エンタメ
2017/11/12 11:30

雑誌『クロワッサン』編集長に聞く 作り手のメッセージを読者に伝え続けること

ブックセラピストの元木忍さんが“今、気になる人”を訪ねる連載企画。今回は、今年創刊40年を迎えた雑誌『クロワッサン』(マガジンハウス)の山田 聡編集長のもとへ。ロングセラーで、なお確固たる支持を得ている雑誌の、制作の舞台裏について、またポリシーや工夫についてお話をうかがいました。

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創刊40年、キャッチフレーズは時代に合わせて変遷してきた

元木忍さん(以下、元木):1977年の春に創刊された「クロワッサン」ですが、まずは山田さんのプロフィールをお聞かせください。

 

山田聡さん(以下、山田):大学卒業後、地方新聞社に2年半勤め、そのあとマガジンハウスに第二新卒として入社しました。1990年のことです。最初の4カ月は制作部に。その後、『クロワッサン』編集部に配属されて6年半在籍したのち、『ポパイ』『ダカーポ』と異動し、ふたたび『クロワッサン』に戻りました。

 

元木:そして編集長になられたのが2013年という。

 

山田:はい。トータルで18年半、『クロワッサン』編集部にいますね。

 

元木:40年という歴史ある『クロワッサン』ですが、あらためてどんな雑誌ですか?

 

山田:よく聞かれるのですが、実は答えにくい質問なんです(笑)。たとえば、マガジンハウスには『&Premium』という30代の女性に支持されている月刊誌があるのですが、これは“ベターライフ”とひとことで表現していて。それがうらやましいですね。

 

元木:では『クロワッサン』のキャッチフレーズは?

 

山田:うちは40年の歴史のなかでキャッチフレーズが変遷しているんですよ。創刊当初は“女の新聞”で、その後、“男の暮らし方、女の暮らし方”になりました。

 

元木:ユニセックスにフォーカスしたわけですね。

 

山田:暮らし、なかでも“家事は本当に女性だけのものなのか?”を問うたキャッチフレーズでした。そして今年の春に創刊から丸40年を迎えて、あらためて「クロワッサン」とはどういう雑誌であるのかを考えましたね。『クロワッサン』は暮らしの技術、家事の技術、料理の技術だけでなく、“自分がどう生きるのか?”ということを散々やってきたんです。そうした蓄積をステップにして、どういう暮らし方を考えたらいいのか、となったときに、新しいキャッチフレーズが生まれました。

 

元木:それが“創意ある暮らしは美しい”ですね。

 

山田:はい。でも、いまいちわかりにくい(笑)。われわれ作り手、発信側としては、提供するたくさんの情報を「読者側が自分なりに組み合わせて、ご自身の暮らしにフィットさせる、なじむようにしてくださる」ようにしたい。そういう雑誌づくりを意識していますね。

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クロワッサン No.959

500円(税込)/マガジンハウス

 

1977年、雑誌『an・an』の別冊として創刊。松原惇子による同名のエッセーを語源とする「クロワッサン症候群」という言葉を生むほど、女性たちの支持を集め、話題を提供してきた。毎月10・25日発売

 

今も色褪せない、オピニオンリーダー誌の存在感

元木:40周年記念号では、創刊号のダイジェストが別冊付録になっているんですね。懐かしい!と思いながらも、今もまったく色褪せていません。レシピページも読み応えがありますね。

 

山田:料理のレシピ記事ひとつにしても、たとえばトンカツのレシピでは、揚げ方から理想まで、“トンカツを作る哲学”を延々と語っているんです。

40周年記念で作られた、1977年春に発売された創刊号のダイジェスト版。表紙を見ると、「an・an」の別冊的な存在で登場したことがうかがえる。当時はマガジンハウスの前身である平凡出版からの刊行だった
40周年記念で作られた、1977年春に発売された創刊号のダイジェスト版。表紙を見ると、「an・an」の別冊的な存在で登場したことがうかがえる。当時はマガジンハウスの前身である平凡出版からの刊行だった
トンカツのページには、レシピにとどまらず、「たいめいけん」の創業者・茂出木心護さんによるお店での思い出話も加えられ、東京の洋食の歴史まで伝わってくるようだ
トンカツのページには、レシピにとどまらず、「たいめいけん」の創業者・茂出木心護さんによるお店での思い出話も加えられ、東京の洋食の歴史まで伝わってくるようだ

 

