「1.0型」大型センサーを採用する高性能コンパクトデジカメの先駆けでもある、ソニーのサイバーショットRX100シリーズ。2012年6月に発売された初代モデルRX100から、2019年8月に発売されたRX100VIIまで、すべての発売モデル(※)が“現行商品”としてラインナップされている、稀有なカメラシリーズである(※RX100Vは「DSC-RX100M5」から「DSC-RX100M5A」にモデルチェンジしている)。
今回紹介する「RX100VII」は、2018年6月発売の前モデルRX100VIと同様、35mm判換算で24-200mm相当の高倍率ズームレンズを搭載。そして、新開発のイメージセンサーと最新の画像処理エンジンによって、フルサイズミラーレス一眼カメラ「α9」と同等の、高度なAFやスピード性能を実現している。RX100VIと比較すると、AF速度は0.03秒から0.02秒に短縮。AFエリア数は、像面位相差315点・コントラスト25点から、像面位相差357点・コントラスト425点へと増えている。
「α9」と同等の高速・AF性能を実現
RX100VII最大の特徴は、なんといってもフルサイズミラーレス一眼カメラ「α9」と同等の、高度なAFやスピード性能を実現している点だ。AF/AE追従の連写速度も「最高約20コマ/秒」と同じ。α9と同様に、連続撮影中に最大60回/秒で演算処理を実現し、動きやスピードに緩急のある被写体でも高精度でのAF/AE追従が可能になっているのである。
また、連写中のブラックアウトがなく、肉眼で被写体を捉えているような「ブラックアウトフリー連続撮影」も可能になった。なお、連写速度そのものは、前モデルRX100VIのほうが最高約24コマ/秒と速い。
現在のミラーレス一眼カメラαシリーズには、単に連写速度が速いだけでなく、その際の連続撮影可能枚数(連写速度が落ちずに撮影できる枚数)が多いモデルがいろいろある。その強みは、コンパクトデジカメのこのRX100VIIにも備わっている。実際に試してみたところ、1枚あたりのデータ量が大きくなる「20M RAW+JPEG(FINE)」の画質設定でも、80枚近くの連続撮影が行えた。つまり、最高約20コマ/秒の高速連写でも、4秒近く速度低下を気にせず連写できたのである。
通常の撮影中に、とっさに高速連写をしたくなる場合もある(風景の撮影中に、通過する特急列車がやってくる、とか)。そういう場合に備えて、動体の高速連写に適したカメラ設定を事前に登録しておきたい。そうすれば、モードダイヤルを「M」に設定することで、その登録設定(撮影モード、各種の撮影機能、F値、シャッター速度、光学ズーム倍率、など)を即座に呼び出して利用できる。
次の写真は、駅のホームで、高速で通過する特急列車をAF/AE追従「最高約20コマ/秒」の高速連写で撮影したもの。あっという間に通過する列車の動きが、かなり細かく記録できた。おそらく、10コマ/秒以下の連写速度では、この満足感は得られなかっただろう。
共通データ:ソニー RX100VII 35mm相当で撮影 シャッター優先オート F4 1/2000秒 WB:オート ISO800
AI技術を活用した「リアルタイムトラッキング」に対応
RX100VIIは、AI(人工知能)を利用して、被写体の色や模様(輝度)、距離(奥行)からなる空間情報をリアルタイムに高速処理し、動体を高精度に追従し続ける「リアルタイムトラッキング」に対応。そして、人物だけでなく一部の動物(犬や猫など)にも使用可能な「リアルタイム瞳AF」の機能も搭載されている。また、リアルタイムトラッキング時に、モニター上の被写体にタッチするだけで、自動追尾してフォーカスを合わせ続ける「タッチトラッキング」にも対応している。
AF性能を試すべく、動物園内のヤギにカメラを向ける。当然、AF検出対象は人物ではなく動物に設定したが、ヤギはイヌ科でもネコ科もない動物である(ウシ科)。だから、リアルタイム瞳AFが機能するかどうか不安だったのだが、このケースではなんとか機能したようだ。
ソニー RX100VII 62mm相当で撮影 シャッター優先オート F4 1/500秒 WB:オート ISO3200
24-200mm相当をカバーする高倍率ズームの魅力
RX100シリーズ共通のコンパクトなボディには、24-200mm相当の画角をカバーする高倍率ズーム「ZEISS バリオ・ゾナー T*レンズ」が搭載されている。広角端24mm相当から望遠端200mm相当までズームすると、鏡筒の長さは25mmくらい伸びる。ズーム中の作動音はわりと静かで、動きもスムーズだ。
これだけズームできると、どれくらい写る画が違ってくるのか、実際に試してみた。
<24mm相当(広角端)>
<70mm相当>
<200mm相当>
