機材レポート

【ニコン歴代カメラ】ニコン SP –操作性が格段に向上した最上位モデル

1917年から2017年に至るニコン100年の歴史はカメラだけでは語れない。双眼鏡、顕微鏡、レンズ、測定・検査機器、測量機、半導体露光装置(ステッパー)、その他さまざまな光学製品やその応用技術から成り立っている。また、それは技術者のたゆまぬ研究・開発努力によって構築されてきたことは言うまでもない。ここでは、その長い道のりの第一歩から順を追って見ていく。

 

フレームが切り替わるユニバーサルファインダーが秀逸 操作性が格段に向上した最上位モデル(since1957)

 

 

1954年のライカM3の発表でいくつかの先進的なメカニズムが出現し、その一部は急きょニコンS2に盛り込まれたが、多くのものはすぐには対応できなかった。その後技術開発を重ね、ライカM3に匹敵する高性能を備えて1957年に出されたのが、ニコンSPである。1軸不回転のシャッターダイヤル、自動復元式のフィルムカウンターなどが新たに盛り込まれ、更に28ミリから135ミリまでのレンズに対応したユニバーサルファインダーを組み込んで、ニコンSシリーズの最高級機となった。

残念ながら、ライカM3のようにレンズ交換により自動的にフレームが切り換わる機能はないが、 M3にはない広角用のファインダーも組み込んだことは評価されるべきだろう。

もう一つ、ニコンSPがライカM3を超えたといえるのは、モータードライブの装着を可能とした点である。裏蓋取り外しが可能なところを利用し、いわば交換裏蓋の形でフィルム巻き上げ用のモーターを収めたアクセサリーを装着することにより、電動の巻き上げを実現したのだ。そのためにはボディ側の巻き上げ軸にモータードライブ側の軸に結合するカップリングを設け、またモーター側からシャッターをレリーズするための仕掛けを用意する必要がある。最初はこのような仕掛けをニコンS2に施し、S2Eとしてごく少数が製造されたのだが、ニコンSPでは標準仕様として組み込まれた。これは一眼レフのニコンFにも受け継がれ、報道用のカメラとしての地位を確立する大きな原動力となった。

 

 

ニコンSPの特徴

ニコンS2で実現したレバー巻き上げ、クランク巻き戻しに加え、1軸不回転となったシャッターダイヤルには外付けの露出計が連動する。フィルムカウンターは自動復元になり、セルフタイマーも内蔵された。しかし、なんといってもSPを特徴づけているのは28~135ミリの6種類のレンズに対応するユニバーサルファインダーだろう。

 

 

 

シリーズ初となるセルフタイマー

新たに内蔵されたセルフタイマーは、他の多くのカメラと同様にボディ前面のレバーを倒してセットし、レバー裏にある小ボタンを押してスタートさせる。

 

 

デザインが洗練された左右の軍艦部

シャッターダイヤルが一軸となり、フィルムカウンターが自動復元となったため、軍艦部のデザインはすっきりした。シャッターボタンの前方にあったARレバーは、S2のときにボタン周囲のリングに変更されている。

 

シンクロの調整はシャッターダイヤルで行うようになり、巻き戻し軸周囲のダイヤルは、ファインダーフレームの切り換えになった。

 

 

モータードライブ連結用のカップリング

裏蓋を開けると、巻き上げスプールの下に溝を設けた巻き上げ軸が突出しており、そこにモータードライブの軸が連結する。

 

 

1軸不回転式になったシャッターダイヤル

シャッターダイヤルは、1軸不回転の形式となった。S2までのように速度変更時に持ち上げる必要はない。速度目盛も倍数系列で等間隔になり、これによって外付けの露出計が連動するようになった。露出計はアクセサリーシューに前から差し込み、露出計側の小ギアをシャッターダイヤル周囲のローレットにかみ合わせて連動する。シャッター速度のみで絞りには連動しない。速度目盛は、シンクロ同調のモードに対応して色分けされている。

ダイヤル中央の黒い点は、巻き上げレバーが巻き上げられてシャッターチャージされている状態では真横を指し、シャッターを切ると斜め下を指す。シャッターがチャージされているかどうかが一目でわかる仕組みだ。

 

 

2つのファインダーで、28~135ミリをカバー

内蔵ユニバーサルファインダーは、2つのファインダーで構成されている。メインのファインダーは採光式のブライトフレームファインダーで、 50、85、105、135ミリ用の4つのブライトフレームを切り替えて表示する。中央には連動距離計の二重像が見え、これを用いてフォーカシングすると、近距離になるにつれてフレームも視野の斜め右下の方向に動き、パララックスを自動的に補正している。倍率はS2と同じく等倍だ。

 

 

50、85、105、135 ミリ用ファインダー

巻き戻し軸周囲のダイヤルを操作すると、長焦点になるにしたがって表示されるフレームの数が多くなり、最も内側のフレームを使う。

 

28、35ミリ用ファインダー

28ミリと35ミリ用にはボディの左端の実像式ファインダーを用いる。視野全体は28ミリの視野で、 パララックス補正マーク付きの35ミリ用フレームが内側にある。倍率は0.34倍。

50ミリ

 

85ミリ(内側)

 

105 ミリ(最内の黄色)

 

135 ミリ(最内の赤色)

 

 

 

 

チタン幕の採用によって焼け焦げ問題を解決

SPの初期と後期のシャッター幕の違い

初期型のニコンSPのシャッター幕は、それまでのS2などと同じくゴム引きの布幕だったが、後期型ではチタン幕に変更されている。レンジファインダーカメラは一眼レフと違いシャッター幕の前にミラーがないので、うっかりすると太陽の像が幕に結像して、布幕が焼け焦げてしまう心配がある。その意味でもチタン幕への変更は大きな進歩なのだ。もちろん耐久性や耐寒性の向上にも効果がある。

 

 

2005年に発売されたSP復刻モデルでは、作動音の静粛な布幕シャッターを採用している。