ワールド
2023/6/27 6:00

文字VS絵。AIが芸術家に勝てないシンプルな理由

最近、AIは芸術にどんな影響を与えるのかという話が盛んに論じられています。AIを使うことで芸術家はもっと創造的になるのか? それとも悪い影響が出るのか……。さまざまな見方がある中、米・ラトガース大のエフマド・エルガマル教授は、AIを使うことで芸術家の創造力は抑えられてしまうと論じています。どういうことでしょうか?

↑しょせんアマチュア

 

コンピューターサイエンスを研究する一方、自身も芸術家であるエルガマル教授は、AIを使った芸術作品は以前から存在していたものの、新しいのは、画像生成AIツールに文字を入力することで(例えば「ヴァン・ゴッホ風の景色」という具合)画像を作ることだと論じています。つまり、DALL-EやMidjourneyといったAIツールにおいて、人間は言語を使って芸術活動を「制御(control)」していると言うのです。

 

そんなAIについて芸術家はどう思っているのでしょうか? それを知るため、同教授は、デジタル画像を生成するAIツールを使ったことがある500名の芸術家を対象にアンケート調査を行いました。

 

すると、画像生成AIツールがとても役に立つと回答したのは46%でした。その一方、32%はこのツールは便利であるものの、仕事に活かすことができないと言います。残りの22%は全然役に立たないと答えたそう。

 

芸術家にとってAIの限界点はどこにあるのか? それは、AIをきちんと制御することができないことにあります。AIを制御できる程度を10点満点で評価してもらったところ、多くは4~5点と回答。AIが作った画像は興味深いものの、仕事で活用するには不十分と見ています。プロの芸術家はAIを現実的に評価しているのですね。

 

もちろん、9割の回答者はAIの影響を受けると考えていますが、より重要な問題は、その影響がどんなものになるのか。プラスの効果を受けそうだと述べたのは、そのうちの46%であったのに対して、マイナスの影響と答えたのは7%。残りの37%は、どのような形でAIの影響を受けるのかは分からないと述べており、見方は一様ではありません。

 

このような結果の根本には、AIと人間のシンプルで決定的な違いがあります。AIの特徴は主に言語を使って画像を生成していること。対照的に、人間の芸術家はビジュアルで思考することが特徴であり、一般的に文字よりも絵——記憶や画集、写真集など——で創造力を働かせています。このような創造力と感性が本当に美しい作品を生み出し、芸術家にとっては自分と他を区別するアイデンティティーにもなり、逆に、この欠如がAIの限界であると同教授は論じています。AIに関する議論を考えるうえで、芸術作品を見る側である私たちも、この区別を頭に入れておきたいですね。

 

【出典】

Ahmed Elgammal. The folly of making art with text-to-image generative AI. June 23rd 2023. The Conversation