人で知るSDGs ✕ ビジネス

次世代観光ビジネスの最重要ワード! 「観光デスティネーション」とは【IC Net Report】ドミニカ共和国・青木孝

2023/3/27

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、アイ・シー・ネット株式会社のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、ドミニカ共和国をはじめ中南米での観光ビジネスに造詣が深い青木 孝さんです。

 

中南米でも、コロナ禍で観光に関わる状況が一変。多くの観光地が危機的な状況に直面し、従来の「消費型観光」から「持続可能な体験型観光」への変革が迫られています。例えばドミニカ共和国の場合、いまだ多くは従来型のリゾート観光が目的ですが、一方でアドベンチャーツーリズムやエコツーリズムなど、地域の環境・経済・文化にも配慮した観光への意識が広がりつつあり、「脱」消費型観光への動きが高まっていると言います。いわば新たな「観光デスティネーション(観光地)」づくりともいえるこの動き。そこで青木さんに、こうした地域全体を巻き込んだ持続可能な観光開発について伺いました。

●青木 孝/シニア向け旅行会社でのツアー企画や、青年海外協力隊でカリブの国・セントルシアのエコツーリズム開発支援、ドミニカ共和国のJICA事務所で観光分野の企画調査員などを務めた後、アイ・シー・ネットに入社。シニアコンサルタントとして、15年以上南米カリブ地域でJICAの地域観光開発のプロジェクトに従事。現在はアルゼンチンで日本の一村一品運動を模範にした地域開発プロジェクトを総括している。

 

観光デスティネーションの創造には「官民学」の連携が重要

そもそも外国資本によるリゾート観光開発や利便性が主役だった従来型の観光モデルは、アクセスの良さなど利便性、快適性に主眼を置き、リゾート地でほぼ完結するものでした。

 

「それだと周辺地域に観光客が訪れず、置き去りにされてしまいます。リゾート施設による、オールインクルーシブと呼ばれる囲い込み型スタイルや、ビーチの独占なども課題となっていて、これらがリゾート地と周辺地域を隔離する現状に拍車をかける要因になっています。そこで今、急務となっているのが、より持続可能な観光への転換。つまり、地域とより関わりのある観光、より地域へポジティブな影響を与える観光、そして地域にある魅力的な土地・文化・人を巻き込んだ観光が求められているのです」(青木さん)

 

こうした課題の解決のため、現在進んでいるのが、民間だけでなく官民学が協力して観光開発を主導し、地域資源を活用した、地域主体の観光デスティネーションを創造していこうとする動き。

 

「地域と観光客の関係性を継続して作るマーケティングを徹底して行った上で、地域内のリソースを有機的につなげ、アクター間の関係性を緊密にすることで競争力を高めていこうというものです。それには、地域のコミュニティレベルでの観光ビジネスも不可欠となります。

 

私が取り組んだ事例で挙げると、女性グループによる、地元で採れるカカオを使った手作りチョコレート体験などの農園観光や、地元の若者が楽しんでいた川下りをカヤックツアーとして商品化した取り組みなどです。集客面においても、これまで仲介業者に頼っていたのを直接マーケットに発信できるSNSを活用することで、大きく躍進しています。

 

本来、観光はすそ野の広い産業です。観光施設やホテル・飲食業から、お土産、地元産品、さらに交通機関など、観光客はさまざまな消費を観光地で行い、その結果、地域経済が潤うというビジネスモデル。とりわけ途上国では、観光に大きく依存していく傾向があります。だからこそ、観光と地域・地域産品・地元の人がうまく結びついて、より深みのある観光デスティネーションにしていく努力が重要だと思います」(青木さん)

 

テクノロジーを活用した「観光デスティネーション」の再構築が急務

一方、日本国内に目を向けると、コロナ禍への対応と短期的なリカバリーに向けた支援が優先されている感があります。今こそ、より長期的な視点に立ち、今後、観光とどのように付き合っていくか、観光デスティネーションを明確にし、進むべき方向を整理しておく必要があると青木さん。

 

「ドミニカ共和国では、改めて観光産業の重要性の認識が広がり、国家経済のけん引役としての役割を以前にも増して担っています。それには地域社会の巻き込みも欠かせないということで、地域社会の側からも観光開発に積極的に関わっていこう、モノ申していこうという流れが出てきました。また、地域の多様な関係者がこれまでの関係を超えてつながり、従来とは異なるレベルでマーケットとも直接結びつくなど、さらに広域での取り組みも生まれています。

 

SNSをはじめ、新たなテクノロジーの活用はこうした地域・レベルを超えた関係性の構築に親和性が高いので、単に観光客と観光地だけでなく、住む場所と行く場所の双方で多様な関係が生まれる可能性があります。これまで障害となっていた言葉の壁や時間の壁、距離の壁など様々な障壁もテクノロジーによって乗り越えられるようになってきました」(青木さん)

 

最近は日本でも観光を含めた「関係人口」の増加に力を入れ、地域振興とも関連させることで、リピーターの獲得だけでなく、訪問後もその地の産品を消費したり、将来的には移住をも視野に入れた取り組みを進めている地域もあります。

 

「観光の本質である“人とのつながり”と“新たなテクノロジーによる持続的なつながり”こそが新たな観光デスティネーションの創造に重要」との青木さんの言葉からも窺えるように、多様な“繋がり”の構築こそが、持続的な観光をつくる上で不可欠なのかもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。