伊達淳一のレンズパラダイス『CAPA』2022年9月号 Other Shots
伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2022年9月号の「レンズパラダイス」Other Shotsは、16mmをカバーしながらF2.8の明るさと小型軽量化を実現した「シグマ 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary」と、カメラグランプリ2022レンズ賞を受賞した大口径標準レンズ「ソニー FE 50mm F1.2 GM」の描写性能をチェックしてみた。
後編では、ソニーのプレミアムレンズ “Gマスター” 初の開放F値1.2を実現しつつも小型軽量化した「FE 50mm F1.2 GM」の描写を実写作例で見ていこう。
目次
- シグマ 16-28mm F2.8 DG DN | Contemporary 実写チェック
- ソニー FE 50mm F1.2 GM 実写チェック
ソニー FE 50mm F1.2 GM
スペック
[マウント] ソニーEマウント [最大径×長さ] φ87×108mm [重さ] 約778g [レンズ構成] 10群14枚 [最短撮影距離] 0.4m [最大撮影倍率] 0.17倍 [絞り羽根枚数] 11枚 [フィルター径] φ72mm参考価格 279,400円 (税込)
F1.2とは思えないほど解像とコントラストが高い
東を向いて整然と咲いているヒマワリを後ろ側から撮影。少し奥のヒマワリにピントを合わせ、50mm F1.2ならではの被写界深度の浅さを生かし、主題のヒマワリを浮き立たせてみた。F1.2開放では明るすぎてシャッター上限を超えてしまうので、C-PLフィルターをNDフィルター代わりに使っている。F1.2開放とは思えないほどピント面の解像とコントラストが高く、ボケ味も素直だ。
近接撮影でも解像低下やにじみなどは見られない
近接撮影では、ピント面ににじみが出るなど光学性能が低下するレンズもあるが、このレンズは開放がF1.2であるにもかかわらず、近接撮影でもピント面の解像やコントラストの低下はほとんどなし。被写界深度は針のように浅く、その前後をボワッと大きくぼかせるのが特徴だ。
口径食が少なく色付きや二線ボケも感じない
自宅近くの遊歩道のヒマワリを、「α7R IV」のシャッター上限1/8000秒で撮影。電子先幕で高速シャッターで撮影するとボケが欠けてしまうので、絞り開放で1/1000秒以上で撮影する場合は、メカシャッターもしくは電子シャッターで撮影するのがポイント。F1.2開放でも口径食は大きくなく、背景がグルグルと渦を巻いた感じもしない。時計の文字盤のボケ方も色づきや二線ボケ感もなく自然だ。
木漏れ日のボケの輪郭に縁取りがなく滑らか
絞り開放の口径食をチェック。木漏れ日のボケは、輪郭がとろけるように滑らかで、縁取りはほとんど感じない。F1.2レンズは作れないと囁かれていたEマウントだけに、周辺光量などどこか無理があるのでは? という懐疑的な目で見ていたが、大口径レンズとしては口径食も少なめで、葉っぱや水面などに反射した光点以外は非常に素直なボケだ。
微ボケにわずかに硬くなりやすい領域がある
ナノハナやチューリップの茎は、中途半端にぼけるとうるさい二線ボケになりやすい。このレンズも、ピント面の解像とコントラストが高いぶん、微ボケのコントラストが高く、ある領域は少しボケが硬く感じる部分もわずかにある。しかし総合的にはうるさい微ボケにはならない印象だ。もちろん、距離が離れた前景や背景はボワッとぼけてくれるので、背景を単純化したいときにも威力を発揮する。
絞り開放でも周辺部の点像の崩れはごく軽微
広角~標準の大口径レンズの描写で課題となるのは、絞り開放で遠景を撮影したときの周辺解像、特に星景撮影では、周辺まで点を点に写せる点像性能が重視される。そうした性能をテストするのに最適なのは都市夜景。周辺の点光源がちゃんと点に写るか? ビルの窓枠やネオンなど高輝度部分に青ハロなどにじみが出ないかなどがポイントだ。このレンズはF1.2開放時にごく周辺でコマ収差で点光源が羽根を広げるが、その量は少なめ。F2まで絞れば大幅に改善する。
微ボケ領域のぼけ方は滑らかで自然
横浜関内の猫カフェ Miysisにて。F1.2の明るさは、それほど明るくない室内でシャッタースピードを落とさず感度を抑えて撮影できるので、大きな魅力だ。拡大箇所は、動物瞳AFでピントを合わせた目とは反対側の目付近だが、目や毛並みのぼけ方を見れば、このレンズのボケの滑らかさが十分わかると思う。ソフトフォーカスレンズのようににじむような後ボケではないが、必要以上にざわつくことはなく、自然な奥行き感だ。
ヒゲや目の反射に色収差はほとんど見られない
横浜関内の猫カフェ Miysisにて。先ほどのカットよりももう少し距離が離れた状態での撮影だが、F1.2開放では中望遠レンズのように被写界深度が浅く、画角は広がっても背景をボワッと大きくぼかせる。それでいて、ピント面はキリッとした描写で、猫のヒゲや後方の目の反射を見ても色収差は感じない。猫の瞳の反射に少しパターンが出ているが、目の曲面でレンズ効果が出ているためと思われる。
多くのシーンで柔らかいボケ描写が楽しめる
佐倉ふるさと広場のチューリップフェスタにて。右上の光点ボケは沿道のクルマの金属に反射した光で、こうした金属など鏡面反射の光点ボケには少し縁取りが現れることもある。それ以外はフワッと柔らかく、とろけるようなボケ描写が楽しめる。周囲の状況を感じさせつつも、細かな部分までは見せたくないときに威力を発揮する。
ボケがうるさくなりやすいシーンでもスムーズにぼける
F1.2と明るいとはいえ、中望遠~望遠レンズではないので、ポートレート撮影距離では、背景がグラデーションになるような大ボケにはならず、前後のモノの形がしっかりわかる。それだけに中途半端なボケがうるさくなりやすいレンズだと、撮影する被写体やシーンを選ぶが、このレンズは特にクセのないスムーズなボケ味なので、どんなシーンも安心して使えるのが魅力だ。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。