福笑い、すごろく、かるた、羽根つき、凧揚げなど、日本古来からのお正月の遊びに興じる家族は残念ながら減っている。むしろ、日本の文化をこよなく愛する外国人のほうが、それらに魅了され、夢中になるようだ。
以前、フランス人の若者から「ひゃくにんいっしゅを教えて」と言われたとき、私はとても焦った。静岡出身の私が覚えていたのは、たった一首、山部赤人の「田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ」だけ。あわてて、残り99首を調べて書き出して、教えたのだが「どういう意味? なんで?」と質問攻めに合い、冷や汗をかいた記憶がある。
今、私は『まんがで読む 百人一首』(吉海直人・監修 小坂伊吹、樹咲リヨコ、華潤、かめいけんじ・まんが/学研プラス・刊)を読んでいるが、あのときこの本があれば、どんなにか助かったのにと思っている。100首の和歌、それぞれがマンガになっているので風情や感情がストレートに伝わってくるのだ。
平安貴族の恋のアプローチは和歌から
和歌は、はじめの五・七・五を「上の句」、あとの七・七を「下の句」と呼ぶ。31文字の中に、自然の風景に感動する気持ち、恋する気持ち、さびしさ、せつなさなどが込められている。
平安時代、恋愛が成就するかどうかは和歌の出来栄えにかかっていたそうだ。
平安時代の貴族は、男性が好きになった女性に手紙をおくることで、思いを伝えたよ。季節の花などに和歌をそえるのがふつうだった。歌のできばえはとても重要で、その後の恋の行方に大きく影響するんだ。(中略)歌をおくられた女性のほうは、「この人なら」という相手には、オーケーという内容の歌を返す。でもすぐにはオーケーせず、まずは気のないような返事をすることもあるんだ。風流なかけ引きだよ。(中略)歌のやり取りを重ね、ようやく二人が会えるときがやって来るんだ。
(『まんがで読む 百人一首』から引用)
男女ともに、歌に自信のない人は、歌のうまい人に代作をたのむこともあったそうだ。
小倉百人一首とは?
約800年前の鎌倉時代のはじめ、藤原定家は息子である為家の妻の父、宇都宮蓮生に「山荘の障子に和歌の色紙を飾りたいので歌を選んでほしい」と頼まれた。そこで定家は平安時代の歌を中心に、奈良時代以前から鎌倉時代初期までの約600年に渡る時代の歌人たちの歌から百首を選んだ。小倉山荘の障子を飾るためのものだったので「小倉百人一首」と呼ばれるようになった。
百人一首には「部立て」があるが、これは歌集を編集するときの部類分けで、何について読まれた歌なのかを示すもの。
百人一首の百首の部立ての中で、いちばん多いのは、「恋」の歌なんだよ。実に四十三首もある。恋は、人の感情そのもの。だから恋の歌にすぐれたものが多いのは当然かもしれないね。
(『まんがで読む 百人一首』から引用)
「筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる」(陽成院)
「忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」(平兼盛)
「忘れじの 行末までは かたければ 今日を限りの 命ともがな」(儀同三司母)
などが、恋の歌だ。
部立ては全部で9つあり、恋の次に多いのが「雑」19首でどの分類にも入らない雑多な内容の歌。そして「秋」16首、「春」6首、「冬」6首、「夏」4首、「羇旅」4首、「離別」1首、「雑秋」1首、となっている。
かるた遊びは江戸時代から
百人一首を札にしたものが「百人一首かるた」で、そもそも「かるた」はポルトガル語。この遊びが流行したのは江戸時代になってからだそうだ。かるたには読み札と取り札があるが、百人一首の場合、読み札には和歌と作者の名前と絵がかかれ、取り札には下の句のみがかかれている。
遊び方は3通り。
*ちらし取り 取り札をばらばらに並べ、そのまわりに取る人が座り、取った札の数が多い人が勝ち。
*源平合戦 取る人は同人数で2チームに分かれる。各チーム、取り札50枚を自分たちのほうに向けて三段に並べる。相手チームの札を取ったら、自分のチームの札を1枚渡す(送り札)。間違った札を取ったらお手つきで、その場合は相手チームから札を1枚受け取る。そして先に札がなくなったチームの勝ちとなる。
*競技かるた 1対1の対戦。自陣、敵陣とも25枚ずつの取り札を三段に並べる。読み札は百枚あるが、取り札は50枚で、残りは空札という。送り札、お手つきのルールは源平合戦と同じで、自陣の札が先になくなったほうの勝ちとなる。
さて、かるた大会で勝つためには、まず、歌を覚えなくてはならないが、歌の意味や背景を理解していると覚えやすい。本書では百首すべてが、マンガになっているのでスイスイと覚えられる。
勝つためのコツは、
●百人一首を暗記する
●決まり字を覚える:決まり字とは、上の句でその字が読まれたら、下の句が決まる字のことで、一字決まり(7枚)、二字決まり(42枚)、三字決まり(37枚)、四字決まり(6枚)、五字決まり(2枚)、六字決まり(6枚)となっている。
●並べ方と作戦を考える
さぁ、このお正月、家族で、あるいは気の合う仲間で百人一首かるたを楽しんでみてはいかがだろう?
【著書紹介】
まんがで読む 百人一首
著者:学研教育出版(編)、吉海直人(監修)
出版社:学研プラス
和歌の意味や成り立ちを、まんがでわかりやすく説明。歌がよまれた当時の恋愛スタイルや年中行事など古典常識を解説したコラムもあり、初めて百人一首に触れる人でも楽しく内容を理解することができる。歌の覚え方のコツや遊び方、競技かるたのルールも紹介。
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