報道に携わるカメラマンの現場に迫るこのシリーズ。今回フォーカスするのは、「読売ジャイアンツ」ファン御用達ともいうべき『スポーツ報知』の “ジャイアンツ番” カメラマン。巨人担当としての撮影のやりがいや難しさはどこにあるのか? 数々の熱いシーンはどんな思いで写し取っているのか? ズバリ直撃した!
報道カメラマンの現場NEXT
- 水谷章人 × 第62回NHK杯 体操
- 中西祐介 × B.LEAGUE ファイティングイーグルス名古屋
- スポーツ報知・相川和寛 × プロ野球・巨人軍
- 髙須力 × セパタクロー
報道カメラマンの現場NEXT③ スポーツ報知・相川和寛 × プロ野球・巨人軍
タイミングを計り選手の表情を鮮やかに描き出す
坂本勇人内野手がタイムリーヒットで出塁。ベンチに向かってガッツポーズを決める瞬間を狙った。自身の腕やベースコーチが顔にかぶらないタイミングを計りレリーズ。「EOS R3」と「RF400mm F2.8 L IS USM」のおかげで、瞳の中のキャッチライトまでガチピンのカットが得られた。
信じられる機材を使いこなし「巨人担当」の役割を果たす
『スポーツ報知』の相川和寛さんは、読売ジャイアンツ (巨人) の撮影を担う “巨人番” カメラマンだ。ペナントレースの試合だけでなく、自主トレから春季キャンプ、オープン戦、セ・パ交流戦、選手インタビューなど、文字どおり読売巨人軍を追いかける日々が続く。
「キャンプなどは早朝から夕方、ときには夜まで気が抜けません。もちろん同行のペン記者と情報共有は行なうのですが、常時いっしょに行動するわけではないので、どんな原稿が上がってくるのか、どんな写真が最適なのかが読みづらい場合も少なくないのです」
『スポーツ報知』といえば、読売新聞グループのスポーツ紙でもあり、巨人に関する記事内容や写真の深掘り度合いには極めて高いレベルが求められる。そんな条件の厳しい撮影をこなす相川さんの現在のメイン機材が、「EOS R3」と「RF400mm F2.8 L IS USM」。昨シーズンのオープン戦 (2022年3月) から使い始めたという。
「EOS R3のAFはプレー中の選手の瞳までガチピンで合わせてくれますし、EVFは明るさやボケも反映されて、より構図にこだわれる。高速連写時の電子シャッターのローリングシャッター歪みもわずかで、今までより “ここぞという一瞬” に集中できるようになりました」
それだけに、周囲からの写真への要求がさらに高まっている側面も。「正直、辛いこともありますが、そのぶん紙面や公式SNSに採用されると、やりがいや達成感が味わえます」
9回や延長では複数選手の動きを広く意識する
延長10回、サヨナラ二塁打の梶谷隆幸外野手に駈け寄るチームメイト。このように複数の選手が入り乱れて動きがやや読みづらいシーンはトラッキングを切り、「領域拡大 (周囲)」でしっかりと主役にAFを合わせに行く。
最新EOS R システムの性能で最高の一瞬を狙い打つ
岡本和真内野手のレフト越え2ランホームラン。打撃のインパクトの一瞬を狙うときは今でも緊張してしまうが、「EOS R3」の最高約30コマ/秒の超高速連写のおかげで以前よりも安心・確実に撮れるようになった。
定番や王道カットだけでなく「新鮮な視点」を大切にしたい
相川さんは「RF400mm F2.8 L IS USM」の描写力にも「十分満足しています」と言葉に力を込める。
「EOS R3と組み合わせたときの軽量コンパクトさが気に入っています。ナイターの場合、午後イチで球場入りし、ゲーム前の練習からヒーローインタビューまで、長時間にわたり平均して1試合4000枚ほど撮りますから、一脚を使うにしろ、持ち運びも考えて、少しでも軽いと助かるんです」
いくら巨人担当といえども、特に撮影ポジションが優遇されることはなく、通常ホームゲームであれば一塁ベンチ横のカメラマン席に陣取る。巨人担当2名体制で取材に臨む際は、場合によって三塁側に回ることもある。
「撮影位置が限られているので、定番カットを押さえつつも、少しでも目新しいアングルやここぞというタイミングを狙うように常々心がけています」
ここで、ふと疑問がわいてきた。対戦相手の選手、ましてやそれが昔からの憧れの選手だったりしたら、バリバリ撮ってみたくならないのだろうか?
