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カメラグランプリ2019受賞製品それぞれにドラマがあった!開発者が語る隠れたエピソード

令和になって初めての「カメラグランプリ2019」の贈賞式が2019年5月31日、東京・築地の聖路加ガーデンで開かれた。この日も受賞5社の関係者が喜びの声と、製品を世に送り出すまでの隠れたエピソードを語った。

 

カメラグランプリ2019贈賞式

 

■カメラグランプリ2019 大賞「パナソニック LUMIX S1R」

カメラグランプリ2019 大賞「パナソニック LUMIX S1R」

当初は小型軽量を目指す意見が大半だった

パナソニックがカメラ事業に参入したのは2001年。18年かけて初めてグランプリの栄誉を手にした。「副社長をはじめルミックスOBから多くの喜びの声が寄せられている」とパナソニック株式会社 アプライアンス社 スマートライフネットワーク事業部 イメージングビジネスユニット ビジネスユニット長の山根洋介さんは言う。同社の中でカメラ事業はあまり目立った存在とはいえなかったが、この受賞をきっかけに「社内的にも注目されるようにしていきたい」と意気込む。

 

カメラグランプリ2019贈賞式:パナソニック

パナソニック株式会社アプライアンス社・山根洋介さん(右)と、カメラグランプリ2019実行委員長・猪狩友則さん(アサヒカメラ編集部)

 

同ユニット システムカメラ開発総括担当の新谷大さんが、LUMIX S1Rの開発に着手したのは3年ほど前。当時はソニーαの勢いが凄く、社内的には小型軽量を目指す意見が大半だったという。「αのブランド力に対し、こちらは洗濯機、冷蔵庫の白物家電と動画カメラのイメージ」が強く、同じ土俵で勝負してもしょうがないと考え、「プロ写真家が仕事の道具として使えるカメラを作り、それでブランドを作っていこうと決めた」。

マイクロフォーサーズの開発で10年積み上げてきた技術的な自信がその決断の背景にあったようだ。

 

カメラグランプリ2019贈賞式:パナソニック

パナソニック株式会社アプライアンス社・新谷大さん

 

 

■カメラグランプリ2019 レンズ賞「ソニー FE 24mm F1.4 GM」

カメラグランプリ2019 レンズ賞「ソニー FE 24mm F1.4 GM」

レンズメーカーとして評価されることを目標にしてきた

「カメラ事業に対しては皆さんが思う以上に真剣に取り組んでいます」とソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 デジタルイメージング本部 第2ビジネスユニットの長田康行さんは話す。

 

カメラグランプリ2019贈賞式:ソニー

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社・長田康行さん(右)

 

ソニーがレンズメーカーとして評価されることを目標としてきたので「この受賞は励みになる」と話すのは同社・岸政典さんだ。「光学性能に妥協せず、どれだけ小さく作れるか」を目標に、内製の非球面レンズを最前面と最後面に配置するという開発難易度の高いレイアウトを採用した。それにより中心から周辺まで、光学収差が取り除け、これまでにない開放からの解像感が実現できた。

もっとも難関だったのは高性能化で重くなったフォーカスレンズを動かすAFのアクチュエーターの開発だった。自社の技術を投入し、高速かつ静音で動かすことができた。

 

カメラグランプリ2019贈賞式:ソニー

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社・岸政典さん

 

 

■カメラグランプリ2019 あなたが選ぶベストカメラ賞「オリンパス OM-D E-M1X」

カメラグランプリ2019 あなたが選ぶベストカメラ賞「オリンパス OM-D E-M1X」

できるわけがないと思われた技術を実現させた

オリンパスの受賞は6年連続であり、「オリンパスらしいカメラを出し、7年連続を目指す」とオリンパス株式会社 映像事業担当役員 映像事業長の杉本繁美さんは連続受賞記録の更新に挑む。

 

カメラグランプリ2019贈賞式:オリンパス

オリンパス株式会社・杉本繁美さん(右)

 

