伊達淳一のレンズパラダイス『CAPA』2022年10月号 Other Shots
伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。2022年10月号の「レンズパラダイス」Other Shotsは、18mm未満の焦点距離を持つ富士フイルムXマウントの標準ズームレンズをピックアップ。富士フイルム純正レンズ3本に、タムロンのXマウント用レンズ1本を加えた計4本の描写性能をチェックした。
前編に続いて後編では、富士フイルム純正レンズ「XF16-55mmF2.8 R LM WR」「XF16-80mmF4 R OIS WR」「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」の描写を実写作例で見ていこう。
目次
- タムロン 17-70mm F/2.8 Di III-A VC RXD (Xマウント) 実写チェック
- 富士フイルム XF16-55mmF2.8 R LM WR 実写チェック
- 富士フイルム XF16-80mmF4 R OIS WR 実写チェック
- 富士フイルム XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ 実写チェック
- 富士フイルム純正レンズ中遠景微ボケ比較
富士フイルム XF16-55mmF2.8 R LM WR
スペック
[マウント] 富士フイルムXマウント [最大径×長さ] 約φ83.3×106mm [重さ] 約655g [レンズ構成] 12群17枚 [最短撮影距離] 0.6m (標準) / 0.3m (マクロ広角) [最大撮影倍率] 0.16倍 [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] φ77mm参考価格 142,450円 (税込)
解像やコントラストが高く緻密な描写が得られる
山中湖花の都公園エリアで整地するトラクターをテレ端でパチリ。このレンズは解像とコントラストが高いぶん、前後の微ボケが多少うるさくなることもあるので、少し絞ってF5で撮影。トラクターにピントを合わせて撮影しているが、実写結果を見るとピントのピークは少し手前で、前方の草からトラクターまでがちょうど被写界深度内。ピクセル等倍で見ても非常に緻密な描写が得られている。
ピントを合わせた花はエッジ立った解像
山中湖花の都公園のヒマワリ。晴れではあるが少し薄雲がかかっていて、被写体のコントラストが弱まっているにもかかわらず、ピントを合わせた花はシベや茎の細い毛に至るまで、エッジ立った揺るぎない解像だ。ただそのぶんボケは硬めで、後方のヒマワリの管状花の微ボケがやや騒がしくなっている。
キバナコスモスの細かな部分まで克明に描写
山中湖花の都公園のキバナコスモス。かろうじて富士山の頭の一部が見えているので、縦位置構図でボリューム感を出しつつ、富士山も入れてみた。こうした広大な風景を撮影するなら、少しでも画角が広いほうが有利だ。どちらかといえば、細かい絵柄の描写が苦手な富士フイルムのカメラだが、花や茎、葉っぱまで克明に描写できている。
硬さは感じるがハイライト部にはにじみ感も
テレ端開放のボケ描写をチェック。輪郭がとろけるようなボケではないのでやはり硬さは感じるが、ハイライトのにじみ感は少し出てきている。ワイド側に比べるとボケも大きく、微ボケする領域も少ないので、中近景の撮影であればうるさいボケは出にくい印象だ。ちなみに、逆光でPLフィルターを使用しているのは、葉っぱの反射を抑え、緑をしっかり出すためだ。
点光源が崩れない優秀な再現性能
横浜大桟橋から、みなとみらい方面の暮景を撮影。このレンズは手ブレ補正機能を搭載していないが、手ブレ補正機能を搭載した「X-T4」や「X-S10」「X-H2S」などのボディを使えば、これくらいの暮景は手持ちでもなんとか撮影できる。ただ、今回はレンズのテストということもあり三脚を使って撮影し、なおかつライブビュー拡大併用でMFでピントを追い込んでいる。わずかにコマ収差の影響はあるものの、点光源が大きく羽根を広げるほどではなく、なかなか優秀な点像性能だ。ただ、周辺解像とコントラストは少し低下気味だ。
