ヘルスケア
2019/11/22 18:00

フィルムからデジタル、そしてAI活用—光学の最前線を追う! 内視鏡の知られざる世界

人間ドックや精密検査でおなじみの「内視鏡」が、実は飛躍的な進化を遂げてきた機器で、その進化を目撃できるミュージアムまで存在するのをご存知だろうか。先端技術に興味のある人も、「胃カメラとどう違うの?」という人も必読。

 

「胃の中を覗く」をついに叶えた夢の機器

胃の中を撮影できる「胃カメラ」が世界で初めて実用化、発売されたのは、1952年のこと。開発したのは日本企業で、オリンパス光学工業(現・オリンパス)だ。

 

もちろん当時はWi−Fiどころかデジカメすらない。当時の胃カメラは、端的に言えば「ワイヤーで遠隔操作する超極小カメラ」であり、それをフィルムカメラでやってのけたのである。なお、現在でも「胃カメラ」という呼称は使われるが、そのほとんどは口腔、食道から胃、十二指腸まで対象とする「上部消化管内視鏡」だ。

 

内視鏡の歴史を紐解くと、「光ファイバー」や「CCD」、「AI」といった、科学技術の最先端に触れることになるのも興味深い。人命に関わる機器だけに、各時代の最先端技術が惜しみなく投入されているというわけだ。

 

その一方で、内視鏡に欠かせないもう1つの要素が「製造技術」。胃カメラや内視鏡の製造には、極めて高精度な製造技術が要求される。内視鏡の分野で、日本企業は世界でも高いシェアを誇っているが、まさに「モノづくりニッポン」の面目躍如といえるだろう。

 

 

「見える」だけでなく診断と治療の支援にも

現在の内視鏡は、単に「映像が見える機器」というだけでなく、診断と治療の支援にも使われている。

 

まず診断においては、内視鏡とほかの技術を組み合わせる方法が一般化してきた。これにより、観察精度が向上し、より病変部を早期に発見しやすくなっている。これは、現場の医師の時間や労力を減らして負担を軽減するといったことにもつながる進化だ。

 

そして治療において内視鏡は、「低侵襲治療」の実現にひと役買っている。侵襲とは身体に傷をつける行為のことで、たとえば開腹手術もそうだ。近年注目されている「低侵襲治療」とは、できるだけ侵襲を小さくする治療のこと。内視鏡下外科手術は、開腹せずに組織の切除や異物の回収を行うことができる。「忙しいので長期の入院はできない」といった悩みを持つ人にも大きな希望となるだろう。

 

なお、「オリンパスミュージアム」では、こうした内視鏡の進化の歴史と最先端技術を体験できる。実際の器具を手に取って操作できるため、内視鏡とはどう使うものなのかをリアルに把握できるのだ。筆者も今回、ミュージアムへ行き、内視鏡に親しんだことで、次の内視鏡検査では不必要な不安を抱かなくなると確信できた。そして、もう1つ、ここまで検査・診断技術が進んでいるなら、積極的に受けない手はないとも思えたのだ。

 

1952(昭和27)年

世界初の胃カメラが誕生!

開腹せずに胃の内部を撮影・観察できるように

写真は、世界で初めて実用化し、発売された胃カメラ。先端部分に極小のフィルムカメラを備えており、撮影操作は手元で行える。撮影時は挿入管を持つ必要があるため、撮影操作は片手で行うことになる。

 

胃カメラの初号機はこんな仕組みだった

胃カメラ初号機の構造。挿入管の先端にレンズとフィルムがセットされ、管内のケーブルやワイヤーを通して撮影とフィルム巻き上げをする。

 

↑フィルムは、白黒フィルムを6㎜幅に切って巻き、カートリッジとして収納。25枚程度撮影できた。展示品は現像後のもの

 

↑医師が手にする操作部。先端部分の角度変更、ランプ点灯(撮影)、フィルム巻き上げといった操作をここで行う

 

↑先端部は、フィルム、ランプ、レンズで構成。シャッターはなく、ランプを一瞬点灯させてフィルムを感光させる仕組みだ

 

↑挿入する軟性管。ランプ点灯用のケーブルやフィルム巻き上げ用ワイヤーが収納されている。もちろん先端は防水・遮光設計だ

 

 