「もともと巨人ファンですから、大丈夫 (笑)。逆に巨人選手の人柄や努力などが心をよぎることはあるので、あまり熱くなり過ぎず、素直に選手をフレーミングするようにしています。そういえば、2023年の『ワールド・ベースボール・クラシック』には巨人選手が4人選ばれて活躍したのですが、僕はWBCの取材は担当できなかった。今度はぜひ、EOS Rシステムで最高の瞬間を撮ってみたいですね」
次を予測して早め早めにレンズを向ける
戸郷翔征投手が完封。大城卓三捕手と喜びを爆発させる。スポーツ撮影では、常に次の動きを予測するのが大事
だ。効き目である右の目で「EOS R3」のファインダーを覗きながら、左目でやや広い範囲を視界に捉えておく。
球場や狙いで多少変わるが「1カメ」(一塁ベンチ横) が定位置
1カメのプレスゾーンに内側へのせり出しエリアが設けられた。ホームランからベンチに戻ってきた選手の表情や歓喜にわくチームメイトを撮りやすくなった。ファウルボールなどの危険性が増えるので、カメラマン用ヘルメットが用意されている。
EOS Rシステムをいち早く活用して長丁場のペナントレースを追い続けた
数字以上の恩恵がある軽量セットは移動や携行時のラクさが魅力
もはや “チームメイト” とも呼ぶべき「EOS R3」と「RF400mm F2.8 L IS USM」。この組み合わせは1D系ボディとEFヨンニッパのコンビよりはるかに軽量であり、撮影時の取り回しは当然ながら、航空機移動の際も携行がラクになる。
キレのある描写、F2.8の明るさは何モノにも代えがたい
キレのある描写は秀逸。「RF100-300mm F2.8 L IS USM」+1.4倍エクステンダー「EXTENDER RF1.4x」という選択肢もあるが、プレーに限らず基本は高速シャッターで捉えたいため、開放F2.8の明るさを重視している。
1D系からEOS Rシステムへスムーズに移行できた
スポーツ撮影の定番設定である「親指AF」で撮っている。このとき「AF-ON」ボタンではなく、「露出補正」ボタンでAF作動させる。EOSのプロ機は操作に統一感が維持されている点も大いに評価できる。
締切時刻を意識しながらPCへ直に画像を取り込む
試合中の撮り方を再現してもらう。ノートPCのソフト「EOS Utility」を立ち上げ、カメラから直に撮影画像をPCに取り込むようにしている。シャッターを切りつつ使えそうなカットのアタリをつけ、イニング間などに急いでキャプションを打ち込み、本社へ送稿する。
「視点」を工夫したいがためにシンクロ撮影で変化をつける
「EOS R3」のシャッターを切ると、ケーブルでつないだ「EOS-1D X Mark III」も同時に切れるようになっている。違う画角で撮ったり、選手とベンチの様子を狙ったりできる。撮影位置に変化が少ないぶん、撮り方に工夫を凝らしたいと、あれこれトライしている。
AFの進化が自分の撮り方によりマッチしてきた
「EOS R3」によって撮り方に違いが出てきたのが、AFの被写体追尾 (トラッキング) 機能の活用だろう。前よりも、カメラのAFまかせでピント合焦の確率が大きく上がっている。安心できるだけでなく、より難しい絵柄を狙いたくなる。
航空機にも持ち込めて沖縄やハワイへの取材も楽々
携行機材がわずかでも軽量コンパクトになってくれるのはありがたい。メインの「RF400mm F2.8 L IS USM」のほか、EFのF2.8大口径望遠ズームと標準ズームは必携。着替えなどの私物を入れたリュックとこの機材キャリーバッグの2つにまとめられる。
相川和寛 (あいかわ かずひろ)
1988年、茨城県生まれ。2011年に報知新聞入社。東京本社写真部に配属される。2013年から北海道支局のペン記者を務めた後、2017年に東京本社写真部へ戻る。2018平昌五輪、2020 (2021) 東京五輪を取材。昨シーズンから「巨人担当」に就く。
→ スポーツ報知 WEBサイト
〈協力〉キヤノンマーケティングジャパン株式会社
〈取材協力〉報知新聞社、東京写真記者協会、読売巨人軍
〈取材〉金子嘉伸 〈取材撮影〉我妻慶一