1917年から2017年に至るニコン100年の歴史はカメラだけでは語れない。双眼鏡、顕微鏡、レンズ、測定・検査機器、測量機、半導体露光装置(ステッパー)、その他さまざまな光学製品やその応用技術から成り立っている。また、それは技術者のたゆまぬ研究・開発努力によって構築されてきたことは言うまでもない。ここでは、その長い道のりの第一歩から順を追って見ていく。
技術者の執念が実を結び半世紀ぶりに蘇ったSシリーズの王者(since2005)
2005年1月14日、往年の最高級レンジファインダー機SPの復刻モデル(LIMITED EDITION)がニコンから発表された。2000年のS3復刻は、急速なデジタル化へ傾く時代にあって、手作りのクラシックカメラが復活したことで社会的にも反響を呼んだ。当時から「いつかはSPを!」とのリクエストが絶えなかったという。ただ最高級機として当時の技術の頂点を極めたSP復刻は遠い夢だった。しかしながら、あきらめることなく数々の困難を乗り越え、約半世紀ぶりにSPが復活。2,500台の限定生産ながらデジタルカメラ全盛の現代に、昭和の技術者魂が蘇った。
実に気持ちが良い使用感。SPの復刻モデルを触れてみた率直な感想だ。まず、見た目がいい。艶やかなブラック仕上げが施されたボディには、巻き上げレバーはじめ、ところどころシルバーのパーツが混じる。エレガントさと精悍さが同居し、品のあるデザインだ。手にしてみると、Wニッコール付き750㌘の重さが心地よく、ずっと両手で包み込んでいたい気にさせてくれる。
しかし、復刻モデルといえど実用機として発売されたことを忘れてはならない。光学系のコーティングをはじめ随所がリファインされ、安心して快適な撮影を楽しめる。これは、恐る恐る当時の製品を使うのに比べて大きなアドバンテージとなる。
単に往年の名機を復刻しただけではなく、かつて写真を撮ることが神聖な儀式にも似ていた時代の息吹さえ、蘇らせてしまったのだ。
ニコンSP LIMITED EDITIONの特徴
オリジナルのSPには、前期と後期が存在したが、復刻にあたっては実用機としての使いやすさを優先している。例えばシャッター幕は前期の布幕だが、巻き上げレバーの形状などは後期型形状を採用している。純粋な復刻としてみれば、ちぐはぐということになるが、単に昔のものをそのまま復刻するのではなく、実用カメラとして使うために各部を検討し採用したのだ。
巻き上げレバーの形状は指がかりの良い後期型
巻き上げレバーの形状は、オリジナルの後期型形状を採用している。指がかりの部分を大きめにとっており、こちらのほうが使いやすい。
前期型は、やや小ぶりで指がかりの刻みはない。
SPとともに復刻されたWニッコール35ミリF1.8
SPとともに復刻されたWニッコール35ミリ F1.8。オールブラック、 5群7枚構成の大口径広角レンズだ。160㌘と軽量コンパクトで、 SPに装着した際のバランスもよい。
マルチコーティングにより見やすくなったファインダー
2つのファインダーは、SP最大の特徴といえるもの。ただ、1つに絞ったSP3に比べるとやや暗い。復刻モデルではファインダー光学系にマルチコーティングが施されており、オリジナルSPと比べると見やすくなっている。
フィルムカウンター下表示盤は24枚撮りに対応した
表示盤は、使用しているフィルムの長さをセットしておくメモのようなもの。オリジナルSPの時代には24枚撮りフィルムは存在しておらず、表示盤の数字も20だった。同時に、カメラ底面のフィルム感度表示盤も、ASAからISO表記に改められている。
復刻モデルの表示は24枚用に改められている。
本体を演出する数々のアクセサリーが付属
元箱は当時のものを復刻。取り扱い説明書も内容こそ改められているが、表紙デザインなどは当時のまま。Wニッコール35ミリ F1.8、製品番号証明書(カメラ本体、レンズとも0001から2500までの製品番号を連番で刻印。 さらに、レンズキャップ、レンズフード、カメラケース付きで希望小売価格69万円(税別)だった。
金属製フード
やはり金属製のカメラには、金属製のフードでなければしっくりこない。フードはスナップ式で、ワンタッチで着脱可能。取り付けたときのスタイルも一体感がある。
速写ケースとレンズキャップ
本革製の速写ケースは、かつての定番アクセサリー。前カバーは取り外すこともでき、ボディ側のケースだけでも傷防止などには重宝する。
旧マークが刻印された、高品位な金属製キャップ。レンジファインダー機では重要だ。