GetNaviプロデューサー・松井謙介は悩んでいた。
家電・デジタルを中心としたトレンド情報誌であるGetNaviでは、最新の製品や技術、便利な使い方などのガジェット情報を情熱をもって読者に送り続けてきた。その一方で、いまだ家電の誤った使い方などによる事故は絶えず、そうした「安心・安全」についての情報は伝えきれていないのではないだろうか……。そんな思いが常に胸中にあった。
そんな折、「あるメディアが、家電の安心・安全問題に本腰を入れて取り組みはじめるようだ」という情報が松井の元へ舞い込む。あるメディアとは、TEPCO(東京電力エナジーパートナー)が提供する動画マガジン「くらしのラボ」。わかりやすくかつユーモアのある短尺動画でファンを着実に伸ばしており、しかもテレビの家電通選手権で優勝歴もある家電王こと中村 剛さんが出演しているということで、業界からの注目度も高い。焦燥感を抱いた松井P、敵情視察……もとい今後のモノメディアとしてのありかたの道を探るべく、その撮影現場に潜入することを決意した。
■くらしのラボの詳細はコチラ↓
https://www.facebook.com/LifestyleLaboratoryTEPCO/
■くらしのラボのyoutubeチャンネルはコチラ↓
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いざ、撮影現場へ!……って本当にココであってる?
数日後、松井Pは実際に撮影が行われるというスタジオへ足を運んだ。しかし、地図に示された場所にあったのは、どこからどうみても廃工場にしか見えない建物。
しかし、建物のなかを覗くと、真剣な面持ちで準備を進める家電王・中村さんの姿を発見! ひとまず、ガセネタではなかったようだ。
しかし、見れば見るほど通常のスタジオとは雰囲気が違う。地面はコンクリートだし、小道具として、こたつや自作されたと思われるコンセント、電子レンジなどが置かれている。かたわらには消火器もスタンバイ……って消火器!? これはもしや――。
スタッフ:断線コードが発火するカット、撮影しまーす!
ん? 発火……だと!?(身構える松井P)
そう、今回くらしのラボが取り組み始めた「安全シリーズ」は、実際に事故が起きる様子を動画内で再現し、その危険性や対策を視聴者に自分ごととして考えてもらおうというもの。しかも、単なる資料映像っぽくないから、本当に自分の家でも起こりそうな気がしてくるのだ。百聞は一見にしかず、この日撮影された4本をダイジェストで紹介するので、一度ご覧いただきたい。
あのウワサはウソ? ホント? 実際にその目で確かめてみて!
※専門家の指導のもと、安全に十分な配慮を行って実験しています。絶対にマネしないでください。
(1)「電子レンジで卵を温めると爆発する」はガセ? それとも本当?
家電の使い方にまつわるウワサ、というとこれを真っ先に思い浮かべる人も多いのでは? かつては声高に言われていた印象だが、最近は「レンチンで卵爆発はガセ」「生卵はダメだがゆで卵は大丈夫」とさまざまな説がネット上に飛び交い、正直、何が本当なのかよくわからない。……ということで、実際に検証したのが次の動画だ。
結論、電子レンジで卵を温めると爆発する。生卵もゆで卵も爆発する。しかも、電子レンジから出してしばらく経ってから爆発することもあるようだ。口に入れた瞬間に爆発したら……と想像すると、思わず身震いするほど恐ろしい。このように感じるのも、動画で実際に爆発する卵の勢いを見て、聞いたからこそ。現場でも、爆発の瞬間、遠まきに見ていた人でも思わずビクッとしてしまうほどだった。
(2)電子レンジで人参が燃える? その下ごしらえ、危ないかも!
次も同じく電子レンジに関するもので、「電子レンジで人参を温めていたら火が出た」という事象を検証。下ごしらえなどでレシピに含まれていそうな工程だが、果たして…?
このように、人参のような根菜類は電子レンジで燃えることがあるようだ。原因は、なんと炭素。吹きこぼれなどの汚れが電子レンジ内部でそのままになって炭化していると、そこから発火する危険もあるんだとか。家に帰ったら、ちょっと掃除してみようかな……。撮影現場では、人参の切り方や並べ方によって燃えたり燃えなかったりということがあったので、「これまで発火したことないし、ウチの電子レンジは大丈夫」という考えは危険!
(3)こたつでぬくぬく、潜むワナ。まさかの出火原因
冬といえば、やっぱりこたつ。ぬくぬくまったりで、そのまま寝てしまうなんてことも。でも、こたつの火災事故って実は結構多い。その原因と対策は?
こたつの熱源の部分からの発火かと思いきや、今回動画で紹介されたのは、こたつのケーブルの断線による火災事故。炎も熱もないところから発火する様は、かなり衝撃的だ。収納するときにケーブルを束にして引っ張る、こたつの脚でケーブルを踏んでしまう、といったことが断線の原因になるとのこと。でも、これってかなりあるあるでは? みなさん、今年はこたつを引っ張り出した際、真っ先にケーブルの状態をチェックすべし…!
