先日見事カメラグランプリ「大賞」に選ばれたオリンパス「OM-D E-M1 Mark II」。前回レビューしたとおり優秀なカメラであることは間違いないのだが、ここで悩ましいのが合わせるレンズ。ズームレンズが単焦点レンズに比べると画質が劣る、といわれていたのは昔の話で、近ごろは単焦点レンズに匹敵する優れた描写性能を持つズームレンズが増えてきた。ただ明るさやボケ表現では、単焦点レンズが有利なことは確か。趣味の写真撮影をより深く楽しめるレンズは、ズームか単焦点か。そこで今回は、同価格帯の人気レンズ2本を5つの項目で検証してみた。
基本スペックをおさらい
まずは今回比較する2本のレンズの基本仕様を確認しておこう。ズームレンズ代表として選んだのは、高倍率ズーム「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」だ。35mm判換算で24-200mm相当という幅広い焦点距離を持ち、開放値は全域F4に対応。機能面での見どころは、レンズ内手ブレ補正を搭載し、ボディ側の手ブレ補正と組み合わせることで、効果6.5段分の「5軸シンクロ手ブレ補正」が使えること。同社オンラインショップでの価格は税込15万1200円。
一方、単焦点レンズ代表には「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」を選択。35mm判換算の焦点距離は50mm相当で、開放値は同社ミラーレス用レンズでは最も明るいF1.2を誇る。セールスポイントは、スーパーEDレンズなどの特殊レンズを贅沢に組み込み、あらゆる収差補正とボケの美しさを追求していること。オンラインショップでの価格は税込14万2560円。
【検証1】
画角を比較!
まずは画角の違いを見るために、同じ位置から同一の被写体を撮ってみた。下の写真は、ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」のワイド端(24mm相当)およびテレ端(200mm相当)で撮影したもの。ズーム全域でF4というまずまず明るい開放値を維持しながら、約8.3倍のズーム倍率を実現したことはお見事だ。広角ならではの遠近感を生かした画面構成から、望遠による遠景を引き付けた迫力ある構図まで、ジャンルを問わずさまざまな撮り方が選べるのも魅力。
次に単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」で撮ったカットを見てみよう。遠近に誇張がなく、肉眼に近い自然な画角が得られた。ズームレンズに比べると構図の自由度は乏しいが、ズームができないことは最初からわかっているで、そこに不便を覚えるわけではない。制約があるからこそ、工夫して撮ることがむしろ楽しく感じる。サイズが一定のフレーム(枠)を使って、風景の一部分を切り取るような感覚だ。
【検証2】
ボケ味を比較!
次は開放値でのボケ表現を比較してみよう。下の写真はズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」を使い、焦点距離を25mmに、絞り値をF4にそれぞれ設定して撮影したもの。ピントを合わせた花はくっきりと解像し、その手前および背景には滑らかなボケが生じている。
上の写真では、単焦点レンズと揃えるため焦点距離を25mmにセットしたが、より大きなボケを得たいときは、さらにズームアップすればいい。次の写真は、同じくズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」を使い、焦点距離100mmで撮影したものだ。
一方、次の写真は単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」を使い、開放値のF1.2で撮影したもの。ズームレンズに比べると3段分以上も明るい開放値によって、背景はとろけるようにぼけ、一輪の花のみが浮かび上がるような仕上がりとなった。ボケは非常にやわらかく、幻想的な雰囲気さえ感じるユニークな描写だ。肉眼ではこのようには見えないので、写真ならではの表現といってもいい。
【検証3】
接写性能を比較!
続いて接写性能を見ていこう。下の写真は、ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」を使い、ズームをテレ端にしたうえで、最短距離の45cmで撮影したもの。この状態での撮影倍率は0.21倍(35mm判換算0.42倍)。名刺くらいのサイズを画面いっぱいに捉えられる。さらにズームをワイド端にした場合にはもっと接近でき、撮影距離15cm、撮影倍率0.3倍(35mm判換算0.6倍)で撮ることも可能だ。
次の写真は、単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」を使い、最短距離の30cmで撮影したもの。撮影倍率は0.11倍(35mm判換算0.22倍)。ズームレンズの優れた接写性能を先に見てしまうと、この倍率では少々もの足りなく感じるが、単焦点の標準レンズとしては平均的な撮影倍率といえる。歪曲などの収差がほとんど見られない点は優秀だ。
【検証4】
サイズと重量を比較!
外観については、両レンズとも金属外装による高品位なデザインを採用。可動部にがたつきはなく、しっかりとした剛性を感じる鏡胴だ。各部に施された密封シーリングによって防塵防滴に対応することも、両レンズに共通したメリットといえる。
サイズと重量は、ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」が最大径77.5×全長116.5mm、質量561gで、単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」が最大径70×全長87mm、質量410g。ズームレンズのほうが一回り以上大きくて重い。
【検証5】
使用感を比較!
使い勝手については、利便性と自由度でズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」が勝り、携帯性と取り回しのしやすさで単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」が勝る、という印象を受けた。
ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」は、引きの構図から寄りの構図までさまざまなフレーミングを自在に楽しめることが大きな魅力だ。旅行やイベントなどの撮影用にも打ってつけだろう。しかもズーム全域で切れ味鋭い描写を誇る。一般的に高倍率ズームといえば、画質よりも利便性重視といわれるが、本レンズは画質面に不満がほとんどない。
注意点は、ズーム倍率や開放値を考慮すれば小型軽量ではあるものの、E-M1 Mark II装着時の使用時重量は1135gと、それなりに重くかさばること。普段使いのレンズとして持ち歩くのは少々厳しい。
一方で単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」は、軽快なフットワークで持ち歩き、気軽に取り回せるレンズといっていい。ズームができない代わりに、自分の足で被写体に近寄ったり離れたりすることで、構図調整ができる。しかも、50mm相当という焦点距離は、被写体との距離感によって広角的にも望遠的にも見せられる、使い勝手のいい焦点距離だ。
さらに、F1.2という圧倒的な開放値の明るさによって、美しいボケ表現が味わえることや、暗所でも被写体ブレを抑えて撮影できることも大きな魅力といえる。
【総評】
“趣味のレンズ”としては単焦点に軍配か
個人的な結論としては、この2本のレンズからどちらか1本を選ぶとすれば、仕事の撮影用ならズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」、作品やプライベートの撮影用なら単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」という選択になる。つまり「趣味」の撮影という前提なら、軍配は「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」に上げたい。
言い換えれば、「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」はビギナーからマニアまで幅広い層におすすめでき、「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」は他人とは違った写真を目指したいこだわり派の人におすすめできる。