「週刊GetNavi」Vol.40-2
日本やヨーロッパでは、ヘッドホン市場の主軸はまだ有線のものだ。音質面でもコストでも、ワイヤレスが不利であることは否めない。だが、最大の市場のひとつであるアメリカでは、ワイヤレスヘッドホン、それも、オーバーヘッドタイプのものが販売金額ベースでは主流となっている。
これには主に、3つの背景がある。
ひとつ目は、元々通話用のワイヤレスヘッドセットの普及率が極めて高かった、ということだ。アメリカは自動車大国であり、自動車の中で使うにはワイヤレスヘッドセットが便利だ。そのため、ヘッドホンでも通話ができるものを求め、さらにはワイヤレスを求める土壌があった。
ふたつ目に、スマホで音楽を聴く比率が高い、ということだ。日本ではCDもまだ現役だが、アメリカでは専門店が街から姿を消して久しい。「Pandora」や「Spotify」といったストリーミング配信も広く使われており、ネットラジオの利用率も高い。そのため、自分が持ち歩いているスマホで音楽をネットから受信して聴く、という使い方があたりまえだ。そうなると、自宅で落ち着いて聴く時にはワイヤレススピーカーを、一人で聴く時にはワイヤレスヘッドホンを、という使い方が便利になる。
そして三つ目が「Beats by Dr. Dre」の市場占有率の高さだ。BeatsはいまやAppleの子会社でありグループブランドだが、そうなる前から、Beatsはアメリカのティーンの憧れだ。スポーツ選手やラッパーと組んで使用シーンを見せ、ファッションアイテム化させるマーケティングが成功。2012年以降「次に買いたいヘッドホンブランド」で40%(市場調査会社IBISWorld調べ)を超える支持を得るなど、圧倒的なマーケットシェアを持つ。ライバルはBoseやSkullcandy、ソニーなどだが、ことアメリカ市場では束になってかかって、ようやくBeatsに追いつく、というレベルである。そのBeatsが推しているのが、ワイヤレスでノイズキャンセル機能もついた「Studio Wireless」シリーズと、イヤーインでスポーツに向く「PowerBeats2 Wireless」シリーズ。となれば、対抗上他社もワイヤレスの製品を押し出さざるを得ない。
結果、アメリカは他社に先駆けてワイヤレスヘッドホンが普及した市場となり、ヘッドホンの単価も200~300ドルと、高い状態が維持されている。
その裏には、アメリカの消費者が音質よりも利便性やファッション性を重視する傾向が強い、という事情も影響しているだろう。日本やアジアで広がりはじめ、ヨーロッパでも価値を認められつつある「ハイレゾ」も、アメリカではほとんど浸透していない。ハイレゾを楽しむなら有線の方が有利であり、日本で高級ヘッドホンといえば「ハイレゾ対応」がメインなのだが、アメリカではそうでない。このため、高級ヘッドホンといえば「ワイヤレス」で「ノイズキャンセル」なのである。
とはいえ、Bluetoothの音質については改善の兆しがあり、それが普及を後押しした部分もある。その経緯と難点については、次回のウェブ版にて。
「Vol.40-4」は3/14(月)更新予定です。
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