写真家のリアルRAW現像&レタッチ術・夜景編/川北茂貴×キヤノン Digital Photo Professional
写真家は作品を仕上げるときに、どのくらいRAW現像やレタッチをしているのだろうか。今回は幻想的な風景美を楽しめる雲海夜景がテーマ。雲海のソフト感と煌びやかな夜景をどう融合させるのか、夜景写真家の川北茂貴さんにリアルなRAW現像術を聞いた。
<Before(元画像)>
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<After(RAW現像後)>
肉眼では暗く見える雲海夜景、現像で見栄えよく仕上げる
夜景写真は露光時間が長く、撮影現場で各種設定を試行錯誤していては非効率。そこで私はRAWで写真を記録し、帰宅後にキヤノン純正のRAW現像ソフト・DPP(デジタルフォトプロフェッショナル)で設定を変えている。ホワイトバランスをはじめ、コントラストやシャープネスなどは何度設定を変えても元のRAWデータは劣化しないので、自分のイメージを突き詰めるには好都合。カメラで設定したピクチャースタイルなどもそのまま反映・変更できるので、ボディやレンズ、最後にDPPを含めたEOSシステムで写真を仕上げている。
雨上がりで湿度が高く、無風の夜が雲海発生のチャンス。地上では霧だが、高い場所から見下ろせばそこは雲海。平野ではわずかな風で霧が流れてしまうが、それが滞留しやすい盆地なら発生の確率が高い。一般的な都会の夜景に比べて、肉眼で眺める雲海夜景はとても暗い。それをそのまま表現すると写真的には暗く感じるので、照明が当たって明るい箇所がまぶしいくらいに仕上げると見栄えがする。
また、肉眼で感じる雲海夜景の色合いはホワイトバランス「白色蛍光灯」に近いが、これも自分の好みで変えている。プリセットされたホワイトバランスも良いが、RAW現像時に色温度設定などを使って細かく調整しても楽しい。ただ露出は撮影時に意図した明るさで撮るようにしている。多少の露出の明暗ならRAW現像時に調整できるが、調整量が多くなればノイズが増えるので注意したい。
-川北流RAW現像術-雲海夜景を階調豊かにイメージ重視の仕上がりにする
使用ソフト 【キヤノン Digital Photo Professional(ver.4.10.40.0)】
(1)幻想的なイメージを強調するために、色温度を落として青みを足す
撮影時に「白色蛍光灯」だったホワイトバランスを「色温度」に変更し、「3000K」にして青みを強くする。本来は色温度補正のためのホワイトバランスを、強調する道具として使っている。この後の処理でも青みが強くなるので、ここではあまり強くならないよう適度なところで抑える。
<手順①での仕上がり>
Before
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After
(2)コントラストを下げて雲海の階調を引き出し、シャドウとハイライトの調整で色の濃さを強める
夜景写真は鮮やかにするためコントラストを強くしようと考えがちだが、私の場合、黒つぶれしがちな部分も描写したいので、逆にコントラストを弱くする。その効果をさらに高めるため、シャドウを「2」にして明るくする。これらの変更で全体的に明るくなったら、ハイライトを「-3」に下げて全体の明るさを整える。
(3)雲海夜景では白い霧が目立ってしまうので、「色の濃さ」とシャープネスを通常よりも上げて鮮明にする
都会の夜景に比べて雲海夜景は地味なので、普段ならそれほど上げない「色の濃さ」をかなり濃くして「3」に。構図の中に点在している照明の色を鮮やかにした。シャープネスは写真が使われる大きさによって決める。大きければ弱めに、小さければ強くかけるが、今回は「3」にしている。
<手順③での仕上がり>
Before(部分拡大)
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After(部分拡大)
(4)トーンカーブを使って緑カブリを補正しつつ、最後に「RGB」調整で明るさを整えて完成
ここまで各設定を調整してきたが、よく見れば工場周辺が少し緑がかっているのが気になった。トーンカーブ調整の「G(グリーン)」を選択してレベルを下げる。そのためか全体が少し暗くなったので、最後に「RGB」を選択してレベルを上げ、全体を少し明るく戻して完成だ。
<手順④での仕上がり>
Before(部分拡大)
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After(部分拡大)
「トーンカーブ」とは?
画像の明るさや明暗の比率(コントラスト)を自在に調整するためのもの。ヒストグラムの右上から左下に伸びる直線のトーンカーブをドラッグし、上げると写真は明るく、下げると暗くなる。トーンカーブ上の2点以上を選択し、S字型にすればコントラストが上がり、逆だと下がる。通常は「RGB」全体を調整するがR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)ごとの調整も可能だ。