カメラ記者クラブは、「カメラグランプリ2022」の贈呈式を2022年6月1日に都内で開催した。
「写真の日」である6月1日の前後には、写真に関連するさまざまなイベントが開催される。「カメラグランプリ」の贈呈式もそうした行事のひとつだ。昨年は新型コロナの感染症対策から開催が見送られたが、今年は東京都写真美術館を会場に、リアル開催された。
「カメラグランプリ2022」大賞とあなたが選ぶベストカメラ賞を受賞した「ニコン Z 9」をはじめ、レンズ賞の「ソニー FE 50mm F1.2 GM」、カメラ記者クラブ賞の「キヤノン EOS R3」「ニコン Z fc」が勢揃い。贈呈式には、各賞を受賞したメーカーの代表者と、選考委員、雑誌代表者が集まった。
カメラグランプリ実行委員長の永原耕治さん (『風景写真』編集長) が、各賞の受賞理由と選考経過を説明した。
TIPAのチェアマン、トーマス・ガーヴァースさんから、受賞を祝福するビデオメッセージも届いた。TIPAとカメラ記者クラブは15年前から協力体制にあり、カメラグランプリとTIPAアワードの選考委員として、それぞれの選考に参加している。
カメラ映像機器工業会 (CIPA) 事務局長の伊藤毅志さん。「ウクライナの戦場から、スマホで撮られた画像がSNSにアップされて凄惨な状況が伝わってくる。昔は勇敢な報道写真家が厳しい状況を伝えていたが、技術の進歩をそうした部分でも感じてしまう。できれば戦場ではなくスポーツの競技場など平和なところで使われることを願っている」と社会状況を交えてコメントした。また、CP+2023のリアル開催に向けて、努力していることも説明してくれた。
大賞 / あなたが選ぶベストカメラ賞「ニコン Z 9」
賞状とトロフィーを受け取った株式会社ニコン 映像事業部 UX企画部 部長の大石啓二部さん (右) は、「非常に名誉ある賞を2つもいただくことができた。関係者やニコンを支えてくれているファンの皆様の力強い支援のおかげ」と喜びを述べた。
メカシャッター非搭載は断腸の思いだった
株式会社ニコン エグゼクティブ・フェロー 映像事業部開発統括部長の村上直之さんが、開発秘話を披露。感性レベルで満足できるように目指したファインダーへのこだわりや、メカシャッター非搭載は断腸の思いだったことを話してくれた。また、コロナ禍でスポーツイベントが自粛され、十分に実写データを集ることができなかったため社員を被写体にしたものの、動きにキレがなかったとのこと。「プロの撮影にはプロの被写体が必要だとあらためて感じた」という体験談も語られた。
株式会社ニコンと株式会社ニコンイメージングジャパンの皆さん。
レンズ賞「ソニー FE 50mm F1.2 GM」
レンズ賞を受賞したソニーを代表して、ソニー株式会社 イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部 レンズシステム事業部 事業部長の岸政典さん (右) が賞状とトロフィーを受け取った。αシステムで初めてのF1.2レンズということで、非常に気合いを入れて企画・開発に臨んだことや、こだわったMFの操作性も評価されたことが個人的に嬉しいという想いが語られた。
技術開発の難易度は想像以上だった
開発秘話を披露してくれたのは、イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部 商品技術センター コア技術第1部門 部門長の宮井博邦さん。小形軽量と快適なAF、心地よいフィーリングという部分と、高い解像性能とボケ描写の両立に苦労があったことを語った。被写界深度の浅いレンズのため、高度な制御が必要で、想像以上に技術開発の難易度が高かったのだそうだ。
ソニー株式会社とソニーマーケティング株式会社の皆さん。
カメラ記者クラブ賞・技術賞「キヤノン EOS R3」
キヤノンを代表して、キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業本部 ICB開発統括部門 統括部門長の浄見哲士さんが、賞状とトロフィーを受け取った。視線入力AFを本格的なプロフェッショナル向けの機種に搭載し、それが専門誌の記者に選出されたことを光栄に思っていることが語られた。北京オリンピックで評価されたことも大きな励みになっているということだった。
フィルム時代に視線入力を開発した重鎮たちの声が力になった
イメージコミュニケーション事業本部 ICB開発統括部門 ICB製品開発センター 部長の清田真人さんが開発秘話を披露。視線入力AFの搭載には、フィルム時代に視線入力を開発した重鎮たちを説得するのが大変だった一方、重鎮たちが当時の技術の生の声を届けてくれたことが完成にこぎ着ける力にもなったと、社内でのやりとりを語ってくれた。
また、東京オリンピックの開催が1年延びたことで、なんとかオリンピックで使ってもらおうと開発メンバーが団結して頑張ったことを紹介。2021年の6月頃に行われたオリンピック投入への品質確認会に遅れることなく、期待された性能を確認できたことが、製品チーフとして嬉しかったとのこと。
キヤノン株式会社、キヤノンマーケティングジャパン株式会社の皆さん。
カメラ記者クラブ賞・企画賞「ニコン Z fc」
大賞、あなたが選ぶベストカメラ賞を受賞した「Z 9」に続き、株式会社ニコンの大石啓二さんが受賞の喜びを語った。「Z 9」はかなり振り切った企画だったが、「Z fc」も別のベクトルで振り切った企画だったとのこと。ニコン製品に接点の少なかった若年層や女性にもぜひこのカメラを楽しんでほしいという願いを込めたそうだ。スマートフォンでは体験できない操作ギミックや、ファインダーを覗いて切り取る体験を楽しんでもらえている手応えを感じているという。
“軽いのは正義”と受け入れられた
「Z 9」と同じく、株式会社ニコンの村上直之さんが開発秘話を披露してくれた。フィルム一眼レフの「ニコン FM2」をオマージュした「Z fc」。「FM2」とは細かいところが違うという意見もあるが、質感や操作感は「FM2」のDNAをしっかり引き継いでいこう思いで開発したそうだ。
試作初号機が思った以上に軽くて焦ったが、“軽いのは正義”ということで、社内でも受け入れられたこと、革の張り替えサービスが多くの人に使ってもらえていること、持って歩くだけでも楽しいといった意見もあって、開発者として嬉しい限りだと語った。
40回目を迎える2023年の「カメラグランプリ」に期待
最後に、主催者であるカメラ記者クラブを代表して、代表幹事を務めている柴田が挨拶させていただいた。カメラグランプリは、来年40回目を迎える。世界的には半導体不足をはじめ、部品調達や物流の混乱、さらには燃料費の高騰など、さまざまな問題が山積みだが、どんなカメラがやレンズが登場するのかを期待しているユーザーがたくさんいる。そういった人たちの期待をいい意味で裏切る素晴らしい製品を作り続けて欲しい。