少し前までは特別な焦点距離だった400mmや500mmが、すっかり馴染み深いものになってきている。前編では、今注目を集める3本の超望遠ズームで工場夜景を撮影し、それぞれの描写力や特徴を紹介した。後編は明るい日中と工場夜景で、細部の描写を比較チェックする。
- 100-400mmクラス超望遠ズームレンズ実写検証・前編
- 100-400mmクラス超望遠ズームレンズ実写検証・後編
撮り比べたのはこのレンズ!
明るい日中の描写はどれも優秀
キヤノン RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
ワイド側は素晴らしい描写だが、テレ側ではわずかに色収差が見える。とはいえかなりわずかなのでRAW現像で容易に対処可能な範囲だろう。解像感に関しては超望遠域では一段絞ることでよりキレの良い画質になる。
ソニー FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
ワイド側でもテレ側でも繊細な描写と歪みの少なさで安定した描写性能を発揮している。等倍で見れば白い被写体などではほんのわずかな色収差が見て取れるところもあるが、基本的にどの焦点距離でも安心して使用できる。
シグマ 100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary
ソニーと比べるとやや力強い描写と色収差の少なさが特徴といえる。コストパフォーマンスを考えれば十分以上の結果と言えるだろう。この作例では目立たないが、糸巻き形の歪みが出ることがあるので注意したい。
いずれのレンズも逆光に強い
朝日や夕日など構図の中に太陽が入り込む場合や、今回の工場夜景や都会の夜景撮影などの複雑な光源下の条件で撮影しても目立ったゴーストなどは現れなかった。間違いなく3本とも実用的な逆光耐性を有した優秀なレンズだ。
キヤノン RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
ソニー FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
シグマ 100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary
どのレンズも逆光に強く手持ちでも安心して使える
日中の撮影では手ブレ補正の効果もあってほぼ手持ちで撮影することができるこの3本。超望遠だから三脚の使用が前提と考えてしまいがちだが、最近は観光地などでも三脚禁止の場所も多く、強力な手ブレ補正は大変ありがたい。
従来、望遠ズームといえば70-200mmが定番だったが、これだけの描写性能・サイズであれば、より多様な被写体を狙うことができるレンズとして、風景や鉄道、スポーツなどの撮影のみならず都会や繁華街などでの撮影でも新しい視点を提供してくれるはずだ。
描写性能も高いが、今回特に驚かされたのが3本ともに逆光に非常に強いという点。かなり厳しい条件、角度で試してみたが目立った問題はなく、これならどのような場面でも安心して撮影に臨める。日中の撮影で雰囲気を出すために逆光を生かしたい場面は多いと思うが、今回検証したレンズならば十分な解像感とともにその役割を果たしてくれるだろう。
EVFにも表れる手ブレ補正の違い
ボディとの相性の問題もあるが、今回の組み合わせでは「α9 II」と「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」の揺れが非常に少なく安定したファインダー像を実現。次いで「EOS R5」と「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」。シグマ「100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary」はEVFをのぞいたときの揺れがやや大きい印象だった。
工場夜景の描写を比較
暗い状況でのレンズの性能を検証するために、三脚を使用して夜の工場の撮影を行ない、各焦点距離での描写性能を確認した。
キヤノン RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
300mm付近までは非常に優秀な描写
「EOS R5」の高解像に十分対応できる素晴らしい描写。特に300mm付近までは非常に優秀で、明部や暗部もきっちりと描かれている印象。高い解像力を感じることができた。400〜500mm付近では開放だとやや描写が甘くなるが、一段絞ると見違える描写になる。
ソニー FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
どの焦点距離でも安定したシャープな写り
昼間同様に繊細な描写で、細かい部分まできっちりと描き切っていて好印象。各焦点距離を絞り開放で撮影してもピントが来ている部分に関しては大きく描写性能が変わらなかったのが見事。使い方を選ばない堅実な性能に仕上がっている。手持ちでも、安定した撮影をすることができた。
シグマ 100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary
半段絞ると、よりしっかりした描写で撮影できる
ややコントラストが高めの描写だが解像感は十分感じることができる。望遠端で撮影する場合、半段絞ったほうがよりしっかりした描写が得られる。三脚を使うような長秒撮影の場合、レンズ側の手ブレ補正がONのままだと微ブレすることがあったので、夜景撮影の場合設定には注意したい。
街中や観光地でも今までと違った視点の撮影ができる
いつもなら広角や標準で迫力を出すことの多い工場夜景を、あえて望遠〜超望遠だけで撮影するという試みを行なったわけだが、工場の全体的な迫力のみならず機械のディテールやより非現実な情景を切り取ることができた。
最近は工場夜景ファンの増加によって現地の観光地化が進んでしまい、本来は仕事の現場である工場エリアに簡単に近づくことができないケースも増えている。そんな場面で400〜500mmまで望遠が使えると、明らかに撮影できる被写体が多くなる。これは世界遺産などの観光地も同様で、多くの人が訪れる場所では肝心の被写体に近づけないことが意外と多いのだ。さらに従来の200mmクラスまでとは違う新たな視点と出会えることも多くなり、より印象的な写真を撮影できる機会も増えるはずだ。
400mm以上のしっかりとした写りの望遠レンズといえば、かつては巨大な単焦点が主流であったが、今回の3本のズームのように70-200mmレンズ並みのサイズで描写性能も満足いくモデルが登場してきている。超望遠域での撮影が、優秀な手ブレ補正や本体性能の向上によって、ファインダー像が見やすく、ブレもしっかり確実に抑えられるようになり、より身近に、そして実用的になってきた。
今回のような工場夜景はもちろん、街中や観光地でも今までと違った視点から解像感の高い撮影ができるので、70-200mmクラスを使っていた方もぜひ一度検討してみてほしい。
〈写真・解説〉園部大輔