【そのころ、カメラはこうだった】

1952年

オリンパス フレックス

戦後の二眼レフブームに合わせて開発されたオリンパス初の二眼レフ。元祖であるローライフレックスと比べても、より高い性能を実現しており、独自機能も多数盛り込まれていた。

 

 

1955年

 

オリンパス ワイド

35㎜のワイドレンズを装備。レンズ交換式でないカメラでも美しい広角写真を撮れる本機は当時、爆発的な人気に。ワイドカメラブームのきっかけとなった。

 

 

1964(昭和39年)

光ファイバーがリアルタイム観察を可能に

患部を直接的に観察できるという革命的な進歩

ファイバースコープ付き胃カメラ。接眼レンズで胃内をリアルタイムで観察しつつ、胃カメラで撮影することが可能。その後、撮影まで接眼部のカメラでできる器具も登場し、管先端のカメラは不要になった。

 

↑光ファイバーを用いたファイバースコープを覗き込んだところ。管が曲がっていても、先端のレンズが捉えた像が確認できる

 

 

↑光ファイバーの現物。片側から当てた光が漏れたり吸収されたりせずに、色と明るさを保って反対側から出ているのがわかる

 

↑手元の操作部。先端部が上下左右に動かせるようになっており、胃カメラに比べて観察できる範囲が拡がった。

 

 

【そのころ、カメラはこうだった】
1963年

オリンパス ペンF

世界初にして世界唯一の、ハーフ判一眼レフカメラ。小型化のためのポロプリズムや、高速性と耐久性を両立したロータリーシャッターなど、開発者の苦心と工夫が随所に見られる。

 

 

1985(昭和60)年

モニターを使ったビデオスコープの時代へ

 

CCDによりモニターで確認や画像処理も可能に

初期のビデオスコープシステム。映像がモニターに表示されることで、複数のスタッフで同時に確認可能になった。各人の連携が取りやすく、検査効率や診断精度の向上が期待できる。

↑先端に内蔵された小型CCD。CCDで捉えた電気信号を映像に変え、ケーブルを通してモニターに送る

 

 

さらにハイビジョン化や超音波利用などの進化が

上写真は、2002年に登場した世界初のハイビジョン内視鏡システム。高精細な映像により微小な病変の発見に貢献できる。検査時間の短縮にもつながり、医療スタッフや患者の負担軽減といったサポートもする。

 

↑超音波内視鏡も登場。粘膜表面に加えて粘膜下の状態も観察可能になり、病変の深さやリンパ節への転移などの情報が得られやすくなった

 

 

【そのころ、カメラはこうだった】
1984年

オリンパス OM-3

小型、軽量、静音・低衝撃シャッターといった特徴を持つOMシリーズ。OM-3は電池なしで作動する機械式ながら、1/2000秒高速シャッターやマルチスポット測光などを実現した名機だ。

 

 

2019(令和元)年
早期発見と低侵襲治療がカギに

内視鏡は胃や大腸以外にも様々な箇所に用いられる器具に

昨今、内視鏡による検査や処置治療は、消化器以外にも様々な臓器に対して行われている。部位や目的ごとに太さや長さ、構造の異なる多種多様な専用の内視鏡が存在する。

 

■耳鼻咽喉

 

■気管支

 

■十二指腸

 

■大腸

 

■膀胱

 

■関節

 

こんな小型内視鏡も

内視鏡が届きにくい小腸などの臓器で役立つのが、カプセル内視鏡。すでに実用化されており、作動時間の向上や見たい部位への誘導システムなど、さらに研究が進められている。

↑カプセル内視鏡は口から飲み込む。その後、蠕動運動で消化管内を運ばれつつ間欠的に撮影。画像は体外に無線送信する

 

 

ここまで来ている「早期発見」

ハード・ソフトの両面で早期発見を支援

現在の内視鏡は、ハードとソフトの両面で医師の診断を支援可能に。技術進歩で、特殊な光による特定部位の強調や顕微鏡のような超拡大が実現しており、得られた画像をAIが解析するソフトも登場。より早期の発見と診断のサポートが期待される。

 

特殊な光を用いて粘膜の微細構造を強調する「NBI」

NBIとは「Narrow Band Imaging」(狭帯域光観察)の略。特殊な波長の青色光と緑色光を利用することで、粘膜表層部の毛細血管や深部血管などを強調して映し出し、わずかな病変の発見をサポートする。色素による染色を用いる従来の手法と比べて、患者の負担軽減も期待できる。

 