オリンパスではこれまで小型軽量を主眼に置いた開発を行なってきたが、当初、OM-D E-M1Xではその課題を横に置いたと同社映像開発本部長の片岡摂哉さんは明かす。あるスポーツカメラマンから「決勝戦で使うカメラは前日少しでも動きがおかしいものは選ばない」とカメラへの信頼性の重要性を教わったそうだ。

「マイクロフォーサーズ機に10年取り組み、次の10年続けるには新しいチャレンジが必要だろう」と考えた。OM-D E-M1 Mark IIに寄せられたポジティブなフィードバックを元にしつつ、信頼性の高いカメラを作ることを託された開発者たちは、果敢にすべてのテーマをクリアすべく新たな技術を見い出してきた。

「7.5段の手ぶれ補正ができるジャイロセンサーや、従来のアルゴリズムではなくディープラーニングを使ったAFなど、最初は『できるわけない』と思う技術を次々と提案してきた。このカメラはうちのベテラン技術者の反骨心と根性の結晶です」

 

カメラグランプリ2019贈賞式:オリンパス

オリンパス株式会社・片岡摂哉さん

 

 

■カメラグランプリ2019 カメラ記者クラブ賞「リコー GR III」

カメラグランプリ2019 カメラ記者クラブ賞「リコー GR III」

フラッシュをなくしたことについては、かなりの議論があった

「社内では当初からカメラ記者クラブ賞狙いだったようで、予定通り獲れました」とリコーイメージング株式会社 代表取締役社長の高橋忍さんは開口一番話し、会場の笑いを誘った。販売も好調で、ベトナム工場ではフル稼働で生産を続けているという。

 

カメラグランプリ2019贈賞式:リコー

リコーイメージング株式会社・高橋忍さん(右)と、カメラ記者クラブ代表幹事・福田祐一郎(CAPA編集部)

 

「開発の目標は2005年に発売したGRデジタルのサイズを目指すことを決めた」と株式会社リコー Smart Vision事業本部 カメラ事業部 商品企画部部長の岩崎徹也さんは言う。2013年にGRのメンバーが大幅に変わり、GRデジタルが好きで入社した若手技術者など強力な仲間が増えたそうだ。

「心が動いた瞬間に撮れることがGRの変わらない哲学。撮影に必要なこと以外の余分な機能を外した。なかでもフラッシュをなくす時はかなり議論がありました」

 

カメラグランプリ2019贈賞式:リコー

株式会社リコー・岩崎徹也さん

 

 

■カメラグランプリ2019 カメラ記者クラブ賞「タムロン 28-75mm F/2.8 Di III RXD」

カメラグランプリ2019 カメラ記者クラブ賞「タムロン 28-75mm F/2.8 Di III RXD」

反対の声を押し切っての開発だった

タムロン株式会社 映像事業本部 執行役員本部長の沢尾貴志さんは「2017年にこの事業を担当して初めて企画した思い入れの強い製品」と話す。半年先までバックオーダーを抱え、増産に努めている最中だ。

 

カメラグランプリ2019贈賞式:タムロン

タムロン株式会社・沢尾貴志さん(右)

 

「気軽に持ち歩ける大口径」をコンセプトに開発を始めたと、同社品質管理本部 品質保証部 商品評価課の亀山基輝さん(開発当時は映像事業本部商品企画部に在籍)は言う。28mmからのスタートには営業など社内から反対の声が強く寄せられたが、企画部が押し切った。「当社には28-75mm F2.8で15年以上売れているレンズがあり、調査したところ、小型軽量で明るいことが支持されていることが分かった」という。

「シンプルな光学設計とし、従来のように積み上げるのではなく、引き算の設計だった。到達点がなく、設計者としてはずっと悩み続ける作業でした」と光学開発本部 光学開発一部 光学設計課の阿部真悟さんは話した。

 

カメラグランプリ2019贈賞式:タムロン

タムロン株式会社・亀山基輝さん(左)、松橋一樹さん(中央)、阿部真悟さん(右)

 

 
〈文〉市井康延 〈写真〉伊藤亮介、市井康延