元木:トンカツを作る手順でいいのに、その背景と意味をちゃんと示しているんですね。また、こちらのページの“今、クロワッサンが尊敬している”という“前田さん”とはいったい誰?と思ったら、八百屋さんだなんて!(笑)。今でいうところの読者モデルというか、オピニオンリーダーというか。

記事中に登場する“八百屋の前田さん”。一介のひとにもポリシーがあり、学ぶべきことがあると感じさせられる。編集者たちが目利きに自信を持って発信する情報が、「クロワッサン」の肝だ
記事中に登場する“八百屋の前田さん”。一介のひとにもポリシーがあり、学ぶべきことがあると感じさせられる。編集者たちが目利きに自信を持って発信する情報が、「クロワッサン」の肝だ

 

元木:さらに、この時代に、すでに「整理学」があるんですねぇ。

 

山田:はい。それを永六輔さんに語っていただいているという。また、今でこそ珍しくないでしょうが、「婚前生活のすすめ」だとか「離婚」についても特集してきました。こうして発行し続けてきたなかで、「ここまで、われわれが前に立つべきなのか?」という葛藤は、私だけでなく歴代の編集長にはあるんですけどね。

 

元木:「離婚」といえば、昨年末も特集されていましたよね?私のまわりで、こっそり読んでいる既婚男性を見つけましたよ(笑)

 

山田:「最も捨てたいのは、夫!」ですね(笑)。その前に、夏に「捨てたい!」という特集をしたところ、反響がとてもよくて。読者アンケートによると、モノだけじゃなくて人間関係もなんとかしたい、しかもそのなかに“夫”という声も多くて……。ならば「やってしまえ!」と出しました。とはいえ、年末年始という、出版物の、ある種エアポケットである時期(注:広告クライアントはじめさまざまな企業活動が停滞する時期であり、出版物の“動き”ももっとも少ないとされている)ならば、やってもいいか、と決断しました。

 

元木:で、いかがでした?

 

山田:当初、まったく“動き”ませんでした。ですが、松の内を明けたらグワーッと売り上げが伸び出しましてね。

 

元木:なるほど、お正月休みにはもっともふさわしくないネタですものね(笑)

 

山田:せっかくの家族団らんの場で、さすがに“離婚”なんて話題で波風は立てたくないですよね(笑)。でも、本当に大きな反響がありました。いまだに問い合わせがあるんです。先日お会いしたモデルさんが「あの号、みんなでザワツキましたよ!」とおっしゃっていたぐらいです。ですから「今年も、クロワッサンは夫について考えます」という特集を予定していますよ。

 

気軽に手にとってもらえる“ポジティブ”なつくり

元木:ひとつのジャンルに特化した専門誌ではなく、暮らしに関する、ありとあらゆることを取り上げる特集主義というのが、『クロワッサン』の特徴のひとつだと思うんです。その特集する内容は実にバラエティに富んでいますが、どのようにして企画や構成を決めているんですか? 毎年、この時期にコレ! というような鉄板ネタがあるとか?

 

山田:お正月明けと夏前の年2回は、必ず「ダイエット」、年度の節目には「片付け」関連を特集していますね。ダイエットにしろ、片付けにしろ、同じ言葉を使っていては読者に飽きられてしまうので、工夫をしています。おかげさまで安定的にご購入いただいています。うちの読者は、健康に関心が高い方が多いのですが、ストレートに“健康”とうたうのではなく、その周辺からアプローチするようにしています。

 

元木:具体的にはどのようにアプローチをしているんですか?

 

山田:たとえば「タンパク質を摂ることが大切です」と伝えたいなら、「お肉食べましょう!」と。栄養を摂取するというよりも、おいしいものを食べてその結果、「いいものを吸収した」となるようにしています。

 

元木:同感です! 栄養のことばかり突き詰めて考えるよりも、「おいしくてカラダにいい」ほうが、うれしいですよね、絶対に!

 

山田:ですよね。健康ものとしては、「胃腸から若返る食事術」という特集もありまして。これもよく動きましたね。表紙は、女性ふたりの写真(精進料理教室を主宰する60代の姉妹ユニット「iori」さん)だったのですが、販売営業の部署からは「特集にストレートに結びつく写真にしたほうがいい」と言われました。でも「このふたりを見ていると、幸せな気分になってこない?」と突っぱねました(笑)

 

元木:たしかに、ほんわかした気持ちになってきますね。それにしても『クロワッサン』って、なんだか“怖くない”んですよね。「●●●●が危ない!」というような、怖がらせるつくりではなく、全体的にいつもポジティブで。

 

山田:ネガティブなタイトルを打ったこともあるんですが、あまり支持されませんでした。規模の小さな雑誌ならアリだと思うんですが、全国のみなさんに読んでもらうことを考えると、ポジティブなほうがより手にとってもらえる。これは経験でわかってきたことです。

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手間をかけなければ読者の心には響かない

元木:『クロワッサン』とは、読者にとってどんな立ち位置にあるんでしょう? 読者と一緒に並んで歩く? それともちょっと前を歩いて読者の手を引っぱってくれる? はたまた、後ろから背中を押してあげるとか?

