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2025/2/25 19:35

TCLがオリンピックのデジタル体験を変えるか?中国・北京で目撃した戦略的提携の背景

トヨタ、ブリヂストンなど、2024年末ですべての日本メーカーがIOCの“最高位スポンサー”としての契約を終了したのは記憶に新しいところ。なかでも話題になったのは、松下電器産業(当時)が1987年に締結(パラリンピックは2014年から契約)して以来、37年間継続してきたパナソニックが、この“枠”から撤退したことだろう。パナソニックはAV機器や生活家電を提供してきたが、この枠に次はどこがおさまるのか? その答えが出たようだ。

 

現地の様子

2月20日、青空が広がる北京。日陰では体感気温1〜2度と厳しい寒さの中、北京国家水泳センターには総勢450名の関係者・報道陣が集まった。その目的は、TCLグループ(以下、TCL)がIOCと新たなスポンサー契約を締結するという、同社にとって歴史的な瞬間に立ち会うことである。

2008年の北京オリンピックでは競泳会場として、2022年の北京冬季オリンピックではカーリング会場として使用された施設であり、現在もスポーツイベントの舞台として活用されている。

 

2008年の北京オリンピック時に建設された通称「鳥の巣」の向かいに建つ。

 

TCLとは?

まずはTCLについておさらいしておこう。TCLは1981年に設立され、現在は世界46カ所の研究開発(R&D)センターと38の製造拠点を有し、160以上の国・地域で事業を展開するグローバルブランドである。主要事業は「家電」「ディスプレイ技術」「クリーンエネルギー」の3分野で、2024年のテレビ出荷台数は前年同期比14.8%増の2,900万台。2年連続で世界シェア第2位の座をキープした。なかでも、強みとするMini LEDテレビの世界出荷台数は前年比194.5%増という急成長を遂げている。

 

イベントの模様

イベントは少数民族の少年少女による合唱団のパフォーマンスで幕を開けた。その後、TCLの創業者であり会長を務める李東生(リ・トウセイ)氏が登壇し、続いてIOC会長のトーマス・バッハ氏がスピーチを行った。また、オリンピアン・パラリンピアンによる座談会が開かれたのち、契約締結式と記念品交換が行われた。(写真はTCL提供)

 

↑バッハ会長もオリンピアンだ。現役時代はフェンシングのフルーレ競技で活躍し、1976年のモントリオールオリンピックでは西ドイツ代表として金メダルを獲得した。任期は2025年6月までで、本イベントが最後の公式登壇となる見込み。(写真はTCL提供)

 

↑李東生氏は、フランス・トムソン社のテレビ事業やアルカテル社の携帯電話事業を買収するなど、同社のグローバル展開を牽引してきた。第10回から第13回全国人民代表大会の代表を務めるなど、中国の政治・経済界における重鎮である。(写真はTCL提供)

 

TCLがオリンピック最高位スポンサーになるとどうなる?

今回の契約締結によりTCLは、今後8年間、つまり2026年冬のイタリア・ミラノ/コルティナ・ダンペッツォ大会、2028年夏のアメリカ・ロサンゼルス、2030年冬のフランス・アルプス地域大会、2032年夏のオーストラリア・ブリスベンの4都市におけるオリンピック・パラリンピックをスポンサードすることになる。

 

同期間中、TCLはスマートディスプレイ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、スマートロック、オーディオシステム、ヘッドホン、プロジェクター、TCL RayNeoスマートグラス(AR&VR)といった多岐にわたる製品をオリンピック・パラリンピックに向け、提供する予定だ。

 

↑会場ではオリンピック、パラリンピックで提供される製品を展示。ディスプレイは、2025年の最高画質モデルである「TCL X11K」、世界最大のQD-Mini LEDテレビ「TCL X955 Max」と、「TCL A300シリーズ」が対象。(写真はTCL提供)

 

↑エアコンやビルトイン冷蔵庫など、生活家電も展示されていた。

 