(4)いつ起きても不思議じゃない!? 恐怖のトラッキング現象
どの家庭にも存在するであろう、しばらく抜き差ししていないコンセント。それ、結構危険かも。今度は、自宅にいないときでも発火の可能性がある「トラッキング現象」についての動画だ。
トラッキング現象とは、コンセントまわりなどに埃が蓄積したことが原因で、そこから放電・発火する現象のこと。聞くだけでも恐ろしいけれど、実際に見るともっと恐ろしい……。現場でも、思った以上の音と光に出演者含めスタッフ一同、かなり驚いた様子。これはなかなか写真では伝えられないリアルさだ。 特にテレビまわりは配線が多く埃もたまりやすいので危険なのだそう。この動画をみて、早く家に帰って確認せねばと焦ったのは筆者だけでないはず。
いずれも現場ではかなり準備を要していたのだが、その甲斐もあってか短いなかにも観るものにきっちり強い印象を残していく。動画ゆえに、“リアルさ”が伝わってくるのだ。松井Pも同じコンテンツを読者に届ける立場として、今回の見学で感じ入るものがあった様子。撮影が終わると、早速、家電王に声をかけにいった。
気づけば夕方。撮影を終えて――
松井:いやあ、撮影お疲れさまでした。家電王! それにしても2分に満たない長さの動画だというのに撮影時間が結構長いですね。
中村:そうですね、例えばコードの断線動画の撮影はだいたい撮影だけで1時間くらいでしょうか。家電をセッティングしたり、今回ならコードが燃えやすいような環境を作ったりといった下準備もあるので、トータルではもっと時間がかかっているんですよ。
あとは、今回の動画はいずれも発火やちょっとした爆発などを再現させるということもあって、撮影するスタジオも火が燃え移らないような場所を借りるように気をつかいました。ほかにも最寄りの消防署にも届け出をだす等、万が一にも事故にならないように最新の注意を払っているんです。
松井:なるほど、それでこのスタジオだったんですね。最初は場所を間違えたかと思いましたよ(笑) それにしても、これだけ念入りに準備が必要となると「ちょっとやってみよう」程度の覚悟ではできませんね。あ、それがネット上にこうした動画があまりない理由なのかも。
中村:スタジオ入りする前もなかなか大変なんですよ。「こたつのコード断線編」では手作りのコンセントを作ったりしていますし、「電子レンジで卵が爆発編」では撮影時に慌てないように卵が爆発するまでの時間を事前に試して測定したり。
松井:撮影中も結構大変でしたよね。「こたつのコード断線編」では、なぜか本番ではコードがなかなか発火しなくて何度もリテイクしていましたし。コードが悪いんじゃないかということでいくつかのコードを試すなど、試行錯誤されていたようですね。
中村:本来なら発火しないコードのほうが安全性の高い良いコードなんですけどね(笑)
松井:そういえばそうだ(笑) ところで、なぜここまでの労力をかけてまで、今回の「安全シリーズ」をやろうと考えたんですか?
中村:「くらしのラボ」では、読者(視聴者)のくらしを便利にしたい、ということで家電などを紹介していますが、「便利」のなかには「安全」というのも含まれると思うんですよね。そこはセットで伝えていきたいという思いは立ち上げ時からありました。ただ、最初から安全性のほうにふってしまうとなかなか興味をもってもらいづらいなと。スタートから2年以上経ち、「くらしに便利な情報を発信しているところ」だと認知されてきたので、改めて「安全」についても取り組んでいこうと思ったんです。
松井:なるほど。そこはGetNavi含め、あまりメディアが啓発できていないところですね。
それにしても、くらしのラボの動画は知りたい要素が短い時間に凝縮されているのが見事ですね。しかも、家電王とほかの出演者のやり取りが面白くて、ドラマ仕立てで楽しんで観られるのがいい。
中村:観ていて楽しい動画を目指して作っているので、そういってもらえると嬉しいですね。こういった啓発動画はどうしても真面目になりがちなんですが、やっぱり真面目なだけだと継続して観てもらえないと思ったんです。ちなみに「くらしのラボ」はこれまでに週1回のペースで累計140本ほどの動画コンテンツを配信しているんですよ。
松井:週1本!? 継続は力なり、ですね。配信はFacebookが中心のようですが、SNS上での反応などはどうですか?
中村:1つの投稿に対して、平均で30件、多いときで150件以上のコメントのやりとりがあります。基本的にはほぼすべてのコメントに返信していますよ。
松井:いま、さらっとすごいこと言いました? すべてに返信って、あれですよね、「今後の参考にします」的な……。
中村:いえいえ、ちゃんと各メーカー広報に確認して、より突っ込んだ回答をしていますよ(笑) これが結構人気なんです。
松井:なんと! そのユーザーと向き合う姿勢は我々も大切にしていきたいですね。
見学を終えた松井Pは、どこかスッキリした表情だ。その心中を聞いてみた。
「いやあ、『安全』を伝える動画を撮影するのに、こんなに大掛かりな撮影環境が必要だとは思わなかった。現場を見てみると、撮影にかかる時間もそうだけど、場所の確保やスタッフの数、機材の種類などは、当たり前だけど雑誌の1企画とは比べ物にならない手間がかかってるし、さすがのクオリティだと感じましたね。あと、同じクリエイターとして実感できたのは、なんといっても動画のパワーかな。動画なら文字を読むのが嫌いな人でも、子どもでも、とりあえず見るだけで感覚的に内容が理解できるのが強い!
とはいえ、GetNaviみたいな活字中心のコンテンツはじっくり理解したり、あとから読み返したりというのに優れているから『どっちが良い』というものではなく、それぞれの役割があるとも思いました。ここのところはGetNaviプロデューサーとしてはものすごく強調しておきたいところです(笑)」(松井)
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