機材レポート

パナソニックの新・大三元「LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S.」の描写・使い勝手をとことん試してみた【実践編】

パナソニックは、2020年1月17日に大三元レンズの1本となる「LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S. (S-E70200)」を発売した。今回は本レンズをフルサイズミラーレスカメラ「LUMIX S1」にセットし、使い勝手を試してみることにした。前編(基本編)ではコントラストや解像感といった描写のポイントを1つ1つ試していったが、この後編では実際に使っていくなかで感じたことを中心に解説していきたい。

▲全域F2.8の大口径望遠ズームレンズ「LUMIX S PRO 70-200mm F2.8 O.I.S.」。希望小売価格は318,000円(税別)

 

様々なシチュエーションでの使い勝手

まずは様々なシチュエーションでの使い勝手について確かめてみた。

 

AF

F4 1/2500 ISO200 0ステップ 280mm 1.4x テレコンバーター使用

エゾシカは、何か食べているときや周囲をうかがっているときなどは、動きがゆるやかなのでしっかり狙って撮れる被写体ではあるが、細かく首を動かしたり急に顔の方向を変えたりするため、動きがゆるやかでも当然AF-Cでの撮影となる。本レンズは、そうした細かい動きや急な動きにもAFがきちんと追従していた。

 

F4.5 1/1600 ISO400 +1.7ステップ 280mm 1.4x テレコンバーター使用

本レンズはAF駆動部が2群に分かれている。これによって収差の低減やAFの高速化と正確さが増しているようだ。実際使ってみると、写真のように飛んでいくオジロワシなどを撮影する際は、AF可動領域を「FULL」で動かすよりも、撮影距離に合わせスイッチを切り替えたほうが素早く動くようだ(この写真の場合「5m~∞」)。逆にいえばあらかじめ被写体との距離が限定できるのであれば、レンズのスイッチを切り替えておくことでより速く合焦させることが可能となる。

 

手ブレ補正

7段分の手ブレ補正のメリットにも触れておこう。優秀な手ブレ補正を駆使して長い露光ができるというのはもちろん、いわゆる長玉といわれるこの手のレンズの場合はそれだけではなくEVFの中に動きの速い動体を捉え続けることが容易になるというメリットもある。

 

風速にもよるが先ほどの写真のオジロワシやオオワシの飛び去るスピードは思いのほか速い。飛んでいる姿を捉える場合、当然狙っている個体を追い続け狙いを定めるのだが、このときファインダーの中が揺れていると狙いが定めにくい。本レンズは補正が7段分もあり、急な動きでレンズを振り回すことになってもファインダーの中が乱れることが少なく、EVFの中に被写体を捉え続けることが容易だ。ちなみに、動体撮影の際はより細かく動体の動きがEVFへ反映される「フレームレート120fps」に変更して撮影するのがおすすめだ。

 


F2.8 1/25 ISO25600 0ステップ 200mm

もちろん、スローシャッター時における強力な手ブレ補正のメリットも大きい。上の写真はシマフクロウであろうか? 野鳥はあまり詳しくない筆者だが、調べたところ国内最大の大型フクロウで野生のシマフクロウ撮影は極めて稀なことであるらしい。この極めて稀な撮影チャンスも解放F2.8の明るさと高感度ノイズが少ないS1との組み合わせでしっかりと撮影することができた。

 

突然の出会いであったため車中からの撮影になった。野生動物は窓を開けるときの音で逃げてしまうことがあるためフロントガラス越しでの撮影、なおかつ三脚をセットする時間などもなく手持ちで撮影している。シャッタースピードは1/25秒と数字的にはさほどスローシャッターとはいえないが、焦点距離200mmでの1/25秒は、標準域や広角域の1/25秒とは意味合いが違う。焦点距離200mmの1/25秒は段数でいえば3段分の補正で、7段分の補正を謳っている本レンズにとってはまだまだカバーできる範疇ではあるが、並みの手ブレ補正機能では成功率がかなり下がるシャッタースピードだ。当然ながら本レンズはしっかりと手ブレを補正してくれており、のちに確認したところこのくだりの撮影データはすべて止まっていた。また、AFも優秀で、決して明るいとはいえないフォグランプの明かりのみで撮影していたにもかかわらず、AFポイントを置いた眼にしっかりとピントを合わせにいっていた。

