開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、アイ・シー・ネット株式会社のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、東南アジアや南アジアなどで食の開発コンサルタントを務めている小山敦史さんです。
●小山敦史/通信社勤務ののち、1992年、開発コンサルティング業界に転職。アイ・シー・ネットでの業務を中心に国際開発の仕事を続けながら、アメリカの大学院で熱帯農業を学び、帰国後に沖縄で農業を開始。野菜を生産した後に畜産業や食品加工業も手がける。現在は、グローバルサウス諸国での食品加工・食品安全、マーケティング、市場調査などについて、自身が実践してきたビジネス経験を活かし、企業や行政機関へのコンサルティングを行なっている。
食視点でみる「日本クオリティ」5つのポイント
「近年の経済成長により、東南アジア諸国では、購買力を持った新しい富裕層や中間層が増えてきています。現地ビジネスの場合、どちらかというと、従来は現地で生産した野菜などを加工し、日本へ輸出するといったビジネスモデルが中心でした。しかし、現在では、果物をはじめ日本などの農産物が現地で高額で取り引きされるなど、日本への輸出一辺倒だった従来の構図が変わりつつあるのです」
そこに新たなビジネスの可能性があると小山さんは指摘します。
「とくに農業技術や加工技術などにおける日本クオリティに対する現地の信頼度は、依然として高い。今後はこうした日本の技術を活かし、現地で生産・販売するビジネスモデルにも大いに可能性があると思います」
今回は、日本のブランド力を活用した現地での食ビジネスについて、カギとなる5つのポイントを解説します。
ASEANに多い高原地帯での温帯性農作物に商機
現地で栽培されている農作物の多くは、熱帯野菜や熱帯果実など。これらの熱帯性農作物を日本の栽培技術を活かし、ビジネスとして成立させるのは難しいと言います。一方で、温帯性農作物には商機があると小山さん。
「意外と知られていませんが、ベトナムのダラット高原や北西部各省、インドネシアの西ジャワ州南部、フィリピンのベンゲット州、ラオスのボロベン高原や北部各県、タイ北部、マレーシアのキャメロン高原、ミャンマーのシャン高原などの高地では、キャベツやニンジン、ジャガイモをはじめ、日本でもおなじみの温帯性野菜・果実が栽培されています。温帯性農産物であれば、国内で培ってきた日本のノウハウで、より高品質な農産物を生産することができるのではないでしょうか」
高地での施設栽培技術が未発達
現在、高地での栽培は露地が中心で、施設での栽培は一部を除いて現地ではまだまだ浸透していないのが現状。
「とくにハウスなどを活用した日本の高度な管理技術には可能性があります。トマトなどの長期どり品種をハウス栽培すれば、季節に関係なく、何ヶ月も連続して収穫できます。収穫量が増えれば、その分、電気代などの固定費の割合を相対的に小さくすることができるため、ビジネスとして成立するチャンスは十分あると思います」
温帯性農作物の加工販売も有望で、日本向けとしてはもちろん、現地でのニーズも見込めると言います。
「例えば、カップ麺用の乾燥野菜に使用するキャベツやニンジンなどを効率よく生産する圃場管理技術や、ポテトチップス用ジャガイモの生産管理技術などの加工技術を持った企業であれば、さらにチャンスは広がります」
今後、需要が拡大する温帯性果実の可能性
一方で、小山さんは高原地帯での果樹栽培も選択肢となると指摘。
「イチゴやリンゴをはじめとした温帯性果実に関しては、欧米や日本、韓国などから現地に輸入され、驚くほどの高価格で販売されています。苗木づくりから、接ぎ木、剪定、摘果、防除といった、日本が得意とする一連の果樹栽培技術を活かし応用することで、これらの果実をASEAN各国の高原地帯で生産・販売する。現地で生産することで、価格を抑えることが期待できます。ベトナムのダラット高原などでは、すでに一部でこうした取り組みが見られます」
肥満問題対策としての健康食品ニーズの高まり
現在、途上国共通の課題として肥満問題が取り沙汰されています。それを受け、中間所得層や富裕層を中心に広がりを見せている健康志向。
「例えば、こんにゃく麺やこんにゃくゼリーなどのダイエット食品、豆腐バーや大豆エナジーバーなどの機能性食品は、ASEAN諸国の都市部でも販売が始まっています。またバングラデシュのダッカなど南アジアの都市部でもダイエット食品への関心が芽生え始めています。これらの加工技術は日本のお家芸。今後、大いに期待できるジャンルだと言えるでしょう」
時短にもなる中間加工品に一日の長
「いまやASEANの都市部では、女性の社会進出が日本以上に顕著。炒め玉ねぎや揚げ玉ねぎ、揚げニンニク、トマトソースなどは、ふだん忙しい家庭で調理する上で時短になりますし、業務用・家庭用を問わず、現地での需要が大いに見込めるのではないでしょうか」
家庭向けの加工食品というジャンル自体、まだまだ現地では普及していないだけに、日本の加工技術を使い、さらなる付加価値を付けた加工食品は、先進国への輸出はもちろん、現地での需要も大いに見込めそうです。
「日本クオリティ」の落とし穴に注意が必要
現地ビジネスでの成否を握るのが日本の「技術」になりそうですが、小山さんは一方で、日本クオリティにこだわりすぎるのも逆効果だと警鐘を鳴らします。
「ASEANにおいて日本ブランドはまだまだ健在で、それを打ち出せば有利になることは確か。ただ日本企業の課題として、細部にこだわりすぎて、オーバースペックになる傾向が強い点が挙げられます。商品価格が上がってしまえば、結果、現地での価格競争力が低くなり、市場が大きく縮んでしまう。とくにASEAN諸国でのビジネスを考えた場合、価格を抑えつつも、ブランド価値を十分に高めていけるような事業戦略を考える必要があると思います」
今後さらなる需要が見込まれるASEANの食市場。そんな中、現地ビジネスを成功させるには、栽培技術や食品加工技術などで日本クオリティを打ち出しつつも、臨機応変に対応できるバランス感覚が重要だと言えそうです。
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