特集

【2020ベストバイ】緊急事態宣言下の東京を「X100V」片手に見つめ続けた ─ 鹿野貴司さん

1年で世界のありようがガラッと変わってしまった2020年。あっという間に1年が終わってしまったという方も多いのでは? ほんの少しでも楽しんで明るい2021年を迎えていただきたく、プロの写真家やカメラライターに「2020年に買ってよかったモノ」を一斉調査しました! さあ、何が出てくるかな?

鹿野貴司さんの2020年ベストバイ「富士フイルム X100V」

FUJIFILM X100V
INDUSTRIA (インダストリア) のX100V専用ボディケースも購入。枠がパステルカラーのマルミ製フィルターは廃番になってしまったため、色とサイズをたくさんストックしている。こういうフィルター復活してほしいなぁ。

発売日に即購入「コロナを撮ってやろう」

前モデルの「X100F」は発売日に買い、3年間で総ショット数が10万枚を超えるまで使い倒した。2020年9月に「#shibuyacrossing」という写真展を行ったが、展示作品の7割近くを撮ったのが「X100F」だった。この写真展のためにひたすら渋谷スクランブル交差点でスナップを撮り続けたが、サイズ、形状、操作性、レンズの焦点距離すべてが僕の撮影スタイルに合っていたようだ。

その次のモデルが発売されると聞いたら、そりゃ買い替えないわけにはいかない。かくして「X100V」も2月27日の発売日に購入。この日は本来ならCP+の開幕日。それが中止になったので買いに行けたわけだが、そのころは「東京五輪もどうなるんだろうなぁ……」くらいに思っていた。と同時に「ここは憎たらしいコロナウイルスを撮ってやろう」という気持ちも芽生え始めていた。

プリントできれいなボケを実感

程なくして緊急事態宣言が発令され、その日から毎日自宅から徒歩範囲を撮り歩き、毎日「note」にアップし続けた。天気や行動、気分でその日持ち歩くカメラを決めていたが、ここでも出番が多かったのがやはり「X100V」だった。こちらも急遽6~7月に「明日COLOR」という写真展で発表することになり、プリント作業をしていてあらためて買い替えてよかったと実感したものだ。

X100シリーズは初代から4代目のFまで同じレンズが搭載されていたが、5代目となるVでは光学系を一新。それまでのレンズは絞り開放での描写が柔らかく、とりわけ逆光や近接時には大口径のオールドレンズのような味わいがあった。それがVでは絞り開放からカリカリにシャープ。柔らかい方が好みなんだけどなぁ……と思っていたのだが、大きくプリントするとピントが合った部分からきれいにボケていくのがよくわかる。

手触りのよさにテンションアップ! “モノ”としての魅力がある

そのほかにも、新しくなったり、新たに加わった機能もいろいろあるけれど、何より使っていて嬉しくなるのは外装がアルミニウム合金になったこと。マグネシウム合金だったF以前とは見た目もさることながら、手触りがまったく違う。写りに直接寄与するわけではないけれど、今のような暗い世の中ではテンションが上がる要素も大切。緊急事態宣言のときにこのカメラを持ち出すことが多かったのも、スペックだけでなくモノとしての魅力もあったからだと思う。

2020年下半期はコロナ禍で3つの写真展を行うことになり、なかなか自由に撮り歩く時間もなかった。2021年こそはコロナ禍が明け、この「X100V」でいろいろ撮り歩きたいものですな。

富士フイルム X100V 実写作例

FUJIFILM X100V 作例

緊急事態宣言中は息子の保育園も休園に。朝夕は息子連れで街角を撮りつつ、成長記録も撮るのが日課だった。新しいフィルムシミュレーション「クラシックネガ」は被写体を選ぶ面もあるが、こうしたスナップには効果を発揮しやすい。

富士フイルム X100V 絞り優先オート F2 1/125秒 −0.3補正 ISO320 WB : オート フィルムシミュレーション : クラシックネガ

 

 

〈文・写真〉鹿野貴司