日本は世界で最も高齢化が進んでいる国として知られています。しかし高齢化の波は、日本のみならず世界全体に及び、史上最速の速さで進んでいることが国連の最新の発表で明らかとなりました。高齢化先進国である日本の企業は海外をも視野に入れたビジネスモデルを構築したほうが良いかもしれません。
まず、2023年1月に国連経済社会局(UNDESA)が発表した「世界社会情勢報告書2023」の結果を述べましょう。
2021年時点で世界にいる65歳以上の高齢者の人数は約7億6100万人。およそ10人に1人が高齢者に当てはまります。しかし2050年には、この数が2倍以上の16億人に達し、6人に1人の割合になると見込まれています。この傾向を後押ししている要因として、出生率が低下していること、教育を受ける人が増え、健康に関する知識を身に付け、長寿化が進んでいることなどが考えられます。例えば、1950年に生まれた人は平均で46歳までしか生きられなかったのに対し、2021年生まれの人は、それよりも平均で25年も長い71歳まで生き、しかも女性は男性よりも平均で5年も長生きしているのです。
特に高齢者が多くなるのは、東アジアと東南アジア。高齢者の増加の6割以上がこの地域に集中すると見られています。日本は高齢者の割合が最も高い国で、2020年時点で29%が高齢者。2040年には人口の36%が高齢者になると予測されていますが、2050年までに中国や韓国がこの高齢化率を上回る可能性が指摘されています。
また、先進国よりも途上国における高齢化が進むことも予測されており、北アフリカ、西アジア、サハラ以南のアフリカなどは、今後30年間で高齢者の数が最も速く増加するとのこと。
さらに、65歳以上の高齢者の中でも80歳以上の割合が急速に増加していると同報告書は伝えています。
高齢化社会で生まれるビジネスの可能性
健康で経済的な不安もなく暮らせる高齢者がいる一方で、病気になったり貧困で苦しんでいたりする高齢者もいます。世界で進む高齢化は、保健や医療を平等に受けられる制度を整えるなど、不平等をなくす政策がなければ、高齢化社会でも格差が広がると報告書では指摘されています。
他方、高齢化の世界で、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性もあるでしょう。特に日本は50年以上も前の1970年に高齢化社会に突入した、いわば高齢化社会の先進国。これまでの社会の実情と経験から、あらゆるシニア向けビジネスを率先して進めていく存在になるかもしれません。例えば、インドでは2030年に約3億人が高齢者になると予測されており、高齢者ケアのニーズが拡大すれば、日本企業がインド市場へ参入する可能性もあり、日本で培った介護ビジネスのノウハウが生きてくるという見方もできます。
高齢化でニーズが生まれるのは介護だけではありません。例えば、日本ではリタイア前後の60代前半の男性と、子育てが落ち着いてきた50代後半の女性が多く利用するという「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」というコミュニティサイトが存在します。アクティブなシニア世代を中心に会員数は35万人まで増えており、こうした世代は消費意欲が高く、金銭的余裕もあるため、市場としても十分な大きさがあります。
逆に、高齢者がサービスを供給することも考えられるでしょう。イギリスの格安航空会社・イージージェットでは、45歳以上のミドル・シニア層のキャビンアテンダントの採用を積極的に実施。パンデミックによって労働力不足が顕著となっている航空業界では、人生経験を積んだミドルやシニア層に着目しているそうです。
シニア層の人材を活用するビジネスや、配偶者を亡くして一人で暮らす「おひとりさま」に向けたサービスなど、先進国で生まれたビジネスが途上国にも広がることが考えられます。世界で急速に進む高齢化を見据えたビジネスモデルを検討するときかもしれません。
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