デジタル
2016/3/14 8:30

【西田宗千佳連載】「高性能コーデック」の普及でワイヤレスヘッドホンは高音質化した

「週刊GetNavi」Vol.40-3

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ワイヤレスヘッドホンでは、通信にBluetoothが使われている。サラウンドヘッドホンでは独自規格が使われることが多いし、過去にはポータブルオーディオ向けの独自規格もあったが、現在はほぼBluetoothに統一されている。理由はもちろん、ほとんどすべてのスマホとパソコンがBluetoothを採用しているからだ。

 

Bluetoothは若干複雑な規格である。規格の中には無線通信を規定した部分と、その通信の上でどんな機器を使うのか、という部分(プロファイル)とに分かれている。そしてさらに、ヘッドホンに対応する「A2DP」というプロファイルの中で、どの音声圧縮方式(コーデック)に対応するかで音質が異なる。A2DPは規格上、「SBC」と呼ばれる方式を使っている。だから、最低限どの機器をつないでも音は出る。しかし、常に音質が同じ、というわけではない。

 

SBCは音質を重視した技術ではなく、伝送遅延も大きい。最大4分の1秒程度遅れた上に、SBCへの再圧縮でデータが失われ、音が悪くなる。遅延は、映像を見る時やゲームをする時にはかなり厳しい値といえる。

 

それを解決すべく生まれたのが「aptX」や「aptX-HD」、「LDAC」といったBluetooth向けコーデックである。そして、AppleがiPhoneで「AAC」を使うようになってから、BluetoothヘッドホンでAACを使う例も増えている。各コーデックの特徴はのちほど説明するが、簡単に言えば、これらはどれもSBCよりは音質が良い。

 

ただし、スマホと組み合わせて使う場合は、スマホ側とヘッドホン側で同じコーデックに対応している必要がある。それぞれで対応コーデックが違うと、規格上必須であるSBCでしか通信ができないので、音質はよくならない。また、いま、どのコーデックで通信をしているかは確認しづらく、そこもわかりづらさの元になっている。

 

と、脅かしてみたが、最近はSBCしか使えないということはまずない。ヘッドホン、Bluetoothともに、aptXを開発したCSR社のBluetooth技術を採用する例が増えているからだ。ヘッドホン側の場合、SBCのほかに「aptX」「AAC」に対応している場合が多い。また、ソニー製のものの場合は、同社が開発した「LDAC」も合わせて採用している。CSR社は2015年8月、クアルコムに買収された。そのため、今後スマホへの採用はさらに加速するだろう。SBC以外の高音質コーデックを使う際に「技術がわかっていなくても問題ない」製品が増えて満足度が高まったことが、ワイヤレスヘッドホンの普及に一役買っている。現状、LDACとaptX-HDについては、対応スマホが少ない。LDACはソニー製スマホに限られるし、aptX-HDは新しすぎて、普及が本格化するのは今年の後半以降だろう。

 

ちなみに、音質を技術別に優劣をつけると、「SBC<AAC=<aptX<LDAC=aptX-HD」と考えていい。特にLDAC以降は、音質面で格段の違いがある。条件の良い環境では、LDAC、aptX-HDともに、ハイレゾに近い音質が実現できる。

 

だが、必ずどこでもいい音で聴けるわけでもない、というのが、Bluetoothの難点でもある。それがどういうことなのかは、次回のウェブ版にて。

 

「Vol.40-4」は3/21(月)更新予定です。

 

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