富士フイルム XF16-80mmF4 R OIS WR
スペック
[マウント] 富士フイルムXマウント [最大径×長さ] 約φ78.3×88.9mm [重さ] 約440g [レンズ構成] 12群16枚 [最短撮影距離] 0.35m [最大撮影倍率] 0.25倍 [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] φ72mm参考価格 103,950円 (税込)
解像もボケ味も中庸な印象
24〜120mm相当の開放F4標準ズームで、ワイドから中望遠まで幅広い画角をカバーできるのが魅力。これはテレ端開放で撮影したカット。ピントを合わせたヒマワリは、エッジ立つほどの解像とコントラストではないが安定していて、周辺部の描写も特に乱れを感じない。微ボケは可もなく不可もなくという印象で、うるさいボケではないが、特筆するような滑らかさもない。
F11まで絞っても周辺解像は開放とあまり変わらない
山中湖花の都公園のヒマワリ。富士山の頭は雲隠れ中だが、心の中では富士山が見えているものとして撮影 (笑)。ピント位置は手前のヒマワリで、F11まで絞ってパンフォーカスを狙ってみた。画面中央はピクセル等倍チェックでも近景から遠景までしっかり解像しているが、周辺部はF11でも少し甘さが残り、絞り開放とそれほど大きく変わらない。
花が大きく写ったこともあり周辺部ながら安定した解像に
山中湖花の都公園のヒャクニチソウ。横位置だと左右に人工物が多く入るので、縦位置にして空を入れつつ、手前の花をある程度の大きさに捉えられる撮影距離まで近づいてみた。もっと近づくこともできるが、せっかく奥のほうまで高密度で咲いている花を見せるため、あえてこのカメラポジションを選択。ピント位置が画面周辺部に当たるが、被写体が大きく写っていることもあり、ピクセル等倍でも安定した解像が得られた。
ワイド側の周辺部のボケや解像に不自然な乱れは感じない
こうした被写体はF8~11まで絞って撮影することが多いが、レンズの描写をチェックするため、あえて絞り開放で撮影してみた。ピントを合わせた画面中央部は、シャープネスがかかりやすい被写体ということもあり、期待以上にシャープな描写。周辺部はもっと解像やボケの乱れが気になるかと思ったが、不自然なボケの乱れはなく、解像やコントラストが高すぎないぶん、微ボケもうるさく感じない。
テレ側の描写も解像とボケが見事に両立
テレ端開放の描写もチェック。ピントを合わせたネコジャラシの毛はにじみがなく、キリッとした解像で、さらに細いクモの糸まで解像し切っている。後ボケにわずかに縁取りや輪線を感じる部分があるものの、おそらく反射面の湾曲も影響。ボケの輪郭に色づきもほとんど感じない。逆光気味の光線状況も味方しているが、解像とボケが見事に両立していて、自然な奥行き感が得られている。
富士フイルム XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ
スペック
[マウント] 富士フイルムXマウント [最大径×長さ] 約φ62.6×44.2mm [重さ] 約135g [レンズ構成] 9群10枚 [最短撮影距離] 0.13m (広角) / 0.35m (望遠) [最大撮影倍率] 0.24倍 [絞り羽根枚数] 7枚 [フィルター径] φ52mm参考価格 41,250円 (税込)
絞り開放のワイド側周辺部でもキレのある描写が得られる
富士フイルムXシリーズの標準ズームでは、ワイド端の焦点距離が15mm (23mm相当) と、もっとも広角なのが特徴。この作例は、被写界深度を深くするためF11まで絞っているが、絞り開放のワイド側周辺部までキリリとよく解像するレンズだ。ただ、マウントはプラスチックで、電動ズームなので電源をOFFにしてからレンズ交換しないと鏡筒が伸びたままになる。
軽量コンパクトにもかかわらず驚くほど高い解像性能
テレ端開放でヒマワリを撮影。45mm (68mm相当) でF5.6なので、前景・背景をそれほど大きくぼかせないが、ピント面は絞り開放の画面中央付近でキリリとキレのある描写が得られる。こんなに軽量コンパクトなキットレンズにもかかわらず、驚くほど解像性能が高く、ボケも穏やかだ。
