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【動画で“自分の世界”を究める新進映像クリエイターたちの活躍・第6回:村上悠太】まるで鉄道写真が動いているような写真家ならではの画作りを追求

YouTubeやVlogなど、スチル写真とは違ったカタチで作品を生み出すクリエイターがいま注目を集めている。はじめから動画でアプローチを開始した人もいれば、もともとはスチルがメインで徐々に動画の世界に足を踏み入れていった人もいる。映像や作品に対するそれぞれのこだわり、撮影や編集に関するメソッド、さらには機材のハナシなど、6名の新進クリエイターたちに動画への想いについて熱く語ってもらった。今回は村上悠太さんをご紹介!

 

動画で“自分の世界”を究める新進映像クリエイターたち

  1. ビートないとー – ワクワクドキドキの旅&キャンプ動画
  2. 藤原嘉騎 – 雄大なドローンスケープの世界
  3. SUMIZOON – 美しい光と構図で描く独特の世界観
  4. 清水大輔 – 技法を駆使したタイムラプス映像
  5. 大川優介 – 自らの体験や思いをスタイリッシュに表現するシネマティック作品
  6. 村上悠太 – まるで鉄道写真が動いているような写真家ならではの画作りを追求

 

村上悠太(Yuta Murakami)

1987 年、東京生まれ。写真家。日本大学芸術学部写真学科卒業。「ひとと鉄道、そして生活」をテーマに、カメラ誌、鉄道誌やセミナー等で作品を発表。また東京都営交通の公式撮影も手がける。高校時代には毎夏、北海道東川町で開催される写真甲子園に出場。

 

写真では得られなかったワクワク感を共有できる

ずっと鉄道写真を撮影してきた僕にとって、動画の世界というのは憧れが強く、でも一方で挑戦する上ではなかなかハードルが高かった。そのハードルを低くしてくれたのは普段のスチル用の機材で本格的な動画撮影が楽しめるソフト、「EOS MOVIE」だった。鉄道写真の醍醐味の一つに、「鉄道車両が登場して画が完成する」という楽しみがあるが、走ってくる列車が画を完成させてくれる一連のワクワクは、ファインダーを覗いている撮影者しか感じることのできない特権だった。しかし、動画ならそれが多くの人と共有できる。そんなことを動画撮影を始めたころ、一番に嬉しく感じた。

 

僕の動画撮影は基本的に全てキヤノンEOSシステムを使用している。現在の主力機はEOS Rだ。スチルの機材のままでも動画撮影は可能だが、より本格的な撮影を楽しむなら、NDフィルター、外部マイク、大容量のメディアは用意したい。

 

NDフィルターは、動画撮影においてぜひ揃えておきたいアイテムの一つだ。動画も写真と同じく「シャッタースピード」と「絞り」、「ISO感度」で露出を決める。ただ、決定的に違うのが、写真の場合は高速シャッターで写し止めるのが基本だが、動画の場合はある程度ぶらすのが大事なポイントになってくる。高速シャッターで撮影してしまうと、再生時に動き物などがちらつく現象が起きる。そのため、ある程度のスローシャッターを使用する。

 

60フレームで撮影する場合、僕は1/60秒~1/125秒付近のシャッタースピードを選択することが多い。ただ、新幹線など高速の被写体の場合はもう少し高速寄りも使用している。いずれにせよ低速域になるので、日中の屋外などでは絞りが足りなくなってしまったり、ボケを生かした撮影ができないためNDが必要なのだ。僕はND64とND16を使用しているが、手持ちレンズの最大口径である82mmのものを1枚用意だけ用意し、レンズ口径ごとに合わせたステップアップリングで取り付けている。

 

外部マイクは、集音域を調整することもできて便利だし、カメラの動作音などが入ってしまうことも軽減できる。さらに「ジャマー」と呼ばれる風防を付けることで「バサバサ」というノイズを軽減することも可能だ。最後にメディアだが、最近では4Kでの撮影も増えてきており、一つのカットでもデータ量が写真に比べて膨大になる。また、書込速度が遅いとRECが止まるので可能な限り大容量、高速のものを用意しておきたい。