共通データ:ソニー RX100VII 絞り優先オート F5.6 -0.3補正 WB:オート ISO100
RX100IIIからRX100Vまでの3モデルには24-70mm相当のズームレンズが搭載されている。その望遠端70mm相当は、広角端24mm相当と比べると画角差は大きいが、望遠効果はあまり感じられない。だが、RX100VIIのズームレンズの望遠端は200mm。70mmとの画角差は歴然で、本格的な望遠効果(引き寄せ効果など)を得ることができる。
安定した望遠撮影には、ファインダーの使用がオススメだ。RX100III以降のモデルには、収納式の「有機ELファインダー」が搭載されている。しかも、今回のRX100VIIのファインダーは、接眼部の引き出し&押し込み操作が不要なワンプッシュタイプ(RX100VIも同様)。だから、より気軽にファインダー撮影が楽しめる。ちなみに、初期設定では、ファインダー収納時に電源がOFFになるので、撮影中にファインダーの有無を繰り返す場合は、事前に「電源OFFにしない」に設定しておくとよい。
全体的にシャープで破綻の少ない描写。工夫次第でボケ効果も楽しめる
遠景から近景まで幅広く使える便利な高倍率ズーム。ただし、RX100VIIのセンサーサイズは1.0型なので、実際の焦点距離は9.0-72mm。そのため、望遠端で絞り開放で撮影しても、APS-Cサイズやフルサイズのカメラ+高倍率ズームレンズほどのボケ効果は期待できない。
それでも、望遠端の開放時の明るさがF4.5と明るめなので、“近くにある被写体で、背景までの距離を十分に保つ”という条件を意識しながら撮影すれば、結構満足できるボケ描写が得られるだろう。また、12群15枚の贅沢な光学設計により、ズーム全域で高コントラストで高解像感な描写を得ることができる。実際にいろいろ撮影してみたが、ボケ部分は少し滑らかさに欠けるものの、それ以外は全体的にシャープで破綻の少ない印象を受けた。
次の写真では、手前の赤いバラを被写体に選び、周囲のバラの群生を背景にして「200mm相当・F4.5開放」という設定で撮影。背景に写り込む葉の表面の光の反射が“玉ボケ”に描写されている。その部分をよく観察すると、玉ボケの輪郭部分に少し縁取りのような描写が見受けられる。これがボケ描写を少々硬い印象につながっている。
ソニー RX100VII 200mm相当で撮影 絞り優先オート F4.5 1/250秒 +0.3補正 WB:オート ISO100
続いて、花壇内の同じ花を、望遠端の200mm相当と70mm相当(RX100III、IV、Vのズームの望遠端)で撮り比べてみた。花までの距離を変えて同じ大きさになるよう写したが、画角の狭い200mmは背景に写り込む範囲も狭められ、狙った花をより目立たせることができる。
<200mm相当で撮影>
<70mm相当で撮影>
共通データ:ソニー RX100VII 絞り優先オート +0.3補正 WB:オート
最後に、色鮮やかなオウムの頭部を部分拡大(切り出し)して、その細部描写をチェック。「ZEISS バリオ・ゾナー T*レンズ」と、新開発のメモリー一体1.0型積層型CMOSセンサーと最新の画像処理エンジン。この3つの要素の組み合わせにより、高精細かつシャープな描写を実現している。
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部分拡大
ソニー RX100VII 200mm相当で撮影 絞り優先オート F4.5 1/200秒 WB:オート ISO400
まとめ
自分は初代のRX100を使い続けてきた。そんな自分が、今回のRX100VIIを使って最初に感じたのは「思ったよりも重いなぁ」ということである。事実、モニターの可動化、収納式ファインダーの搭載、ズームレンズの高倍率化…などの追加要素によって、初代RX100よりも60g以上重くなっている(総重量:RX100・約240g、RX100 VII・約302g)。小型軽量タイプのカメラでのこの差は結構大きい。
しかし、紹介してきた機能や性能を考えると、この程度の重量化や高価格化も“やむなし”と言えるだろう。「α9」と同等のRXシリーズ最速の圧倒的スピード性能を実現し、動体歪み(ローリングシャッター現象)を感じさせない最高1/32000秒までの電子シャッターを実現する、新開発のメモリー一体1.0型積層型CMOSセンサー「Exmor RS」。広角から望遠までをカバーする、小型設計ながら高性能な高倍率ズームレンズ「ZEISS バリオ・ゾナー T* 24-200mm F2.8-4.5」。そして、使い勝手が向上した、完成度の高い収納式「有機ELファインダー」。こういった魅力的な要素を満載したRX100VIIは、現時点でのRX100シリーズにおける“全部載せモデル”なのだから。