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日本とミャンマーを繋ぐ「食」の可能性! 発酵食品や食品加工技術などミャンマーの特性と現状を探る

2021/12/24

ミャンマーは2011年以降、政治や経済の改革によって国が大きく発展し、現在「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれています。それに伴い、人々の生活にもさまざまな変化が。食に対する考え方もその一つです。

 

そこで今回は、食品の生産、加工、マーケティングなどを自身で実践し、その経験を国際協力の場でも活かしている小山敦史氏に話を伺いました。変化するミャンマーの食生活や、日本への展開が期待できる食品、日本が支援できる食品加工技術などを解説しつつ、これからのミャンマーの「食」について考えます。

 

お話を聞いた人

小山敦史氏

通信社で勤務したのち、開発コンサルティング会社に転職。国際開発の仕事を続けながら、アメリカの大学院で熱帯農業を学び、帰国後に沖縄で農業を開始。4年間ほど野菜を生産したのちに畜産業も始め、現在は食肉の加工や販売、市場調査など、幅広く行っている。自身が実践してきたビジネス経験をコンサルティングの仕事でも常に活かしており、現在はバングラデシュで食品安全に関する仕事に取り組んでいる。

 

中間層が増え、人々のライフスタイルや食事が変化

2011年にそれまで30年以上続いていた軍政が終わり、民主化されたミャンマー。現在は再び不安定な政況になっていますが、この10年間でミャンマーの国内には、さまざまな情報やものが一気に入ってきました。経済が成長したことで、人々の所得が増え、中間層の割合も増加しています。

 

 

これに伴い、人々の生活も大きく変化しました。例えば食の分野では、欧米化が進んでいたり、それまでは贅沢だった食品が日常的に食べられるようになったりしています。2020年の食品分野における市場規模のランキングを見ると、1位がケーキやスナックなどのお菓子類で33億5600万ドル、2位がパン・シリアルで26億2900万ドル、3位が水産物で22億3100万ドルです。また2013年から2020年の間で市場の伸び率が最も高かったのはベビーフードで、140.1%も伸びたことが分かっています。

 

 

こういった傾向について、小山氏は以下のようにコメントしています。

 

「ミャンマーの人たちは、これまであまり触れてこなかった食品に対する素朴な好奇心や憧れを持っていて、それが市場規模の数字にも表れているのだと思います。水産物やベビーフードのように決して安くはない食品の市場が伸びていることからも、人々の生活が豊かになってきていることがうかがえます。さらにヤンゴンなどの都市部では現在、寿司などの日本食レストランが出てきていて、日本の食べ物に対する興味関心が強くなっていることも実感しました」

 

ミャンマー独自の「お茶の漬物」は、日本での展開も期待できる食品

さまざまな食べ物が海外から入ってきているミャンマーですが、今後、日本への展開が期待できる現地の食品もあります。その一つが、お茶の漬物「ラペッソー」。ラペッソーは、生のお茶の葉を蒸して揉みこみ、ビニール袋などに詰めて、上から重石をのせた状態で1~2カ月、長ければ1年ほどの間、漬け込んでつくられます。ミャンマーをはじめASEAN各国では漬物がよく食べられていますが、お茶の漬物はミャンマー独自のもの。ミャンマーではピーナッツや油と混ぜ合わせてお茶請けとして食べることが多く、特に地方では毎日のように食べられています。「ラペッソーは日本でも好まれるのでは」と考える小山氏に、その理由や魅力を聞きました。

ミャンマーで日常的に食べられているお茶の漬物「ラペッソー」

 

「ラペッソーは、日本の漬物と同じように乳酸発酵でつくられています。そのため私たちが普段から親しんでいる漬物に近い味わい。日本人の口にも合うはずです。日本の『柴漬け』とよく似た風味です。製造時には塩を使わず、食べる際に塩加減をするものなので、塩分が気になる健康志向の人にも手に取ってもらいやすい。さらにラペッソーには発酵のうま味があるので、調味料的に使うことも可能です。キムチのようにチャーハンと混ぜたり肉と一緒に炒めたりしてもおいしく食べることができて、その汎用性の高さも魅力だと考えています」

 

ミャンマーのお茶は多くが北東部のシャン州山間部で生産されていて、ラペッソーもそのエリアでつくられています。そこからミャンマー全土に流通しており、ヤンゴンなどの都市部ではコンビニなどでも購入することが可能です。また、常温で持ち運びができるびん入り製品なども販売されていて、海外旅行客のお土産としての需要もあります。

レモン風味のペースト状ラペッソー

 

「私が支援した現地の企業の中には、ラペッソーを欧米のレストランなどに業務用として輸出しているところもありました。日本でも販売することは可能だと思いますが、ミャンマーで食べられているものを最初からそのまま販売するのは、少しハードルが高いかもしれません。マーケティングには工夫が必要です。

 

マーケティング方法の一つとして考えられるのは、日本国内で人気のあるシェフや料理家にラペッソーを使ってメニューを考えてもらい、新たな食べ方を提案していくこと。例えばミャンマーでは現在、お茶の葉をすりつぶしてペースト状にした商品が販売されています。パンに塗ったりパスタと絡めたりして使用することを想定した商品ですが、これはミャンマー人たちにとってもかなり新しいもの。しかし日本に輸出する場合はむしろ、このような調味料に使える商品から展開したほうが、幅広い使い方をイメージしやすいのではないでしょうか」