 

山田:“ちょっと先”でしょうね。真似できるようですぐには真似できない、といった部分があると思います。インテリア記事を例にあげると、比較的親しみやすいような見せ方をしているので、「これなら簡単」と思っていただけるかもしれません。けれども、実はちょっとレベルが高くて、このセンスに近づくのはなかなか難しい、でも完全に遠いのではないという。

 

元木:絶妙な立ち位置です。朝ごはんのシーンもそうですよね。できそうでできない、素敵な食卓ばかり(笑)。でも、「できるかも!」と勇気付けてくれます。

 

誌面には読者の方というか、一般の方が登場しますが、そうした方々を探し出すのは大変でしょうね。

 

山田:はい。スタッフが頑張ってくれています。いつも「手づくりを忘れてはいけない」と伝えています。もちろん自分に対してでもありますが。

 

元木:“手づくり”とは?

 

山田:今はインターネットを検索すればなんでも出てくる時代です。ですが、そこで見つけたものだけじゃダメなんです。もしもスタッフが、ネットの情報をそのまま企画にして提案してきたら、「ここに、あなたの判断はあるの? そのまま載せてはダメ」と返しますね。そこで「いいよ」と答えてしまえば、簡単に雑誌ができるんでしょうが、やっぱりそれはできません。

 

元木:なるほど。その手間を惜しんだら、この誌面はつくれませんよね。たとえば、インテリアやリフォームといった住宅特集では、どんな方法で取材対象を探すんですか? 企業秘密になっちゃうかもしれませんけど(笑)

 

山田:ひたすらリサーチします。たとえば住宅特集なら、建築家さんにいっせいにご連絡して、「こういうテーマですが、マッチする施工例のお宅をご紹介してください」とお願いしたり。

 

元木:そうしたところから、雑誌への信頼感が生まれるんですね。

 

ところで、『クロワッサン』は、マガジンハウスのほかの雑誌とはタイプが違うように思えますが、社内のなかでどういった存在なのですか。

 

山田:うーん。やはり、ちょっと異質な存在ですかねぇ(笑)

 

元木:カッコイイだとかオシャレなだけではないというか。奥が深いなぁ、と常々思っています。それに『クロワッサン』の表紙には、電車の車内吊りのように文字情報がたっぷり盛り込まれていますよね。かといって、うるさく感じさせず、文字で見せるのがとても上手です。

 

山田:ありがとうございます。それは伝統かもしれません。僕が編集部員だったころは、表紙を文字だけにすることはよくありましたし、とてもインパクトがあったんです。でも、今の時代のデザイナーさんにそれをお願いしても、システムが変わっていることもあって「できません」となってしまう。販売営業の部署からは「写真一枚でドンとキメてほしい」とお願いされたり。そういった葛藤もありますね。

同じくダイジェスト版には、表紙の変遷がズラリ。「クロワッサン」の歴史とともに、世相が見てとれる
同じくダイジェスト版には、表紙の変遷がズラリ。「クロワッサン」の歴史とともに、世相が見てとれる
商品を美しく、かつカッコよく見せるレイアウトデザイン。「さすが!」のひと言につきる
商品を美しく、かつカッコよく見せるレイアウトデザイン。「さすが!」のひと言につきる

 

自分たちのメッセージを信じて発信していく

元木: こうして創刊号の表紙を見てみても、とても40年も前のものとは思えません。古臭さが感じられない。何年、何十年経っても違和感ないというのは、不思議です。すごいと思います。想定する読者の年齢層は、変えていないのですか?

