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カメラ
2018/5/20 20:00

万能レンズの代名詞!! タムロン「高倍率ズーム」の系譜と魅力【レビューあり】

吉森信哉のレンズ語り~~語り継ぎたい名作レンズたち~~ 第3回「タムロン 高倍率ズーム」

 

広角域から本格望遠域までの広い画角をカバーする“高倍率ズームレンズ”は、それ1本でいろいろな被写体や撮影状況に対応できる、最も汎用性の高い交換レンズと言えるだろう。この高倍率ズーム、いまでこそポピュラーな存在だが、出始めのころは画角変化の大きさに驚かされたものだ。「なんと、このレンズ1本で、標準ズームと望遠ズームの画角がカバーできるのか!」と。

 

そんな高倍率ズームを得意とするのが、レンズメーカーのタムロンである。それまでの高倍率系ズームといえば、多かったのが35-135mmで、あとは一部メーカーが35-200mmを発売していたくらい。ところが、1992年にタムロンが発売した高倍率ズームの焦点距離は「28-200mm」。それまでの高倍率系ズームで不満だった広角域を35mmから28mmにワイド化しつつ、望遠域も本格望遠と呼べる200mmまでカバーしたのである。

 

この「28-200mm」の登場以降、高倍率ズームは前回に紹介した90mmマクロに並ぶタムロンの“看板商品”になった。今回はフルサイズ対応モデルを中心に、タムロン高倍率ズームの進化や変遷を、現行製品のレビューを交えながらお伝えしよう。

 

【今回ご紹介するレンズはコレ!】

小型化&高画質化を追求したフルサイズ対応の高倍率ズーム

タムロン
28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010)
実売価格5万530円

ズーム倍率10.7倍の、35mm判フルサイズデジタル一眼レフ対応の高倍率ズームレンズ。高速で静かなAFを可能にする超音波モーター「PZD(Piezo Drive)」と、高い効果で定評のある手ブレ補正機構「VC(Vibration Compensation)」を搭載。長年蓄積してきた技術を結集し、高画質化・小型軽量化を実現。従来モデル(AF28-300mm F/3.5-6.3 XR Di VC LD Aspherical [IF] MACRO (Model A20)から外観デザインも一新。ズームリングとフォーカスリングのグリップパターンは直線を基調としたシャープなものになり、タングステンシルバーの化粧リングの採用などで、端正で高級感のある外観に仕上げられている。

●焦点距離:28-300mm ●レンズ構成:15群19枚(LDレンズ4枚、ガラスモールド非球面レンズ3枚、複合非球面レンズ1枚、XRガラス1枚、UXRガラス1枚) ●最短撮影距離:0.49m(ズーム全域) ●最大撮影倍率:約0.29倍(300mm時) ●絞り羽根:7枚(円形絞り) ●最小絞り:F22-40 ●フィルター径:67mm ●最大径×全長:74.4mm×96mm ●質量:540g ●その他:※全長と質量はニコン用の値

↑フルサイズ対応の高倍率ズームながら、コンパクトな設計。レンズ単体を手にすると、その小ささを実感する

 

作例を撮ろうと歩いていると、川沿いの植え込みに咲く、真っ赤なシャクナゲの花を見つけた。その花と周囲の様子を広角端28mmで写し込んだ状況写真(上)と、状況を撮影した場所から数歩だけ近づいて望遠端300mmの画角で一房の花を大きく切り取った写真(下)を見比べてもらいたい。本レンズなら、こうした倍率10.7倍の高倍率ズームらしい“画角と視点の切り替え”が行える。

キヤノン EOS 6D MarkⅡ タムロン 28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010) 絞り優先オート F6.3 1/320秒 WB:太陽光 ISO400

 

高倍率ズームのパイオニア――タムロン「高倍率ズーム」の系譜

タムロンの高倍率ズームの歴史は、1992年に発売された「AF 28-200mm F/3.8-5.6 Aspherical(Model 71D)」から始まる。前述のとおり、それまでのズームレンズは高倍率な製品でも35-135mmや35-200mmだったので、広角側の画角に不満が感じられた。そう、28mmと35mmでは、広角効果(画角の広さ、遠近感の強調、など)が結構違うのである。

 

この「AF 28-200mm F/3.8-5.6 Aspherical(Model 71D)」は、2枚の非球面レンズを使用した最新の光学設計と、トリプルカムズームシステムの採用などで、画質を維持しながらコンパクト化を実現した。発売されたこの高倍率ズームは、最初は欧米から人気に火がついた。そして、日本でも人気が広がって、高倍率ズーム人気が一気に高まったのである。これ以降、タムロンは“高倍率ズームのパイオニア”と称されるようになる。

AF 28-200mm F/3.8-5.6 Aspherical (Model 71D) 発売:1992年

↑ズーム倍率「7.1倍」の、コンパクトな高倍率ズーム誕生

 

