一眼レフカメラ用交換レンズは数多くあるが、そのなかでも7倍や10倍といった高いズーム倍率を持ち、1本持っておくとさまざまなシーンに対応できて便利なのが「高倍率ズーム」と呼ばれるカテゴリのレンズだ。こうしたズームレンズは、35mm判換算で28~450mm相当程度の製品が主流となっているが、2017年7月に登場したタムロンの「18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD(Model B028/以下18-400mmと表記)」は、望遠側を大幅に拡張した28~600mm相当(キヤノン用は28.8~640mm相当)を実現。カメラ愛好家の間で瞬く間に大きな話題となった。このようにスペック的には申し分のない同レンズだが、気になるのは実際の描写や使い勝手。そこで今回は、日帰りの旅を想定して神奈川県・箱根町に赴き、その実力をチェックした。
【今回の旅の相棒】
タムロン
18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD(Model B028)
メーカー希望小売価格/9万円(税抜)
3段繰り出し式鏡筒の採用などで、高倍率ズームレンズとしてはほかに類を見ない超望遠400mmを実現。操作感がスムーズで広角から望遠まで一気にズーミングしても引っ掛かりがなく快適だ。マウント基部に「ルミナスゴールド」と呼ばれるリングをあしらった新デザインの採用で、外観もすっきりとした印象。屋外での撮影に配慮し、簡易防滴構造も施されている。2017年12月現在では、キヤノン用・ニコン用が用意されている。
■詳しい製品紹介はコチラ
http://www.tamron.jp/product/lenses/b028.html
※本記事の作例はキヤノン用レンズを用いて撮影しています
広角から超望遠まで、この1本で驚異的な画角をカバー
はじめに、本レンズの概要をおさらいしておこう。焦点距離は冒頭にも記したように18~400mmで、APS-Cサイズセンサー採用の一眼レフカメラ用となっているため、画角は28.8~640mm相当(キヤノン用。以下同じ)。1本で本格的な広角撮影から超望遠撮影まで可能となっている。開放絞りはF3.5-6.3で、高倍率ズームレンズとしては標準的な仕様。大口径レンズではないので極端に大きなボケは期待できないものの、円形絞りの採用で自然なボケ描写が得られる。
持ち歩きの際に気になる質量は、レンズ単体で約710g(キヤノン用)。エントリークラスの一眼レフカメラボディが500~600g程度なので、その場合はボディと合わせても1.5kgを切る軽さとなる。長さは約123.9mm(キヤノン用)と、ダブルズームキットなどの望遠ズームと同程度。実際にボディに装着して手に持ってみると、レンズ鏡筒をしっかりと持ってホールディングすることができ、安定して撮影できる。日帰り旅に持っていくバッグでも十分に収納できる大きさで、当然のことながら、ダブルズームキットを持っていくよりもかなり少ないスペースで済む。
画角変化に驚愕! レンズ交換なしでこれほど違う写真が撮れる
ここからはいよいよ実写編。高倍率ズームでまず注目したいのが画角変化だ。ズーム倍率22.2倍という驚異的な数値をもつ本レンズなら、なおさら気になるところ。そこで早速、広角端と望遠端で芦ノ湖を前景に富士山を撮影してみた。28.8mm相当となる広角端では、芦ノ湖、富士山に加えて青空を広々と写すことができた一方で、640mm相当となる望遠端では富士山の山肌の様子を大きく写すことができ、改めてその画角変化に驚いた。まさに、“超望遠”高倍率ズームレンズと呼ぶにふさわしい。
一般的な標準ズームに比べると広角端は同等となるが、標準ズームの望遠端は長いものでも70mm(112mm相当)程度までであり、その差は歴然。ダブルズームキットの望遠端に多い300mm(480mm相当)と比べても、1回りほど被写体を大きく撮れる印象だ。
広角~超望遠を生かした多彩な描写が可能
次に芦ノ湖の湖畔に出て遊覧船を撮影。広角・望遠の両方をうまく生かすことで、同じ場所・被写体でありながら異なる印象の写真に仕上げることができた。
続いて、出港後かなり遠くまで行った船を400mm(640mm相当)で撮影。どっしり大きく写すことができ、その引き寄せ効果を改めて実感した。
その後、火山活動を続ける大涌谷に移動し、立ち込める白煙の様子を撮影。50mm(80mm相当)付近で白煙全体を、400mm(640mm相当)で白煙の噴出している部分のアップを狙った。こうした中望遠から超望遠での撮影を行う場合、ダブルズームキットではレンズ交換が必要になるケースが多いが、この18-400mmならレンズ交換なく素早く撮影できる。取材時、大涌谷は火山活動の影響でハイキングコースや自然研究路に立ち入ることができず、白煙に近寄って撮ることはできなかった。それでもこのレンズがあれば、その様子を迫力満点に撮ることができるのだ。