 

ほんの数分ではあったがシマフクロウは撮影させてくれたのち大きな羽を広げ飛び去っていった。撮影データを確認してみると、ISO25600とかなりの高感度で撮影したにもかかわらず高感度ノイズが少ないと感じた。S1はもともと高感度ノイズが少ないカメラであったが、ファームアップ「バージョン2」にアップグレードされたことにより、高感度ノイズはより少なくなったようだ。
※クルマのフロントガラス越しでの撮影のため解像は落ちてしまっていることを補足しておきたい(筆者のクルマのフロントガラスは合わせガラスになっておりガラスとガラスの間に飛散防止用特殊フィルムが入っている)。

 

フォーカスボタン

F5.6 1/3200 ISO800 0ステップ 200mm

動体を撮影する場合、「ここだ!」というシーンを撮影するためにAFを駆動させるタイミングをほんの少し待つ場合がある。そのため、ほんの少しの「待ちの時間」が生じる。上の写真でいえば早々にタンチョウヅルが飛び立つところからAFを駆動させるよりも、狙ったタンチョウヅルが「AFが仕事をしやすい適切な大きさ」になるまで待ってからAFを駆動させたほうが正確に被写体を捉え続けられる。そこで、本レンズに搭載されている「フォーカスボタン」を押し、AF駆動を止めて待ってから撮影した。

 

フォーカスボタンは3つ配置されているのだが、個人的には配置にやや不満があった。左手人差し指でON/OFFしたいところなのだが筆者の手の大きさではしっくりくる場所ではなかった。また冬用の厚手の手袋をしている状態だと、ボタンの当たる感覚がもう少し強くほしいところ。とはいえ、素手で使うことを考えるとちょうどよい塩梅なのかもしれない。

 

フォーカスクラッチ機構

F2.8 1/160 ISO200 0ステップ 169mm

釧路湿原の展望台でお会いしたイケメン男性の方にお願いしてモデルをしてもらうことにした。サングラスに映る美しい夕陽にピントを合わせたいと思いフォーカスはAF→MFへ変更。AFでも合わせることができるのだが、合わせたいピント位置へより正確に合わせるためMFへ変更している。

 

本レンズはフォーカスクラッチを採用しておりピントリングをスライドさせることで瞬時にMFへ変更できる。カメラ背面のボタンを操作することでもAF→MFの変更は可能なのだが、カメラ背面の操作はいろいろな操作を同時に行っている右手で行うことになる。しかし、フォーカスクラッチ機構を使ってのAF→MFであればレンズを握る左手で被写体を狙いながら、かつスライド一発でMFへ変更できるので、フォーカスクラッチ機構の採用は大歓迎である。

 

テレコンバーター

F4.5 1/1300 ISO100 -0.3ステップ 280mm 1.4x テレコンバーター使用

先にお見せしたエゾシカとオジロワシの写真とともに、このタンチョウヅルの写真も1.4x テレコンバーター「DMW-STC14」を使用して撮影したもの。テレコンバーターを使用してのボケ味も良好で本レンズが持つやわらかいボケ味を損なうことはない。DMW-STC14を装着して撮影した場合、少しだけ発色がアンバーへ傾く傾向は見られるものの解像は目に見えて落ちることはなく、非常に良好な状態を保っている。

 

風景写真での実践で見えてきたこと

F9 1/800 ISO200 -0.7ステップ 98mm

上の写真はサンピラーを伴い昇ってくる朝日を撮影したものだ。コントラストの高さがサンピラーを浮き立たせている。また画角内に入れた太陽からはゴーストの姿は見られない。先ほども少し触れたが、フレアとゴーストを非常に上手く抑えているレンズだと筆者は思う。また、赤の発色もドラマティックな色合いで、ここまでイメージに近く撮れるならあまりレタッチの必要性は感じない(ゴミ取りはしなければならないが)。

 