ただ、画期的だった初代モデルにも弱点があった。それは“最短撮影距離2.1m”という仕様である。これは200mmの望遠レンズとしてはそう不満のない値だが、標準や広角レンズとしては不満の残る値である。そのため、この高倍率ズームの専用アクセサリー(クローズアップレンズと同等の働きをする)も用意されていた。

 

ということで、その後のモデルでは“最短撮影距離の短縮”が重要な改良点になる。

 

まず、1996年発売の「AF28-200mm F/3.8-5.6 LD Aspherical IF Super(Model 171D)」では、200mm時80cm、135mm時52cm、という最短撮影距離を実現。そして、2000年発売の「AF 28-200mm F/3.8-5.6 LD ASPHERICAL[IF] SuperⅡ-Macro(Model 371D)」では、ズーム全域49cmという最短撮影距離を実現したのである。

AF 28-200mm F/3.8-5.6 LD Aspherical [IF] Super(Model 171D) 発売:1996年

↑新開発のインテグレイテッド・フォーカス・カムにより、最短撮影距離の短縮と画質の向上を図る

 

AF 28-200mm F/3.8-5.6 LD Aspherical [IF] Super Ⅱ MACRO (Model 371D) 発売:2000年

↑ズーム全域で最短撮影距離49cmを実現。鏡筒がもっとも短くなる28mmの位置でズームリングを固定する「ズームロック機構」も採用された

 

1992年に初代の28-200mmが発売されたわけだが、それ以降は前述の“最短撮影距離の短縮”や、光学設計や機構の見直しなどが施され、高倍率ズーム28-200mmは完成度を高めていった。

 

その流れとは別に、1999年には望遠側を伸ばした「AF 28-300mm F/3.5-6.3 LD Aspherical [IF] MACRO(Model 185D)」も発売された。そのズーム倍率は、7.1倍から二桁に届く10.7倍になった。これ以降、タムロンの高倍率ズームは、28-200mmと28-300mmの2本立てとなる。

AF 28-300mm F/3.5-6.3 LD Aspherical [IF] MACRO (Model 185D) 発売:1999年

↑特殊低分散(Low Dispersion)ガラスに複合非球面加工を施した「LD-非球面ハイブリッドレンズ」を採用。高倍率ズームレンズの設計で問題になる様々な収差を補正

 

2005年には、普及してきたAPS-Cサイズデジタル一眼レフ用の18-200mm(画角はフルサイズの28-300mmに相当)が発売され、以降は高倍率ズームの主流はそちらに移っていく。しかし、フルサイズ対応の28-300mmも地道に進化を続けていた。2004年発売の「AF 28-300mm F/3.5-6.3 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO(Model A061)」では、コーティングの見直しや、解像性能規格の底上げなどにより、デジタル一眼レフに相応しい高倍率ズームにリニューアルされた。

AF 28-300mm F/3.5-6.3 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO (Model A061) 発売:2004年

↑この製品が発売されたのは、まだフルサイズのデジタル一眼レフが普及していないころ。だから、35mmフィルム一眼レフ用や、APS-Cデジタル一眼レフの“標準~超望遠撮影用”として使用されることが多かった

 

そして、2007年発売の「AF 28-300mm F/3.5-6.3 XR Di VC LD Aspherical [IF] MACRO(Model A20)」では、独自開発の手ブレ補正機構VC(Vibration Compensation)が搭載された。その補正効果の高さは当時、“ファインダー画面が張り付く”と表されたほど。また、小型化への取り組みも見逃せない。各鏡筒部品の役割分担を見直すことで、VC機構を搭載しながら、従来製品(A061)と比較しても、全長で約17.8mm・最大径で約5mmのサイズアップに抑えている。

AF 28-300mm F/3.5-6.3 XR Di VC LD Aspherical [IF] MACRO (Model A20) 発売:2007年

↑デジタル一眼レフカメラでは、撮像センサーの影響による内面反射が心配される。それに対処するため、レンズ面の反射を徹底的に抑えるマルチコートや、インターナル・サーフェイス・コーティング(レンズ貼り合わせ面へのコーティング)を積極的に採用

 

※一部、ここで紹介していない製品もあります

現行モデルを使い倒し! 基本性能や操作性は?

フルサイズ対応の高倍率ズームの現行モデルは、冒頭でも紹介した2014年6月発売の「28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD(Model A010)」だ。光学系に採用される特殊硝材は、LD(Low Dispersion:異常低分散)レンズ4枚、ガラスモールド非球面レンズ3枚、複合非球面レンズ1枚、XR(Extra Refractive Index:高屈折率)ガラス1枚。さらに、XRガラスよりも屈折率が高いUXR(Ultra-Extra Refractive Index:超高屈折率)ガラスを1枚。これらの特殊硝材を贅沢に使用することで、従来製品(Model A20)以上の小型化を実現しながら、画質劣化につながる諸収差を徹底的に補正して、高い描写性能を実現している。

↑望遠端300mmの設定で、鏡筒を伸ばし切った状態。かつての高倍率ズームはズームリングの動きにムラがあった(途中に重くなるポイントがあった)。だが、本製品も含め、最近の高倍率ズームのズームリングの動きは結構スムーズだ