テレ側の近接撮影でも鮮明な描写が得られる
最短撮影距離はワイド端13cm、テレ端35cm。ワイド端で思いっきり寄れるのが特徴だが、このカットはテレ端開放で撮影したもの。開放F値がF5.6と明るくはないので、絞り開放でもヒマワリの管状花やしべが、周辺まで不自然にぼけることなく鮮明に写っている。や「X-S10」や「X-T30 II」を買うなら、断然、レンズキットがオススメだ。
「XF16-55mmF2.8」に次いでシャープで後方のボケも穏やか
山中湖花の都公園のヒマワリを、脚立に乗ってワイド端絞り開放で撮影。これで富士山の頭が見えていればとは思うが、そこは自然相手なので致し方なし。ピントは一番手前のヒマワリの花だが、ピクセル等倍でもカリカリに解像している。「XF16-55mmF2.8 R LM WR」に次いでシャープで、後方のボケは「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」のほうが穏やかだ。
四隅を除けば画面周辺部まで実にシャープ
ほんのわずかに富士山の頭が見えたので、見事に咲き誇るヒャクニチソウと富士山をパンフォーカスで撮影。富士山まで被写界深度内に収めるため、ピント位置は3列目くらいの花に合わせ、F8まで絞っている。一番手前の画面周辺の花は少しだけボケて流れ気味だが、それ以外はピクセル等倍でも実にシャープだ。
中遠景の微ボケを比較
「XF16-55mmF2.8 R LM WR」「XF16-80mmF4 R OIS WR」「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」の3本に、愛用している「XC16-50mmF3.5-5.6 OIS」を加えた4本の中遠景での微ボケ描写を比較した。
XF16-55mmF2.8 R LM WR
■F2.8
■F4
■F5.6
■F8
開放から高い解像性能だが、そのぶん二線ボケ傾向
画面中央のピント面は絞り開放でもシャープな描写だが、周辺部は少し解像に乱れを感じる領域がある。F4まで絞り込むと急激に周辺解像が安定してきて、F5.6まで絞ると周辺までエッジ立ったキレキレの描写になる。ただ、そのぶんボケは硬めで、葉っぱや枯れ草などが二線ボケっぽくなりやすい。
XF16-80mmF4 R OIS WR
■F4
■F5.6
■F8
2~3段絞っても周辺解像に甘さが残る
絞っていくと被写界深度が深くなり、ピントが合って見える範囲が広くなるぶん、画面中央の解像感は多少向上してくる。ただ、絞り開放の周辺解像は少し甘めで、F5.6、F8に絞っても甘さが残り微ボケしているように見える。絞り開放で周辺が甘いのは仕方がないとしても、2~3段絞って撮影すれば、もう少し解像とコントラストが高くなってほしいところだ。
XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ
■F3.5
■F4
■F5.6
■F8
四隅を除けば開放から驚くほど安定した解像性能
ワイド端が15mmと焦点距離が短いこともあり、絞り開放のF3.5でも被写界深度が深めで、遠方の草までかなりシャープに再現されている。ごく周辺部に甘さは残るものの、短辺の隅くらいならピクセル等倍でもキレキレにシャープで、絞っていけば周辺解像はさらに向上してくる。
XC16-50mmF3.5-5.6 OIS (参考)
■F3.5
■F4
■F5.6
■F8
周辺微ボケに若干乱れる部分があるが、解像はかなり優秀
ボクが愛用している「XC16-50mmF3.5-5.6 OIS」(生産完了) も、参考までに比較撮影してみたが、絞り開放だと周辺の微ボケが少しうるさくなる領域があるものの、ピント面の周辺解像はかなり優秀で、F5.6以上に絞れば周辺解像も向上する。画角の広さとコントラストの高さは「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」のほうが上だが、パワーズームではないので、すぐにレンズ交換しても鏡筒が伸びっぱなしにならないのは快適だ。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。