特に注目すべきはやはり、ディスプレイ技術である。今回TCLが提供するディスプレイに採用される「QD-Mini LED技術」は、量子ドットの優れた色再現性とMini LEDの精密な制御技術を融合したもので、卓越した映像体験を実現するものだ。従来のLCDに比べてローカルディミングゾーン(バックライトの制御エリア)が5184と細かくなるため高精彩な上、最大5000ニットもの高輝度を局所的に出すことでハイライトがより強く、また映像の暗い部分をより深い黒で表現できる。また、青色LED光源を高精度な赤・緑の光に変換する量子ドットにより、従来のMini LEDよりも広色域で表現。さらに低消費電力で、有機ELに比べ焼きつきも少ないという、先端のディスプレイ技術である。

 

↑上が「RayNeo V3」、下が「RayNeo Air 3」。

 

さらに、次世代のAR&XRスマートグラス「RayNeo X3 Pro」も提供するという。発表会場には、左右に備えた2つのカメラでメガネで見たままの写真を撮影しBluetooth接続したスマホへ送れる「RayNeo V3」、第5世代のマイクロ有機ELディスプレイを備え、映画視聴やゲームのプレイなどが楽しめる「RayNeo Air 3」が展示されていた。

 

このようにTCLは、オリンピックの舞台を単なるスポンサーシップの場としてだけでなく、技術革新を世界に示す機会と捉え、最先端のディスプレイ技術やスマートグラスを提供することで、オリンピックの視聴体験そのものを変えようとしている。

 

↑最新製品も同時展示。これは視野角178度を誇る「HVA Pro」を搭載した98インチ4Kテレビ。

 

↑車載用のディスプレイ。メーターなどの表示のほか、映像も同じパネルでシームレスに表示する。木目パネルの表面に薄いディスプレイを貼り付けており、映像の奥に木目が浮かび上がる。

 

↑ノングレアで明るい場所でも見やすいディスプレイ。スマホカメラを通して見ると、チラつきもないことがわかる。

 

TCLとスポーツ支援の歴史

TCLとスポーツの縁は意外と長い。30年以上にわたりスポーツ支援を続けており、サッカーや競馬、eスポーツなど幅広いジャンルでスポンサー活動を行ってきた。最近では、連日の快進撃で日本代表初のオリンピック出場を決めた、FIBAバスケットボール・ワールドカップにも協賛。今後IOCとの協力により、さらに大規模なアスリートサポートと、マーケティング効果を期待している。

 

日本市場におけるTCLの存在感

↑日本で販売されている「TCL 115X955MAX」「TCLX955」。(写真はTCLサイトより)

 

一方、世界的な家電メーカーがひしめく日本でのTCLの存在感はどうか? レグザ、シャープ、ハイセンスで過半を占める日本市場において、現在、TCLの販売シェアは金額ベースで約8%、第6位の位置にある。

 

「日本は技術革新の最前線である、と捉えている。日本市場向けに144Hz Mini LEDテレビや98インチの超大型スクリーンテレビをいち早く導入し、日本市場の高いニーズに対応。これによってグローバル市場での同カテゴリー展開のベースを構築した」とTCLは回答している。

 

また、グローバルブランドイメージ向上の鍵となる市場ととらえているようだ。「日本市場は、高い技術基準と厳格な品質管理が求められるため、TCLが日本市場で成功することは、グローバル市場におけるブランドの信頼性を大きく向上させることにつながると考えている」という。

 

日本市場に対する効果は?

TCLは現在、例えば同じく中国から日本へ進出しているハイセンスよりは知名度で劣る。だが、オリンピックスポンサーになることでブランドの認知度向上は確実。特にブランドの信頼性を重視する高齢者層へのアプローチが可能となるほか、量販店との関係強化にもつながると見られている。

 

 

TCLに限らず、中国メーカーはスポーツマーケティングに積極的である。例えば、上記ハイセンスはFIFAワールドカップやクラブワールドカップの公式スポンサーを務めている。一方、オリンピックスポンサーから撤退した日本メーカーは、今後どのようなグローバル戦略を展開するのか、その動向にも注目が集まる。