 

「ニーズだらけ」のミャンマー市場 日本の技術が活かせるところが多くある

現在ミャンマーでは、日本への関心が高まっていることを受け、そこに新たなビジネスチャンスを見出す現地企業も出てきています。例えば今、小山氏がJICAのプロジェクトで技術支援を行っているのが、日本式しょうゆの製造にチャレンジしている企業です。ここはもともと酢をつくっている企業ですが、これから人口が極端に増えない限り、酢の市場を大きく伸ばすことは難しいと考えた社長が、何か新しいものをつくろうと、日本式しょうゆに目をつけたそう。最初は自分たちで研究開発をしていましたが、なかなかうまくいかず、JICAで技術支援を行うことになったのだと言います。

 

「ミャンマーでは一般的にとろみと甘みが強い中国式しょうゆが使われることはありますが、さらっとした日本式しょうゆはまだほとんど出回っていません。現在、日本の食品に対する関心が高まっているので、ミャンマー国内でもヒットするのではと社長は期待しているようです。日本と同じように一から醸造してつくることができれば、おそらくミャンマーで初となる、日本式しょうゆの現地生産の成功例になると思います」

 

 

発酵食品をつくる技術以外にも、食の分野で「日本から技術支援投資できることはいくらでもある」と小山氏。その一つが、衛生管理を含めた食品加工技術です。小山氏自身、食肉の加工を行っている現地企業に訪問した際、製造現場に菌などの混入を防ぐための囲いがなかったり、雑菌の繫殖を抑えるための低い室温が保たれていなかったりと、衛生管理がきちんとなされていない状況をいくつも目の当たりにしたと言います。

 

そのほかにも、例えば牛乳をつくるとき、乳を搾る段階からパッケージして店頭に並べるまでの一連の過程の中で「菌の管理」は非常に大切です。どこかの工程で菌が入ってしまえば、賞味期限が短くなったり、店頭に並んだ商品のうちいくつかの中身が腐っていたりすることにもなりかねません。小山氏は「ミャンマーでは、まだこのようなサプライチェーン全体で菌の管理をする技術が発達していないため、日本の衛生管理技術を活かして支援することができるのでは」と話します。

 

「衛生管理を含む食品加工技術はもちろん、クオリティの高い日本の食品や日本食レストランなど、ニーズはたくさんあると思います。課題の一つになるのが、外国企業に対する『投資規制』です。これはミャンマー以外の国にもあるものですが、現在、政況が不安定なミャンマーでは特に事前によく調べる必要があります。しかし経済は今後も確実に伸びていくので、日本企業が進出するチャンスは十分にあるのではないかと考えています」

 

強い起業家精神を持つ若い経営者たちが増加し、進出のチャンスも拡大

現在ミャンマーでは、祖父や父親が創業世代である、第2世代・第3世代の若手経営者たちの活躍が目立つようになってきています。彼らの強みは、「軍政時代に苦労してきた創業世代とは違って、自由な発想でビジネスができることではないか」と小山氏。さらに金銭的なゆとりがでてきたことで留学する人も増え、語学力やグローバルな視点を身に付けている人が多いことも特徴の一つだと言います。

 

 

「私はこれまで30社ほどの現地の有力企業を回りましたが、印象としてはその3分の1ほどの企業に、情報感度やグローバルへの意識が非常に高い若手経営者たちがいたように思います。例えば、欧米にお茶を出荷している企業では、事前に欧米のマーケットのあり様や食の好みなどを入念に調査して、ミャンマー国内とは異なる市場でどう展開していくのか、試行錯誤を重ねていました。また、世界的に健康志向が高まっていることを受け、お茶をすべてオーガニックでつくり、国際認証を取って海外へ輸出をしている企業もありましたね」

 

さらに小山氏は、ミャンマーにいる2世・3世の若手経営者たちには強い「起業家精神」があり、熱量を持って新しいことをやっていこうとする気持ちが感じられると言います。

 

「例えば私が出会った中で印象的だったのは、パッケージ米を売り始めた、精米所の2代目社長です。きれいにパッケージされた海外の米を見た30代の彼女は、米の量り売りが普通のミャンマーでもパッケージ米を販売したいと考え、チャレンジを始めました。パッケージ米を置くディスプレイ台を作成してお店に置いてもらえるよう頼んでまわるなど、地道なマーケティング方法ではありますが、付加価値がとれ、衛生管理レベルや輸送効率の向上も期待できるパッケージ米を広めるべく、熱心に取り組んでいます。このようにグローバルな視点を持ち、新しいことに積極的にチャレンジする経営者たちが増えてきているように感じています」

 

これからミャンマー進出を考えている日本企業は、「起業家精神が強く、情報感度の高い『新しい感覚』を持つ経営者がいる企業を、パートナーとして探すのがいいのではないでしょうか。ミャンマーへの投資は、今の政治状況では『逆張り』と言えるかもしれませんが、市場が大きく伸びる中で、魅力的な若い企業経営者が育ちつつあるのは確かです」と小山氏。経済発展が期待されるミャンマーへの進出において、「パートナー探し」も一つの大きなポイントと言えそうです。

 

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