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【動画で“自分の世界”を究める新進映像クリエイターたちの活躍・第4回:清水大輔】技法を駆使したタイムラプス映像

YouTubeやVlogなど、スチル写真とは違ったカタチで作品を生み出すクリエイターがいま注目を集めている。はじめから動画でアプローチを開始した人もいれば、もともとはスチルがメインで徐々に動画の世界に足を踏み入れていった人もいる。映像や作品に対するそれぞれのこだわり、撮影や編集に関するメソッド、さらには機材のハナシなど、6名の新進クリエイターたちに動画への想いについて熱く語ってもらった。今回は清水大輔さんをご紹介!

 

動画で“自分の世界”を究める新進映像クリエイターたち

  1. ビートないとー – ワクワクドキドキの旅&キャンプ動画
  2. 藤原嘉騎 – 雄大なドローンスケープの世界
  3. SUMIZOON – 美しい光と構図で描く独特の世界観
  4. 清水大輔 – 技法を駆使したタイムラプス映像
  5. 大川優介 – 自らの体験や思いをスタイリッシュに表現するシネマティック作品
  6. 村上悠太 – まるで鉄道写真が動いているような写真家ならではの画作りを追求

 

清水大輔(Daisuke Shimizu)

福島県生まれ。TV、映画、CMのタイムラプス映像を多く手がけ、現在は大手テレビメーカー数社のPR映像を担当。またNHKの番組で主演と映像制作を担当している。代表作は『NHK World TIME-LAPSE JAPAN』 『NHK BS1 福島タイムラプス』 『 NHK BS8K そこにある光』。自作のタイムラプス映像作品を主にYouTubeで公開している。

https://www.ds-timelapse.com/

https://www.youtube.com/user/omame109

 

「誰かの役に立ちたい」常にそんな思いでタイムラプス映像制作に挑んでいます

2011年に福島で東日本大震災を経験しました。福島へのいわれのない誹謗中傷が溢れる中、たまたまネットで見た南極海のタイムラプス映像に衝撃を受け「これで福島を表現すれば本当の姿を知ってもらえるかも」という想いが生まれ、撮影を開始しました。

 

ですから、「誰かの役に立ちたい」「その地域の方々に喜んでほしい」そんな貢献したい想いで撮影することにこだわっています。周りの評価や売れる映像につなげる気持ちでは自分よがりな映像になってしまい、知らずに誰かを傷付けてしまうと思うのです。福島で始めた初心を忘れないことですね。

 

またタイムラプスは「早送りの映像」と言われますが、私はその時間軸の変化より「写真が動く映像美」「そこにある光を伝える」この2つを強く意識しています。

 

最先端のタイムラプスやハイパーラプスには教科書はないので、常にトライ&エラーの連続です。以前は機械設計を仕事にしていましたが、その“ものづくり”と非常に似ています。自分で考え計画し、実行、改善する。実現する機材がないなら自分で製作する。一人でPDCA(品質管理の改善手法)を回している感じですね。固定観念に捉われず、さまざまな分野を勉強し、常にアイデアを絞り出しています。

 

スカイツリーから撮影した東京の景色

昼から夕方、夜景となる風景をワンサイクルで撮影。絞り優先モードでも撮影できるが、LED灯による露出のバラツキを考慮し、マニュアルで露出を変化させながら撮影した。

 

和歌山県橋杭岩で撮影した日の出をワンサイクルで撮影

太陽は白トビするので1段アンダーに設定。太陽がどこから昇り、どの位置になるのか、日の出前にしっかりと軌道を計算し、構図決めをすることが重要。

 

徹夜で撮影し1コマずつ修正する根気が必要

実際の制作にあたっては、撮影から編集まで一人で行っているので、どの工程も苦労が尽きません。数十キロの機材を背負って山に登り、その山頂から徹夜で撮影しますし、編集も、ブレや角度ズレの補正、鳥や虫、光害のハレーション除去を1コマずつ手作業で処理しています。また最近は10Kタイムラプスを制作していますが、余計にそのハレーションが目立つので、すべての工程でより慎重な作業が求められます。まだ完璧なソフトやアプリは存在しないので、その前段階のアシスト作業は非常に大変です。

 

編集はすべてAdobe After Effectsのみで行い、そこにさまざまな海外のプラグインソフトを組み合わせています。理由はRAW映像やPro Resファイルを16bitフローで編集するためで、8Kや10K映像の解像度を保証でき、HEVC圧縮時のバンディング対策にもなるからです。タイムラプスは常にブレ、フリッカー、ハレーションとの戦いで、それを高次元で解決するにはAfter Effectsとそのプラグイン、それと素材を一コマずつ修正する根気、それしかないですね。

 

タイムラプスは撮影だけでなく、編集作業も必要で、すべてを一貫したフローで発想し作品をアウトプットする、そんなクリエイティブな要素が重要です。私が「タイムラプスフォトグラファー」とは名乗らず「タイムラプスクリエイター」と名乗るのもそれが理由です。

 

ベースは写真素材なのでデジタル一眼レフを使用

カメラはニコンD850を中心に、キヤノンEOS 5D Mark IVなども併用する。レンズはシグマArtシリーズの単焦点がお気に入りでメインで使用している。また、タイムラプス動画に欠かせないのが自作のスライダー。見る人により伝わる映像を考え、常に撮影スタイルを変化させることを心がけている。


 

設定を変えカメラ2~3台を常に稼働

タイムラプスの画像を得るには長時間の撮影が必要になる。撮影する際はカメラ2~3台を常に使用する。映像のコンセプトによって撮影方法(固定、回転、スライダー、ハイパーラプス)を使い分け撮影するからだ。

 

長時間の撮影は常に孤独との戦い

長時間の撮影は常に孤独との戦いだ。天の川の撮影で、数十キロの機材を担ぎ山頂へ向かい、徹夜で撮影することもある。対策は講じるが、寒さにはただ耐えるのみ。またそこが熊やイノシシの生息地の場合、常に気配を感じ取りながら撮影している。

 

Adobe After Effectsでタイムラプスに変換

パソコンはiMacとMacBookPro、カラーマネジメントモニターは必需品。タイムラプス動画の制作はソフトが決め手。Adobe After Effectsにプラグインソフト組み合わせて編集する。今後の10K以上の映像制作を見込み、Mac Proを導入予定。

 

BGMは海外サイトから購入することが多い

音楽の才能がまったくない(笑)ので、海外サイトからロイヤリティーフリーの音源を購入。効果音を組み合わせ、自分の世界観や、表現したい作品に合わせ編集してBGMにしている。よく使うサイトのひとつがstoryblocks.com。

 

タイムラプスを映像文化の一つとして定着させたい

本格的なタイムラプスを制作するには、ある程度の機材と時間が必要です。そのため(私も含めですが)今のタイムラプスは圧倒的に中高年の男性中心の分野になっています。その影響かYouTubeで見ると、同じ場所、同じような映像が多く、「キレイだけど伝わらない」映像が多いと感じます。実は伝わる映像って身近にあると思うんです。もっと表現が自由になっていいと思います。そのためには若い方や女性にも多く参加していただき、いろんな発想でタイムラプス映像を表現して欲しいですね。それが広がれば「タイムラプス映像が映像文化の一つとして認められる」と考え、今はその裾野を広げる活動も進めています

 

10K タイムラプス映像の制作をスタート

今の映像の基準に合わせるのではなく、今の現実やその想いを後世に映像として残し、そして伝えていく。震災からの思いは今も変わらない。最近、1 億画素のフジフイルムGFX100でより高画素な10Kタイムラプスの制作を始めている。