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インドで築いたネットワークを活かし、 ODA事業・ビジネスコンサルティング事業に取り組む

2021/10/29

国際協力に従事するプロフェッショナルに、開発途上国の現状やビジネスチャンスについてインタビューする本企画。初回に登場するのは、10年以上インドに駐在し、ODA事業やビジネスコンサルティング事業に携わる大西さん。異なる業務に取り組む中で大切にしていることや、インド市場の特徴、ビジネスチャンスが期待できる分野などをお聞きしました。

 

●大西由美子/2004年からアイ・シー・ネットで勤務。南アフリカの農村開発に1年半従事したのち、インドへ異動。2006年から4年間は旧JBIC・JICAのインド事務所でODA事業に携わる。2011年頃からはODA事業のモニタリングや評価の業務をメインで担当。ビジネスコンサルティング事業部でインド進出を目指す日本企業の支援も行っている。

 

幼少期にタイで過ごした経験が、国際協力の仕事に興味を持つきっかけに

――まずは、大西さんがインドでお仕事をされるようになった経緯を教えてください。

 

もともと国際協力の仕事に関心があり、発展途上国で働きたいと考えていました。興味を持つきっかけになったのが、幼い頃にタイで過ごした経験です。私自身、生まれは日本なのですが、日本に住んでいたのは合計7年ほど。子どもの頃はタイで6年半、アメリカで9年間を過ごしました。中でもタイでの暮らしは日本の生活とは異なるところが多く、「タイはまだまだ発展途上だ」と子どもながらに感じていました。このような国のために何かできないかと思い、国際協力の仕事をしたいと考えるようになっていったんです。

 

インドに来ることになったのは、インド人の夫と結婚したことが大きな理由です。数年後に、アイ・シー・ネットで正社員として働き始めてからはずっとインドで仕事をしていて、現在デリーに住んで15年ほどになります。気が付いたらデリーが人生で一番長く過ごしている場所になりました。

 

――長年インドに住まれていて、変化を感じたことを教えてください。

 

最初のインド生活は地方でした。地方都市に住んでいたときには周りに外国人がとても少なく、外を歩くだけでかなり目立つような状況でした。そして日本のものはおろか、海外製品もほとんど出回っておらず、インドのものしか手に入らなかったので生活は少し大変でしたね。数年後にデリーに移り住んだときには、外国人も多くいて、比較的便利な生活を送れたので、地方都市に比べると遥かに都会だと感じました。

 

しかし現在のデリーはさらに状況が変わっていて、例えばレストランもインド料理だけではなく、中華や本格的なイタリアンが味わえるようなお店が増えていたり、富裕層向けではありますが、輸入品を取り扱うスーパーマーケットなどもオープンしたりしています。外国人が増えて、海外のものが手に入りやすくなったことは、この15年間で大きく変化したことだと実感しています。

 

 

政府機関と民間企業を相手に、毛色の異なる業務に取り組む

 

成果をまとめることで“将来の事業”を成功に導く、「事後評価」の仕事

――大西さんが現在インドで取り組まれているお仕事について、具体的に教えてください。

これまで多かったのは、ODAの「事後評価」の仕事です。事後評価では例えば、政府機関が大規模なインフラ整備事業などを行った後、その事業で資金がどのように使われたのか、どのような成果をもたらしたのかなどを調査して、報告書にまとめたりしています。

 

今は、JICAがインドのバンガロールで行った上下水道事業の事後評価を進めています。この事業はJICAが継続的に取り組んでいるもので3つのフェーズに分かれており、現在は2006~2018年に行われていたフェーズ2の事後評価をしているところです。

 

フェーズ2では、浄水場を1か所建設することや下水処理場を11か所建設することなどがあらかじめ計画されていました。評価では、これらの施設が計画通りに建設され、きちんと運営されているか実際に足を運んで確認したり、下水処理場から提出してもらったデータの数値に異常がないかをチェックしたりします。例えば今回、もらったデータを確認すると、水の処理容量が規定値から外れていた時期がありました。このように何かしら問題を見つけたときには、水道局の職員と直接話をして原因のヒアリングを行うこともあります。

 

――事後評価の仕事で特に苦労するのはどのようなところでしょうか?

事後評価のために必要な膨大な情報を集めるのには、毎回苦労しています。そして、ただデータをもらって終わりではなく、そのデータが本当に正しいのかを確認したり、数値に問題があったときにはその原因を追究したり、細かく地道に進めていく作業が多いのも大変なところ。さらに作業は基本的には私一人で、一年以内に終わらせなければなりません。しかし、事後評価を通して成果や課題をまとめた報告書は、将来、別の発展途上国で同じような事業に取り組むときの指針にもなります。事業で得た学びを少しでも未来に活かすべく、責任を持って日々仕事に取り組んでいます。

 

インド進出を目指す日本企業をサポートする、ビジネスコンサルティングの仕事

――ODA事業以外で取り組まれているお仕事についても教えてください。

ビジネスコンサルティング事業部でもさまざまな業務を担当しています。例えば今行っているのは、仙台のベンチャー企業が開発した、太陽光パネルに使われる資材の品質をチェックする機械を、インド企業に売り込むサポートです。現在インドでは、太陽光発電の普及にとても力を入れています。そこに注目した日本のベンチャー企業が、「機械の導入によってインドで製造されている太陽光パネルの品質向上が見込める」と、インドへの営業を始めているんです。

 