 

山田:創刊当時からの読者もたくさんいらっしゃって、『クロワッサン』とともに年齢を重ねていらっしゃいます。でもこのところ心配なのは、“卒業生”が出はじめてしまっていること。雑誌としては“最後”までついていくわけにはいきませんから……。われわれはどこかで年齢を止めなくては。でも読者が卒業されていくという、その寂しさを感じていますね。

 

元木:老舗雑誌はどこも抱えている課題ですね。

 

山田:若い人にとっては、もはや“おばあちゃんが読んでいた雑誌”なんです。お母さんどころじゃありません。先日、ある方とお話をしましたら、「美容院でクロワッサンを置かれたことがショックだった。まだそれを認めたくない。だからクロワッサンを買いません!」って。その方、40代なんですけどね……。僕のほうがショックを受けましたよ(笑)。

 

元木:創刊したころのターゲットは20代後半だけれども、一緒に年をとっちゃったから、もう60代後半。ファッション誌なら、20代向け、30代、40代、50代と年代によって読む雑誌が変わりますが、『クロワッサン』が届けているのは生活の知恵ですからね。つまり、何歳でも読めるし、何歳になっても役に立つのに! では、若い方々を取り込む工夫をなさっているんですか?

 

山田:ファッションや美容の特集では、意識的に“40代からの”という言葉をつけるようにしていますね。

 

元木:読者の方との交流会などは?

 

山田:それは、ほかの女性誌に比べると圧倒的に少ないですね。

 

元木:接点を求めていないとか……?

 

山田:どうなんでしょう。同業他社さんから「『クロワッサン』さんは、やりたい企画をできていいですね」と言われたことがあります。アンケートや読者との面接調査をもとにページをつくっているわけではないので。でも、そう言われた当時は、編集長になって間がなくて、「どうつくろう?」「読者の声を聞くべきか?」と散々迷っていたころでした。
ですが今は、『クロワッサン』はいけるところまで、自分たちのメッセージを発信していこうと思っています。付録に頼ることなく、守れるところまでは守っていきます。

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編集長渾身の特集企画の構想とは?

元木:現在、編集部には何名が所属していらっしゃるんですか?

 

山田:僕を入れて14名ですね。女性9名、男性5名です。月に2冊発行していますから2班に分けて、交代制にしています。1冊の制作期間は、短くて1カ月半ほど。ダイエット特集の場合は、結果を出しますから、もちろんもっと時間をかけていますが。

 

元木:特集のほか、連載も多彩で安心感ある記事ばかりです。山田さんおすすめの連載はありますか?

 

山田:ひとつは、巻頭にある長尾智子さんのレシピ「素材の出会いもの。」ですね。やさしい味わいで、本当においしいんです。

 

元木:ふたつの食材を掛け合わせながら、シンプルなレシピですよね。

 

山田:料理をずっとしてきた人にとっては試しやすいんですよ。でも長尾さんがおっしゃっていたんですが、まったくの初心者だと不安だそうですね。食材が2種類しかないので、「味の決め手が想像できない」「拠り所がない」と。先日そう聞いて、なるほどと腑に落ちました。

山田編集長自慢の連載のひとつ。料理研究家でエッセイストの長尾智子さんによる、「素材の出会いもの。」は、ふたつの食材を掛け合わせたことで生まれる妙味を楽しめる
山田編集長自慢の連載のひとつ。料理研究家でエッセイストの長尾智子さんによる、「素材の出会いもの。」は、ふたつの食材を掛け合わせたことで生まれる妙味を楽しめる

元木:なんとなくわかる気がします。ほかにはありますか?

 

山田:『クロワッサン』は“本”を大切にしていますから、著者インタビューの「本を読んで、会いたくなって。」ですね。

 

元木:毎号、新刊5冊に5名の著者を紹介されていますね。この文字数におさめるのは大変そう(笑)。

こちらもお勧めの連載「本を読んで、会いたくなって。」。作者や訳者にインタビューを刊行することで新刊を紹介するコーナーだが、単なる新刊情報でも書評でもない、読み手(編集部)の思いが伝わってくる記事だ
こちらもお勧めの連載「本を読んで、会いたくなって。」。作者や訳者にインタビューを刊行することで新刊を紹介するコーナーだが、単なる新刊情報でも書評でもない、読み手(編集部)の思いが伝わってくる記事だ

 

先ほど、ダイエットや片付けといった定番企画があるとはうかがいましたけれど、編集長にとって、今まさに温めている“隠し玉”的な企画を教えてください!

 

山田:これまた直球な質問ですね(笑)。今の時代って、ギクシャクしていて、他人のちょっとしたことが許せなくて過剰に攻撃する傾向にありますよね。そういった時代に“生き方の可能性を探る”というか。お金に頼らなくてもいいじゃないか。交換・贈与で世の中をまわしていくという提案ができないかと模索しています。そして、もうひとつ……

 

元木:もうひとつ?