 

↑ズームリングには、広角端で固定させる「ズームロックスイッチ」が装備されている。これにより、移動時の自重落下(重力や振動でレンズ鏡筒が伸びる)を防ぐことができる

 

対応マウントは、キヤノン用、ニコン用、ソニー用(Aマウント用)の3タイプ。ちなみに執筆時点で、ニコンには28-300mmの製品があるが、ソニーにはない。キヤノンの28-300mmは、画質重視の設計のためサイズが大きく高価である。それゆえに、このタムロン28-300mmの存在価値は大きいと言えるだろう。

↑シックで上品な外観デザインに一新された「タムロン 28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD(Model A010)」。その外観やサイズは、各メーカー(対応マウント)の、いろいろなフルサイズ一眼レフボディにマッチする

 

↑鏡筒側面に設置された、AF/MF切替スイッチ(上)と、VCスイッチ(下)。SPシリーズのスイッチほど大きくはないが、視認性や操作性に問題はない

 

スナップ~本格望遠まで幅広い撮影がコレ1本で楽しめる!

ここからは、本レンズを使って撮った作例をもとに、その描写について語っていこう。

 

目の前にそびえる、新緑に覆われた山。その山の端にあった1本の針葉樹が目を引いたので、300mmの画角で切り取った。こういった“近づけない被写体”では、高倍率ズームの本格望遠画角が威力を発揮する。

キヤノン EOS 6D MarkⅡ タムロン 28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010) 絞り優先オート F11 1/250秒 -0.7補正 WB:太陽光 ISO200

 

蕎麦屋の店先に置かれた、味わいのある大黒様。その石像に接近して、28mmの広角域でスナップ感覚で撮影した。

キヤノン EOS 6D MarkⅡ タムロン 28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010) 絞り優先オート F11 1/80秒 WB:オート ISO100

 

寺院の門の脇にあった小さめの銅像。高い台座の上に設置されているので、近づいての撮影はできない。そこで200mm弱の望遠画角で、銅像の上半身を切り取った。また、手前の植え込みと背後の樹木の“新緑”を大きくぼかし、画面全体を華やかに演出する。

キヤノン EOS 6D MarkⅡ タムロン 28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010) 絞り優先オート F6.3 1/200秒 +1補正 WB:太陽光 ISO320

 

山頂に向かうケーブルカーの駅。そのホーム端の棒に、駅員の帽子が掛けてあった。その様子を、駅の入口近くから300mmの望遠端で切り取った。

キヤノン EOS 6D MarkⅡ タムロン 28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010) 絞り優先オート F8 1/60秒 -0.3補正 WB:太陽光 ISO1600

 

山頂に向って遠ざかるケーブルカー。300mmの望遠端近くで撮影すれば、標準ズームの望遠端(70mmや100mm前後)では得られない、遠くの被写体を大きく拡大する“引き寄せ効果”が堪能できる。

キヤノン EOS 6D MarkⅡ タムロン 28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD (Model A010) シャッター優先オート F6.3 1/500秒 WB:オート ISO1250

 

22.2倍のAPS-Cサイズ用ズームレンズも登場。それでも褪せない「28-300mm」の魅力

革新的な高倍率ズーム「AF 28-200mm F/3.8-5.6 Aspherical Model 71D」が発売されてから20余年。タムロンの高倍率ズームは、2017年発売のAPS-Cサイズデジタル一眼レフ専用「18-400mm F/3.5-6.3 Di Ⅱ VC HLD Model B028」において「22.2倍」という驚異的なズーム倍率を実現した。

↑昨年登場し、「22.2倍」という驚異的なズーム倍率で大きな話題となったAPS-Cサイズ用の「18-400mm F/3.5-6.3 Di Ⅱ VC HLD(Model B028)」。実売価格7万3880円

 

そんな超高倍率な製品と比べると、フルサイズ対応の「28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD(Model A010)」は、地味な存在に思えるかもしれない。だが、以前よりもフルサイズデジタル一眼レフが普及してきた現在では、このポピュラーな28-300mmは、これまで以上に存在感を増しているように思う。高感度性能やボケ効果に優れるフルサイズデジタル一眼レフの特徴を生かしながら、レンズ交換なしで広角から本格望遠の撮影が楽しめるのだから。

 

前述の、特殊硝材を贅沢に使用した光学設計。高速で静かなAFを実現する超音波モーター「PZD」や、定評のある手ブレ補正機構「VC」の搭載。絞り開放から2段絞り込んだ状態まで、ほぼ円形の絞り形状が保たれる「円形絞り」の採用。マウント部分やレンズ各所に施された「簡易防滴構造」。これらの機能や仕様も魅力的だ。

 

“高倍率ズームのパイオニア”が、これまで蓄積してきた技術やノウハウを結集させて作り上げた、この「28-300mm F/3.5-6.3 Di VC PZD(Model A010)」。カメラボディに装着して操作、あるいは実際に撮影してみると、その完成度の高さに感心させられる。