 

車両のある風景の素晴らしさを表現

J-TREC 総合車両製作所 公式ムービー「Trains Made for You.」

主に鉄道の走行パートを担当。絵コンテを元に、効果的な画になる場所を選びつつ撮影。後半の四季のシーンはストックを提供した。作品全体のテーマとは別に個人的な思いとして、製作所の皆さんが作った車両たちがどんなに素晴らしい日常や風景を作り出しているかを伝えたかった。

▲高速で走る新幹線から都会をのんびり走る車両まで多岐にわたるJ-TRECの車両。スタイリッシュなシーンがあったので、日常的シーンも提案してみたカット。乗ってきた列車が行き去り、駅で降りた人たちがそれぞれの家路に就く。その動作が数秒の中で次々と展開される。

 

太陽の光を遮る新幹線のドラマチックな場面を撮影

自作「Shinkansen」キヤノンマーケティングジャパン公式YouTube

撮影、編集ともに自分で行った作品。このシーンの時、スチールも撮影していたのだが、スチールの場合、単に夕日と新幹線、もしくはただ影になった新幹線という画になってしまい、面白くなかったが、動画では夕日を新幹線が遮る、といった印象的なシーンになった。

 

望遠レンズでの撮影では風などによる揺れに注意

実際の撮影は必要に応じてパンやズームも行うが、基本的にはスチルを横で合わせて撮影することが多いので、固定画面の画が多くなる。ただその一方で、フレーミングや光、構図などに極力気を配り、どこか写真的な画の中で車両が動き、木々が揺れ、川が流れるといったイメージを多く撮影している。写真では表現しきれない、瞬間ではなく”画が変化していく面白さ”が動画の画作りの楽しいところだ。

 

ただ、鉄道撮影で多用する望遠レンズでの動画撮影時には、風などによる揺れに悩まされている。対策としては三脚を複数使用したり、ロケ車や布をうまく使って物理的に風をカットして対策しつつ、場合によってIS(手ブレ補正)機能とカメラ内の電子ISを組み合わせて使用する。ISを使用すると画面がゆっくりと揺れるが、それでも「カクン!」となる硬い揺れよりよい。最後の手段は編集時にブレを取り除く方法に頼ることもある。

 

動画での仕事はチームの一員として撮影を託されることも多い。一本の作品としての完成形を描いた絵コンテを受け取り、そこから自分のできる画作り、撮影地選び、鉄道への思いをどう入れ込んで映像を提供するか。そんなことを考えるのも楽しい。自分が提供した映像に音楽や編集を加えて、自分の想定以上の作品に仕上がるという経験はとても刺激的だ。

 

行先表示のLED が欠けないようにシャッター速度を見極める

人工灯下などで発生するフリッカーは行先表示のLED文字にも関係してくる。シャッター速度が適切じゃないと、次の写真のように文字にフリッカーが発生したり、表示の欠けが起きる。対策は問題が起きないシャッタースピードを車両ごとに見つけるしかないので、テスト撮影が欠かせない。

 

三脚などは動画専用の機材を用意

三脚はパンなどがしやすいマンフロット504HD535Kを使用する。マイクはキヤノンの指向性ステレオマイクロホンDM-E1を使用。また、車内など三脚を使用しづらい状況では自立式一脚シルイP-2045を使用する。こちらの雲台はマンフロットMVH500AHを使っている。

 

シャッター音の処理方法は?

スチルと同時に動画も撮影しているため、どうしても動画にシャッター音が入ってしまう。マイクを離すというのも手だが、編集時にシャッター音だけカットし、後の音の部分を若干前にずらして画と合わせている。BGMをつけるので音のズレなどは特に気にならない。