“古布”は、明治、大正、そして昭和初期くらいまでに使われていた着物や布のこと。もちろんそれよりずっと前の江戸時代、さらには1000年前の平安時代の物もあるそうだ。絹を平織りにして撚りをかけた“ちりめん”、木綿の藍染めや草木染めなど昔の和装に使われた布たちはとても美しい。
そんな古布に魅せられるのは日本人ばかりではない。日本の古布が大好きという外国人も多く、より美しい布を求めて全国各地で開かれる骨董市巡りをするツーリストも増えているそうだ。
海を渡った祭りの法被
薄くて軽いもの、落としても壊れないもの。これは海外の人への贈り物を航空便で送る際、私が決めている条件。つまり布製か紙製を選ぶというわけだ。
去年、フランスの大学で学ぶ娘がドイツのベルリンの企業で3ヶ月間インターンシップをすることが決まり、ベルリンではドイツ人家庭にホームステイすることになった。
出発前に「日本らしいきれいなお土産を送って」と娘が言ってきた。で、私は浅草あたりにお土産探しに出かけようとしていた。と、ちょうどその朝、同郷の親友から電話があり、その話をすると「え~!すっごいグッドタイミング。今、父の遺品整理をしてたら、古いお祭りの法被が出てきたのよ。新調してまだ一回も着ずに箪笥の奥にしまわれていたものみたい。これをもらってくれないかな?」
友人の父親はとても好奇心旺盛な人だった。だから、その法被が海を渡りたいと願っているような気がしたので、私はありがたくいただくことにした。昭和の時代の法被は土産店で売られているようなものとは段違いで、素材も染めもすばらしいものだった。
果たして、法被はベルリンに無事に到着し、とても喜ばれてドイツの家のリビングの壁にタペストリーのように飾られることとなった。
もしも箪笥に眠る古い着物や法被などが見つかったら、それらは捨てるのはあまりにも惜しいので、活用法を考えたほうがよさそうだ。
古布を使った“ちりめん細工のうさぎ”がかわいい!
『古布を楽しむ手作り帖 其の参』(ナチュラルライフ編集部・編/学研プラス・刊)は、古布魅せられた人々を紹介し、古布を使った手作りの作品を集めた一冊。ページをめくる度に、日本の伝統的な美しい色や柄の布が織り成す世界にうっとりしてくる。
巻頭では、ちりめん細工の人気モチーフ“うさぎ”をテーマに、古布作家たちの自慢のうさぎたちが微笑む。昔々の振袖や留袖をまとったうさぎはどれもこれもとても愛らしい。
私もフランスで暮らした時代、アパルトマンの玄関にピンクのちりめんのうさぎを飾っていた。親戚のおばあちゃんが作った素人の古布細工だが、訪ねてきたフランス人たちのほぼ全員が「美しい日本の文化ね、なんてかわいいうさぎなの」と褒めてくれたものだ。帰国の際、うさぎは友人にあげてきたが、きっと今もパリのアパルトマンでちりめんうさぎは愛らしい姿をみせていることだろう。
古布パッチワークは絵画を観ているよう
本書には、古布で作るミニチュアの着物、そして古布のパッチワークキルトの大作も紹介されていて、それらの美しさには圧倒されてしまう。作家たちは長年にわたって収集してきた古布を並べ、配置や色合わせなどを綿密に設計してから針仕事に入るそうだ。
作家のひとりは、古布の魅力は同じ柄がないことにつきるという。古い時代に着られていた着物だから当然、色がさめていたりするが、それも上手に使えば味わいを増すそうだ。骨董市に出された古くて傷んだ着物も、古布作家たちの手で、鮮やかに蘇っていくのだ。
古布の創作服もおもしろい
さて、多くの古布好きが集うことで有名なのが、東京の有楽町で定期的に開催される“大江戸骨董市”。たくさんの古布ショップが出店するので、全国からマニアが集まってくるそうだ。本書ではこの大江戸骨董市で撮影したファッションレポートがあり、これがとてもユニークでお洒落!
藍染めの古布をパッチワークした服や小物で個性的な着こなしを楽しむ人々、明治時代の幕で作ったワンピースを着た女性もいる。
さらに、古布使いのスペシャリストたちの創作服も多く紹介され、アート感覚の洋服たちが素敵すぎるのだ。
また、この本の巻末では自分では作れないけど古布アイテムがほしいという人のために、全国の古布ショップガイドも掲載されている。さらに、紹介された作品の一部は図解つきの作り方もあるので手芸にトライももちろん可能だ。
【著書紹介】
古布を楽しむ手作り帖 其の参
著者:ナチュラルライフ編集部(編)
出版社:学研プラス
うさぎモチーフの細工もの大特集。じわじわと愛好者が増えている人形着物の作り方特集も。パッチワークや布絵でつくる美しい世界、刺し子、創作服など、古い和服地を使って手芸を楽しむためのヒントが満載。一部作品の製図、ハウツーも載っています。 型紙をご希望の場合は、書籍版のご購入をお願い致します。
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