しかしコロナ禍の影響で大企業が投資するのを控えていることもあり、なかなか思うように進んでいないのが現状です。また、機械自体も新しい技術を使って開発されたものなので、高額であることも課題の一つ。現地からも「もう少し安くできないか」という声を聞いています。そうしたフィードバックを受けて現在は、もう少し価格を抑えた機械を開発したり、性能を理解してもらうためにサンプル試験をお願いしたりして、試行錯誤をしているところ。どうしたら製品の良さを伝えられるのか、納得して購入してもらえるのかを考えながら、今後もサポートを続けていきたいと思っています。

 

積極的なコミュニケーションを図り、人間関係を築いてきた

――ODAとビジネスコンサルティングという異なる業務に取り組む中で、大西さんが大切にされていることを教えてください。

 

私が仕事でずっと大切にしているのは、「人間関係の構築」です。例えば、ODA事業で築いた政府機関とのネットワークは、企業が求める情報を集めたり、つないでほしいところを紹介したりする際にも役立っていて、ビジネスコンサルティング事業にも活かすことができていると感じています。

 

人との関係を築いていくためには、やはり直接会ってコミュニケーションを取ることがとても大事だと考えています。インドでもコロナ禍で、これまでよっぽどのことがなければ使用しなかったオンラインツールが、急速に普及しました。それでも私は、チャンスがあればできるだけ直接会いに行くことを心掛けています。そのほうが相手に顔や名前を覚えてもらいやすいですし、何かを頼んだときにも対応してもらいやすい印象があるんです。インド人からも、特に年配の方からは「直接会いに来て話してほしい」と言われることが多いように思います。また、以前、ある人から情報をもらおうとオフィスまで会いに行ったときには、「隣の部屋にいる○○さんのほうが詳しいから紹介するよ」と言ってもらえて、新たな出会いにつながったこともありました。これはオンラインではなかなかできないこと。私としても直接会って話をすることで、一緒に仕事がしやすい相手かどうかを、より見極めることができると感じています。

 

長年インドでさまざまな人との関係を築いてきたおかげで、今では、仕事で何か頼まれたときに、インドで「この人に聞けばわかる」「ここに行けば情報が手に入る」ということを、常に伝えられるようになりました。今後も積極的なコミュニケーションを図りながら、さらにネットワークを広げていきたいと考えています。

 

多様な市場を持つインドには、ビジネスチャンスも多くある

――インドの市場の特徴や、日本企業が今後進出できそうな分野について教えてください。

 

インド市場の特徴は、とにかく多様であるということです。インドと言えばどうしても、首都・デリーがある北インドの印象が強いのですが、地域によって、言語や食文化など、あらゆる面で大きな違いあります。そのため、例えばデリーで上手くいかなかったビジネスも、他の地域ではチャンスがあるかもしれません。インドを一つの市場として捉えるのではなく、たくさんの可能性がある市場として、日本企業にも知ってもらえたらと思っています。

 

今後、日本企業にとって可能性がある分野の一つは、食品加工産業です。インドは農業大国ですが、食品加工の技術があまり進んでいないため食品の貯蔵や保存ができず、フードロスが多いことが課題になっています。日本の食品加工技術や温度管理の技術によって、それらの課題を解決できるのではと期待が高まっているところです。また、インドにはレトルトなどの加工食品がまだまだ少なく、今後ニーズが高まっていくと考えられています。例えば、日本はカレーやパスタソースなどのレトルトパウチ食品が豊富で、品質も良いので、このような加工食品は今後インドに進出するチャンスがあるのではないでしょうか。

 

さらに、高齢者ケアも注目されている分野と言えます。私も今まさに、日本の高齢者ケアのサービスをインドに持ってくることができないかと、調査しているところ。さらに高齢者ケアのサービスだけでなく、日本が製造している介護器具にも可能性があると感じています。

 

日本だけでなく、世界のさまざまな国とインドの架け橋になりたい

――大西さん自身が今後取り組みたいことは何ですか?

今後もインド進出に関心のある日本企業をサポートしていきたいと考えています。そして逆に、インドから日本というベクトルでも何かお手伝いできることがあるのではと思っていますね。例えば近年インドでは、お酒に対する抵抗感も地域によってはだいぶ減ってきて、「インドワイン」などが出回るようになっています。また、インドと言えば紅茶のイメージが強いのですが、実はコーヒーも多く生産していて、最近ではスタートアップ企業がおしゃれなコーヒーショップを出店したりもしているんです。日本人はワインもコーヒーも好きな人が多いので、チャンスがあるのではと思っています。

 

私はこれまで、特定のジャンルを自分の得意分野にして仕事をしたいと考えていましたが、最近になって、自分の強みはとにかく「インドを知っていること」だと思うようになりました。今後も長年築いてきたインドでのネットワークを活かして、日本はもちろん、世界のさまざまな国とインドをつないでいきたいと考えています。

 

――最後に海外で働きたいと考えている人へ、メッセージをお願いします。

「インドで一度仕事をすれば、きっと世界のどこでも仕事ができる」ということを伝えたいです。インドは、同じ国内でも場所ごとに言語や宗教や食などの文化が大きく異なっていて、本当にさまざまな人がいる国。だからこそ大変なことも多く、日本では考えられないような問題に直面することも日常茶飯事です。しかし、その多様さこそがインドの魅力であり、面白いところでもあります。ビジネスの分野でも国際協力の分野でもきっと役に立つ学びがあるはずなので、短期間でもぜひ、インドでの仕事を経験してみてほしいです。