 

山田:前の編集長のときから相談していたんですが、「an・an」でセックス特集ができるんだから、うちでもできるのでは、と。いろいろな方向を考えている、持ち越しの課題ですね。

 

元木:“大人の性”と向き合うんですね。

 

山田:はい。表現の方向性さえ見つかればやりたいです。僕の代ではなく、次の編集長がやるのかもしれませんが。

 

元木:ちなみに、よその雑誌や競合誌を研究されることはあるんですか?

 

山田:いえ、いっさい見ないようにしています。書店でも見ないんです。売れているかどうか、書店店頭での“冊数の減り具合”はチェックしますけどね(笑)。『クロワッサン』にはいろいろな意味で、競合誌がないんです。特集主義でつくっていますから、自分たちでやっていくしかないんですよ。

 

元木:なるほど。それにしても、トータルで18年半も女性誌をやっていらっしゃると、女心が手に取るようにわかるのでは?(笑)

 

山田:それがなんとも(笑)。前の編集長から「ぜんぜん女の気持ちがわかってない!」とよく言われていましたから。

 

元木:でも女心がわかっているから、刺さる特集ができるんだと思いますけれど。

 

山田:そこに対する不安は、常に持っています。女性の読者は手に取ってくれるのだろうか? この号がまったく売れなかったらどうしよう? 一冊も売れなかったら……という悪夢を見るほどですよ。

 

元木:作り手が男性か女性かで、違いはありますか?

 

山田:ありますね。男性は、というか僕は理屈で考えますが、女性はそうとも限りません。先ほど女性誌は見ないと言いましたが、まったくジャンルが異なる雑誌は見るんです。で、台割(雑誌一冊分の構成をページ順に並べた一覧)を分析するんですが、一見めちゃくちゃに見えるんですよ!(笑) 女性のおしゃべりって、話題があちこちに飛びますよね。でも最終的にどこかに落ち着いて、しかも楽しい。それとまったく同じで、それがそのまま一冊の雑誌になっているんです。

 

元木:とてもよくわかります(笑)。

 

山田:この台割をつくれるのはすごいなぁ、と思います。でも、男の僕はそんなふうにはつくれない。僕がやったら、ただの無秩序な台割になるでしょう。それが戒めになっていて。逆に順序立ててわかりやすく、細かいところに気をつけて、手に取ってもらえるように心がけています。

 

元木:でもそこがわかっている……というのは、やはり女心の理解に長けていますよ。

 

山田:『クロワッサン』は、甘糟 章(元マガジンハウス副社長)が1977年に“女の新聞”というキャッチフレーズで創刊しました。その後、吉森規子編集長(のちにマガジンハウス社長)になって、創刊以来の考え方を維持しつつ、“男の暮らし方、女の暮らし方”というキャッチフレーズになりました。僕は吉森時代に編集部に入り、そのあと竹内正明編集長に交代したんですが、吉森さんは感覚的なつくり方で、竹内さんは、噛んで含むようなつくり方。僕は、難しいですが、ふたりのいいトコどりをしたいと思っているんです。

 

元木:それがもうできていらっしゃるんじゃないでしょうか。

 

山田:読者の支持をもらえているとしたら、ありがたいことですね。でも、2-3号続けて売れると、ふと慢心が出て……すると、とたんにそっぽを向かれてしまいます。やっぱり読者のほうが、僕らよりはるかにベテランですから。『クロワッサン』と読者が積み重ねてきたひとつひとつを大切にして、これからも読者を触発するような誌面をつくっていきたいですね。

 

Profile

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クロワッサン編集長 / 山田 聡(右)

地方新聞社を経て、1990年にマガジンハウス入社。クロワッサン編集部からポパイ編集部、ダカーポ編集部を経て、ふたたびクロワッサン編集部に帰還。2013年より編集長を務める。『クロワッサン』は現在、毎月2回発行の本誌のほか、オンラインも展開しており、読者への情報提供をより充実させている。

クロワッサン

https://croissant-online.jp

 

ブックセラピスト / 元木 忍(左)

brisa libreria代表取締役。卒業後、学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と一貫して出版に関わる。その後、東日本大震災を機に人生を見直し、2013年にココロとカラダを整えることをコンセプトとした「brisa libreria」を起業。訪れる人が癒される本を中心に据え、エステサロン、ヘアサロンを併設する複合サロンとして、南青山にオープンした。

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