いため、そちらに移ってしまうのです。

 

都市部の工場などではFacebookなどのSNSを活用した求人を行ったりしているようですが、ボラベン高原は都市部から離れたところにあるので、それも難しいのが現状。収穫時期などの繁忙期には、サブマネージャーが友人や親戚に声をかけることで人を集めていますが、親戚や知人ばかり集めると、いざ冠婚葬祭や行事があるたびに揃って村に帰ってしまうなど弊害も大きい。安定的な人材の確保は大きな課題なのです」

 

山本さんが頭を悩ませる安定した労働力の課題。そこで今後、農場の拡大に必要となってくると考えているのが、しっかりとした技術を身に着け、現地の人たちを上手にマネジメントしてくれる日本人の雇用や育成です。では、どんな人がラオスでの農場運営に向いているのでしょうか。

 

「チャレンジや苦労を楽しめる、フロンティアスピリットに溢れた人ですね。のんびりした国なので、腹の中にしたたかなものを持ちつつ、人と鷹揚に接することができるタイプが望ましいでしょう。農業経験があるに越したことはありませんが、もし一から始めるなら強い意志が必要だと思います」

 

核となる農産物を見出し、現地に根差した農場経営を

現在、山本農場では事業拡大のため、農業技術者やマネジメント能力に長けた人材を募集中。

(問い合わせ先:山本ファーム メールアドレス:yamamotoikuojp3@gmail.com)

 

「農業の経験があり、途上国開発や農業開発に熱意を持つ人、ビジネスを成功させようという起業家精神のある人に来ていただけたらと思います。ラオディー社の社長と日頃から話しているのは、『高い報酬を払えば、日本から技術者を送り込んでもらえるかもしれない。でもそういう人では失敗するだろう』ということ。ああでもない、こうでもないと現地で試行錯誤しながら農業を行い、利益を出すための施策を考えることができる人が、成功するのでは」

 

持続可能な地域農業を実現するには、まだまだ課題の多い途上国。ラオスをはじめとする途上国で日本人が農場経営を行う場合、必要だと考えられる条件を山本さんに伺いました。

 

「大切なのは、中核となる農産物を見出し、現地に定着して農場経営を行うことです。日本の商社が何億円もの資金をつぎ込んだものの、撤退を余儀なくされたケースは少なくありません。現地を時々訪れる出張ベースではなく、その地に定住し、責任者として気概を持ってビジネスに取り組まなければ成功は難しいでしょう。中南米では日本人が移住し、苦労しながら農業にいそしんだ結果、現地の農業発展に寄与しました。日本政府も官民連携の支援策を出していますが、現地に根差して農業を行う人を増やし、成功事例を積み重ねていかなければならないと思います」

 

ラオスに腰を据えて約10年、トライエンドエラーを繰り返しながらも、地道に農業経営を続ける山本さん。そんなあきらめずに前を見続ける姿勢にこそ、成功のヒントが隠されていると言えそうです。

 

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