また、大涌谷にはロープウエイが通っており、このロープウェイ越しに山やさらに遠くの街並みを望むことができる。そこで、400mm(640mm相当)を使ってロープウェイのゴンドラと山、遠くの街並みを1枚に収めてみた。200mmや300mmでも同じような構図で撮ることはできるものの、400mmでの圧縮効果は圧倒的で、F11まで絞り込んで撮影することで街並みの様子を大きく写すことができた。
マクロレンズ的な使い方やボケを生かした撮影も楽しい
このレンズは、22.2倍というズーム倍率もさることながら、最短撮影距離が45cmと短く、マクロレンズ並みに被写体に近寄って撮れるという点も魅力。加えて、400mmでは約0.34倍の最大撮影倍率で撮れるほか、広角端の18mmでも被写体に近寄って背景を広く入れた写真を撮ることができる。今回の撮影行では、広角で仙石原のススキを背景を生かしながら撮影したり、紅葉の葉1枚を400mmで大きく写したりすることができた。いずれも絞りをできるだけ開けて背景のボケもチェックしてみたが、広角・望遠ともに十分なボケ描写を得ることができた。開放F値が控えめでも、近接撮影ならボケ量が大きくなって被写体を引き立てることができるのだ。
近接撮影という意味では、旅の楽しみの1つである料理や旅先で見つけた小物などを撮る場合にも、このレンズは実力を発揮する。その場合は、焦点距離を30~50mm程度にして被写体に近寄って撮れば適度な距離から被写体を撮ることができ、写りも自然な写真に仕上がる。今回は昼食のハッシュドビーフを写してみたが、50mm(80mm相当)で被写体に近寄って撮ることで、柔らかく煮込まれた牛肉の様子をアップで切り取ることができた。
手ブレ補正機構「VC」がブレのない撮影をサポート
夕方には箱根ガラスの森美術館に立ち寄り、屋内に展示されたヴェネチアン・グラスや屋外のライトアップされた(クリスタル)ガラスのオブジェなどを撮影。屋内展示では、フラッシュの使用が禁止のため室内灯での撮影となったが、カメラの高感度を使い、高い評価を得ているタムロンの手ブレ補正機構「VC」を有効にすることによって、アップでもブレなく撮ることができた。
屋外のライトアップされたガラスのオブジェは、主に広角側で撮影。ここでも手ブレ補正機構「VC」を使うことで、三脚を使うことなく撮影を楽しめた。手ブレ補正は日中での望遠撮影で有効なほか、こうした薄暗くなりがちな屋内撮影や夕景・夜景撮影など多くのシーンで有効で、三脚を携行しにくい旅先での撮影の幅を大きく広げてくれる。
このほかにも、紅葉を撮影して解像感などをチェックしたり、鉄道を撮影して動きモノを追尾する際のAFの作動をチェックしたりしたが、いずれも高倍率ズームレンズとしては良好な結果が得られ、満足できる写真を撮ることができた。画質面では、3枚のLD(異常低分散)レンズやガラスモールド非球面レンズ、複合非球面レンズの採用で収差を抑えつつ十分な解像感を保っており、AFは、タムロン独自の「HLD (High/Low torque-modulated Drive)」が採用され、高倍率ズームレンズとしては高速かつ静かなAFが可能。被写体の追尾もスムーズで、不用意にピンボケになるようなこともなかった。
【結論】汎用性が高く、エントリーユーザーからベテランユーザーまでおすすめできる1本
今回はタムロン18-400mmの旅撮影での実力をチェックしたわけだが、実際に1日撮影してみてわかったのは、このレンズの守備範囲が非常に広いということ。広角や超望遠での撮影はもちろん、近接撮影まで楽しめ、室内や夕景・夜景の撮影にも強いのだ。これだけの汎用性があれば、旅撮影に限らず、ほとんどの撮影場面で不自由することはないだろう。
ベテランユーザーのなかには、「高倍率ズームはF値が暗い」と敬遠する人もいるかもしれないが、最近のカメラは高感度性能がアップしており、ISO400や800といった少し高めの感度に設定しておけば失敗なく撮影が楽しめるはずだ。超広角やより大きく質の高いボケ描写、あるいは画面の隅々までの高画質を求めるなら、それぞれ専用のレンズが必要になるとは思う。とはいえ、1本でこれほど幅広い被写体に対応でき、手軽かつ必要十分以上の描写力が得られるレンズは、いまのところこのタムロン18-400mm以外に存在しないのではないだろうか。そういった点を踏まえると、エントリーユーザーが最初に買う1本としてはもちろん、機動性を重視したいベテランユーザーまで幅広い人におすすめできる優秀な1本と言える。何かと荷物が増えがちな年末年始の旅行でも、本レンズの守備範囲の広さと機動力が大活躍するはずだ。
■詳しい製品紹介はコチラ
http://www.tamron.jp/product/lenses/b028.html
【スポット紹介】
箱根ガラスの森美術館
緑豊かな箱根仙石原にある、日本初のヴェネチアン・グラス専門の美術館。作例に挙げたクリスタル・ガラスのツリーは12月25日まで展示される。