ベルリンで9月上旬に開催された「IFA2016」ではスマートフォンの新製品が多数発表された。また、同イベントは家電ショーとしての側面もあり、スマートフォンやネット接続できるスマート家電の新製品やコンセプトモデルも多数出展。次世代の家電はどんな姿になるのか、IFA2016に展示されていた最新家電を見てみよう。
スマートホームの中心はキッチンへ
家電メーカー各社は、スマートフォンからコントロールできるスマート家電を多数展示していた。この分野は韓国勢とヨーロッパ勢がすでに製品を多数出しており、コンセプトモデル止まりの日本メーカーや、低価格家電でシェアを伸ばしてきた中国メーカーを1歩も2歩もリードしている。IFA2016でも韓国、ヨーロッパメーカーからスマート家電の新製品の発表が相次いだが、今回はそのスマート家電のコントローラーとしても使えるホームサーバー機能を持った製品の登場が目立った。各社が強化したのはキッチンからの家電のコントロールだ。
LGが発表したスマート冷蔵庫はコンセプトモデル。扉の部分に大型のタッチパネルを備えたディスプレイを搭載しており、画面をタッチするとディスプレイが透過し冷蔵庫の中を見ることができる。完全な透明にはならないものの、内側にいれておいた飲料の残りなどを扉を開けずとも確認できるというわけだ。
またこの冷蔵庫はWindows 10で動作しており、ディスプレイには素の状態のWindwos 10の画面を表示することができる。ノートPCやタブレット同様、ウェブサイトを見たり、YouTubeの動画を見たりすることも可能だ。そしてLGのほかのスマート家電とも接続できる。Windowsアプリを使い、タッチパネル操作で無線接続した冷蔵庫や掃除機のコントロールも可能になるのだ。すでにスマートフォンから各家電のコントロールも可能だが、このスマート冷蔵庫があればキッチンで料理をしながら同じことができるのである。コンセプトモデルのため細かい仕様は不明だが、年内には発売したいとのこと。
サムスン電子も扉の部分にタッチパネルディスプレイを搭載した冷蔵庫を展示していた。こちらの「Family Hub」はすでに製品化されており、ヨーロッパ各国やアジアの一部国で発売済みの製品である。OSはTizenで動き、ほかの家電のコントロールが可能なアプリ「Samsung SmartHome」を内蔵。スマートフォンとの連携も可能だ。たとえばリビングで視聴しているテレビの画面をそのままFamily Hubの大画面で視聴したり、スマートフォンを使ったTV電話をFamily Hubの画面で受けとったりできる。
冷蔵庫をスマート化する韓国勢の動きに対し、ヨーロッパのボッシュとシーメンスは音声認識対応のホームロボット「MyKie」を出展した。こちらもまだコンセプトモデルだが、スマート家電と接続し音声で家電のコントロールができる。また、ネットに接続し、その日の天気やニュースを読み上げてくれたり、内蔵のプロジェクターを使って壁に情報を投影してくれたり、といった機能も備えている。冷蔵庫の中の食材から、その日の献立をアドバイスしてくれるという、人工知能的な機能を持っており、キッチンやリビングに置くインテリジェンスなホームアシスタントという存在で、両者のスマート家電の中心的な製品となることが期待されている。
オーディオの世界もスマート化が進む
音質にこだわるオーディオ製品も目立ったIFA2016だが、このオーディオの世界も「スマート」「コネクテッド」とは無縁ではなくなりつつある。パナソニックは「Listen without Limits」と題して、Wi-Fiで接続できるAllPlay対応のスピーカーなどを展示。デザインに優れた製品や防水&バッテリー駆動でお風呂にも置けるスピーカーなど多彩なラインナップを提案し、家の中のあらゆる場所を音楽空間にするというコンセプトを提案していた。生活に豊かさを与える、という発想は日本メーカーならではのものだ。
また新型アンプなど高性能オーディオ機器を発表したティアックは、アナログレコード復活の動きを受け、2014年10月から海外で発売しているターンテーブル「TN-300」の後継モデル「TN-400BT」をIFA2016で発表した。型番の「BT」からわかるように、Bluetoothを搭載しレコードの再生音楽をワイヤレスで他の機器へ転送できる。またUSB出力も引き続き搭載しており、USBケーブルでPCと接続すれば48kHzでのデジタル録音も可能だ。価格は499ユーロが予定されている。そしてTN-300は新色のターコイズブルーも投入。アナログとデジタルを融合させる製品として、どちらも来訪者の注目が高かった。
スマートウオッチは腕時計を目指す
スマートフォン以外のデジタル製品で目立った動きがあったのがスマートウオッチだ。しかし、各社とも機能強化ではなく、より腕時計らしいデザインを目指した円形のディスプレイを搭載した製品が勢ぞろいした。
サムスンはIFA2016で「Gear S3」を発表。昨年の「Gear S2」同様に円形のベゼルを回転させることでメニューを呼び出すユーザーインターフェースが特徴の製品だ。Gear S3ではディスプレイサイズが大型化し、待ち受け画面=時計のフェース画面のカスタマイズ性が高まっている。モデルはデザイン違いによる「Classic」と「Frontier」の2種類。だが機能面ではGear S2との差はほとんどなく、デザインを変更した上位モデルという位置づけで、スマートウオッチの新製品としての魅力にはやや欠ける印象だった。
OSにグーグルのAndroid Wearを採用するスマートウオッチの新製品も、ASUSの「ZenWatch 3」だけという、いささか寂しい状況だった。そのASUSも昨年モデルまでのスクエアなデザインを廃止し、ZenWatch 3からは円形デザインとなった。本体右側面に備える3つのボタンもより目立つ形状となり、レトロな雰囲気を感じさせるアナログウオッチ、という印象のデザインとなった。
このようにスマートフォンメーカーのスマートウオッチがアナログ式の腕時計のデザインを目指すとなると、本家の時計メーカーのスマートウオッチのデザインの良さが際立ってくる。フォッシルはスカーゲンブランドのスマートウオッチを初展示。時計としての質感の高さはもちろんのこと、スマートフォンからの通知をバイブレーションで受けるなどスマートウオッチとして最低限の機能を搭載。文字盤の中にあるインダイヤル(小さい文字盤)のA、B、Cにあらかじめスマートフォンで着信者を割り当てておけば、着信時にアナログの針が動くなどのギミックも備えているなど、腕時計メーカーらしい製品に仕上がっている。
スマートウオッチはアップルの新製品「Apple Watch 2」が引き続き四角形のスクエアなディスプレイを採用しており、ほかのメーカーとのスマートウオッチに対する考え方の違いが明確になっている。デザインを取るか機能を優先するか、IFA2016のスマートウオッチ新製品には各メーカーの今後の方向性の悩みがそのまま表れた格好になったようだ。