「2023年は国際雑穀(ミレット)年」。国連が2023年をそう定めているのをご存知でしょうか? ミレットとは、きび、あわ、ひえなどの雑穀類の総称で、米・ニューヨークにある国連本部では先日、雑穀をテーマにした展示会が開催されました。きびなどの雑穀に国連がそれほど熱い視線を注いでいるのは一体なぜなのでしょうか?
きびなどの雑穀が注目されている背景には、世界人口の増加と食料不足への懸念があります。国連の「世界人口推計2022年版」によると、世界人口は2022年に80億人を突破し、2030年に約85億人、2050年には約97億人になる見込み。それに伴い食料が不足していくことが以前から危惧されています。
そこで注目されているのが、きびなどの雑穀。きびはイネ科キビ属に分類される作物で、推測されている原産地は中央アジアや東アジアの温帯地域。今日の日本ではほとんど栽培されなくなりましたが、アジアやアフリカ諸国の中にはきびを主食として食べてきた所があります。特にインドでは、きび、ひえ、あわなどの雑穀それぞれの品種に現地語名があり、人々に長いこと親しまれてきました。
栄養面については、たんぱく質や食物繊維を多く含むほか、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラルも豊富。栄養価がとても高いのに安価なことが大きな特徴です。
今日の世界情勢を見てみると、パンデミックに加えて、ロシアのウクライナ侵攻で、日本を含め多くの国々がインフレに見舞われています。特に食料のインフレが激しいのが、ジンバブエ、ベネズエラ、レバノンといった国。ジンバブエでは、食料の価格が例年に比べて285%も上昇し、日常生活に大きな打撃を与えているのです。きびなどの雑穀に待望論が持ち上がっても不思議ではないでしょう。
また、きびなどの雑穀のメリットとして、厳しい環境でも栽培しやすいことが挙げられます。年々深刻化している気候変動により、世界では水不足で干ばつが起きたり、逆に暴風雨に見舞われたりする地域が増えているのが現状。そこで多くの作物が被害を受けていますが、きびなどの雑穀類は、痩せた土壌や干ばつが起きるような環境でも、肥料や農薬などに頼らず育てることができるとされているのです。
桃太郎の精神
このように、栄養価が高く栽培しやすいきびなどの雑穀は、世界中の農民や人々を救う光になりつつありますが、普及を考えるうえで問題になるのは味。
きびはくせがなく、味は淡泊です。米に混ぜて食べる以外に、ピザ、パスタ、クッキー、ケーキなどの小麦粉を使った食べ物に加えたり、シリアルやスムージーに混ぜたり、さまざまな使い方が可能。そのため、多様な食文化や人々の好みに合わせて柔軟に取り入れることができると言われています。
SDGsの目標2の「飢餓をゼロに」や、目標13の「気候変動に具体的な対策を」など、SDGsの数多くの目標達成にも役立つと考えられる雑穀。アミーナ・J・モハメッド 国連副事務総長は「雑穀は豊かな歴史と可能性に満ちている」と述べています。きびは現代の日本でマイナーな存在かもしれませんが、昔話の『桃太郎』できびだんごが出てくるのを誰もが知っているように、私たちにとって必ずしも遠い存在ではありません。しかも、この物語に登場する鬼は人々に「飢餓をもたらす気象現象の主」であったかもしれないという見方があり(日本大百科全書)、現代社会に通じる部分があるでしょう。きびの力に目を向けるときが再びやって来ているようです。
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