F4.5 1/1000 ISO400 -0.3ステップ 280mm 1.4x テレコンバーター使用

夕暮れの光に包まれたタンチョウヅルを開放付近(1.4x テレコンバーター装着で解放はF4となる)で撮影。逆光の上に太陽の位置は画角ギリギリと撮影条件はかなり悪いが、フレアを上手に抑えつつ、きちんとコントラストが残っている。本レンズだからこそできる表現できる画である。

 

F8 1/3200 ISO100 -1.3ステップ 132mm

凍り付いた防風林の真後ろから朝日が上がってくる場所で撮影。筆者はこの場所が好きで長玉の撮影で良く訪れる場所だ。こうした強い点光源を使った透過光で撮影した場合、防風林のフチにパープルやグリーンなどのカラーフリンジが出てしまうレンズもある。しかし、本レンズはそうした色ずれはなく凍りついた防風林の質感も再現している。

<部分拡大>

 

F3.5 1/5000 ISO100 -1.7ステップ 114mm

早朝、ダイヤモンドダストの撮影を行うためいつも行く撮影スポットへ。ダイヤモンドダストが出てくる気温は、高くても-15、6℃できれば-20℃までは落ちてほしいところ。手元の温度計では-17℃となりダイヤモンドダストは出てきそうだなと思いつつも、レンズが無事作動してくれるかが気になってくる。あまりにも寒いとレンズのズームリングやフォーカスリングが固くなり動きが悪くなるレンズもある。また、内部までしっかり凍りついてしまうと各部が固着してしまったり材質変化してしまったりで、メーカー公称の作動環境温度まで戻らなければ撮影はできなくなってしまうこともある。

 

本レンズの場合、メーカーHPには「動作環境(使用可能温度 / 湿度)-10~40 ℃ / 10~80 %」という記載があったが、今回の条件下では問題なく作動し、ピントリングやズームリングも寒さで固くなることもなかった。だからといってメーカーが動作環境外の作動を保証しているわけではないので、-10度を下回るときの使用は自己責任ということになるだろう。

 

F4 1/5000 ISO100 +0.7ステップ 121mm

焦点距離の中間域での描写も確認しておこう。上述の通りエッジの立ちが早くあまり絞らずとも解像性能を発揮するが、ここでは一段絞ったF4でしっかりと描写。とかくズームレンズは端と端(本レンズでいえば70mm付近と200mm付近)を使いがちだが、中間領域の描写も良く非常に立体感がある印象だ。

 

F3.5 1/1600 ISO50 +0.7ステップ 116mm

有名撮影スポットである美瑛の親子の木。日の出とは違う、夕暮れ時のやわらかい画でも本レンズは独特の味わいを見せる。やわらかい画の印象にするため絞りは開放付近のF3.5で撮影。手前から奥に向かってやんわりとなだらかにボケていく味わいを見せる。

 

F4 1/1000 ISO100 0ステップ 178mm

本レンズを使い港町でスナップ撮影を行った。港町のカモメをAF-Cで撮影、AFの範囲を最小へ変更、カモメの眼にAFのポイントを持っていく。歩くカモメの不規則な動きに合わせAFはしっかりと追従していた。白の中の白をよく再現しており、毛の質感もよく伝わってくる。

 

まとめ

冒頭述べたように、本レンズはLUMIX Sシリーズの大三元レンズとして安心して使い込んでいけるレンズだといえるだろう。エッジの立ちは早く、コントラストも高い。

 

軽量コンパクトなミラーレスのユーザーからすると少々大きくずっしりとしたレンズに見えてしまうかもしれないが、一眼レフとミラーレス双方を使って撮影している筆者にとってはこのサイズと重量はスタンダードなもので特に気になるものではなかった。

 

解像、コントラスト、各種収差、使い勝手など高いレベルでバランスされており、欠点という欠点はあまり見当たらないレンズで、悪条件でもなんなく撮影できてしまう。筆者個人の好みでいえば、フォーカスボタンの位置に若干の不満があったり、解像のピークをもう少し後ろに持っていくほうが好みだったりはするのだが、これらはあくまで個人の感覚の話である。本レンズは、冷静に見てトータルバランスが高いレベルで取れている使いやすいレンズだと感じた。