↑食道を、通常光で観察した場合(左)と、NBIを使用した場合(右)。毛細血管の集まりやパターンが鮮明に表示される

 

内視鏡画像をAIが解析して腫瘍の可能性を数値で示す

↑支援ソフトを用いた画像診断も登場しつつある。検査中の画像をAIが解析し、ポリープが腫瘍性か非腫瘍性かの可能性を数値で出力。医師の診断を支援する

 

光学520倍を実現した超拡大内視鏡も

↑最大で光学520倍の拡大ができる超拡大内視鏡も存在。細胞レベルでの観察がリアルタイムで直接行えるため、不要な生検を省略できる可能性が期待される

 

 

●「早期発見」をミュージアムで実際に体験

内視鏡を駆使した患部観察に挑戦

内視鏡の体験スペースでは、内臓の模型に内視鏡を挿入し、内部を観察する体験ができる。右手で管を慎重に出し入れしつつ、左手の操作部を握り、先端の向きを変えていく。意図した場所を見るだけでも大変だ。しかも実際の臓器は当然動いているのだ。

 

↑NBIによる患部観察にチャレンジ。カメラを目的の位置に向け(これが大変)、通常光とNBIを切り替える

 

↑内視鏡による観察とサンプル採取を体験。実際に採取はしないが、鉗子でサンプル採取までの操作を行う

 

 

ここまで来ている「低侵襲治療」

身体が回復しやすい「内視鏡下外科手術」

低侵襲治療の代表例が、内視鏡下外科手術。内臓に対して患部の切除や異物の摘出が必要な場合に、開腹せず内視鏡下で行なうことで、低侵襲で治療できる。一般に回復が早いので入院期間が短く済み、術後の痛みや傷跡も少なくなる可能性が高い。

 

内視鏡で確認しつつ目的に応じた鉗子で処置を行う方式

内視鏡下外科手術は、患部を見るための内視鏡と、処置するための鉗子を、腹部などに空けた小さい穴から挿入して行う。このとき、内視鏡の画像はモニターにリアルタイム表示される。鉗子のほか、電気エネルギーで切開や止血を行なうエネルギーデバイス(下部参照)が使用されることもある。

↑腹腔鏡下胃切除の場合。腹部に小さな穴を空け、内視鏡や鉗子を挿入。その後、モニターを見ながら鉗子などで処置する

 

高周波電流と超音波振動の合わせワザも可能に

↑高周波電流と超音波振動の両方を利用した画期的なデバイス。手術時の「血管封止」「組織剥離」「組織把持」「切開」「止血」操作を、交換・持ち替えなしで行える

 

 

●「低侵襲治療」をミュージアムで実際に体験

内視鏡下外科手術の操作を体験してみる

オリンパスミュージアムでは、内視鏡の映像を見ながら外科手術用鉗子を操作する体験もできる。上記の「観察」と違って内視鏡の操作はしないが、両手の鉗子で別々の作業を行うのが難しい。なお、ここではエネルギーデバイス(右記)の実物を手にすることも可能。

↑徹底して手術中の使いやすさに考慮されたエネルギーデバイス。触ってみて初めて気が付くこだわりも

 

↑手術体験では、把持鉗子を持ち、内視鏡が映す「患部」をモニターで確認しながら、小物を持ち上げる

 

 

内視鏡から顕微鏡、カメラまでその歴史を体感できる新スポット

オリンパスの技術歴史館「瑞古洞」が、先日「オリンパスミュージアム」と名を改めてリニューアルオープン。「顕微鏡」、「カメラ」、「内視鏡」など、同社が培ってきた光学技術を生かした歴代製品が、解説とともに展示されている。体験コーナーでは、展示されている医療機器に触れるほか、検査や手術機器の操作も体験できる。

 

歴代の名機がズラリと並ぶカメラコーナー

↑カメラも展示。同社初のカメラ「セミオリンパスI型」(1936年)を始めとするフィルム時代の名機のほか、歴代「PEN」シリーズなども揃う。

 

行ってのお楽しみ超貴重な顕微鏡も

↑顕微鏡コーナーでは、同社創業の事業である顕微鏡事業の歴史がわかる。初号機である「旭号」を始め、多数の顕微鏡製品が展示されている

 

オリンパスミュージアム

〒192-8507
東京都八王子市石川町2951
オリンパス株式会社技術開発センター石川内
TEL:042-642-3086

入館料:無料(要予約)