百獣の王。すべての獣の中で最強で、ほかに匹敵するものはいない、という意味である。
タレントの武井壮氏は「百獣の王」を目指していると公言しているし、関ジャニ∞の錦戸亮氏は以前ライブで「百獣の亮」と名乗っていた。
誰もがその圧倒的存在に憧れ、羨望の眼差しで見つめる存在。
実際に「百獣の王」といえば、もちろんそれはライオンを意味する。
そんなライオンが、実は絶滅の危機に瀕していることをご存じだろうか。
今回は『ミッション・ライオン・レスキュー』(アシュリー・ブラウン・ブリュエット・著/ハーパーコリンズ・ジャパン・刊)から、知られざるライオンの実態をご紹介しよう。
動物園に行けばライオンに会える。そんな日常が失われるかも…
いま私たちがライオンに会いたいと思えば、近くの動物園に行けばいい。1日のうち20時間も眠ったり休憩したりしていると言われているので、もしかしたらのんびり寝そべっている姿しか見られないかもしれないが、それでも生のライオンを見ることはそう難しくない。
ところが、遠く離れたアフリカやインドでは、野生のライオンがどんどん減ってきているのだそうだ。にわかには信じられないが、現実の話なのだと著者のアシュリー氏は述べる。
通常、ライオンは群れをつくる動物だ。「プライド」と呼ばれる群れをつくり、狩りをする。それぞれになわばりがあり、より条件の良く住みやすい場所を求めて、そして獲物を得るために別のプライドとぶつかり合い、なわばり争いをするのだ。
けれども今、ライオンの敵はほかのプライドのライオンたちではない。強敵な動物でもない。実は、私たち「人間」なのだという。
サバンナからライオンが姿を消していく大きな原因は「人間」!
野生のライオンの数が減っている大きな原因のひとつが「密猟」。密猟者は、ライオンを筆頭にさまざまな動物を狩り、罠で捕らえる。そして、地元の市場やアフリカの都市などでブッシュミートと呼ばれる野生動物の肉を違法で売っている。
専門家によると、このブッシュミートの取引は、年間10憶ドル。日本円にして約1110億円だというから驚く。
さらに、アフリカの一大産業である「スポーツハンティング」もライオンの生息数を減らしている理由のひとつ。多額のお金を払ってライオンを撃ち、剥製にしたライオンの頭や体を戦利品として持ち帰って見せびらかす。許可証を持っていれば合法とされているスポーツハンティングは、ライオンの繁殖よりもはやく、人間がライオンを撃って殺しているという現状だ。
そして、もっとも大きな問題は、アフリカでの爆発的な人口増加にともない、サバンナが畑に変えられ、農業が拡大していること。ライオンの生息地が縮小し、しかも地球温暖化などによりエサとなる草食動物が減ってしまい、結果的にライオンが家畜を襲う事態になっている。
そうなると、アフリカの人々にとって、ライオンは誇り高き百獣の王どころではなく、害獣でしかない。日本で畑を荒らすイノシシを駆除するように、アフリカではライオンが駆除の対象になっているのだ。
ライオンを守るためにできること
世界では、たくさんの保護団体がライオンを守るために、莫大なお金と努力を費やしている。その一方で、地元住民とライオンとの衝突があることも事実。
これらの問題を遠い海の向こうの話だと聞き流すのではなく、日本にいる私たちにもできることがあるということを知る第一歩になるのが、『ミッション・ライオン・レスキュー』なのだ。
なお本シリーズにはサメ、パンダ編があり、今後もシロクマ、トラ、オオカミ、ゾウ、ウミガメと続くのだそう。芸能界きっての生き物好きと知られているココリコの田中氏が日本版企画監修を務めている点も注目だ。
生物にはそれぞれ、ちょうどいい生態系のバランスがあり、なにかひとつの種の生物がいなくなることで、そのバランスが途端に崩れてしまうということ。そのことが、ゆくゆくは私たち人間にも大きな影響を及ぼすこと。動物図鑑だけではわからない問題に触れる良い機会になる一冊だ。
【書籍紹介】
ミッション・ライオン・レスキュー
著者: アシュリー・ブラウン・ブリュエット
発行:ハーパーコリンズ・ジャパン
「百獣の王」といえば、もちろんライオンだ。北海道から沖縄まで、動物園にはたくさんいるけれど、野生のライオンはいま、深刻な絶滅の危機に直面している。サバンナからライオンが消えていくーいったい、なぜ? さあ、いっしょに行こう。そして知ろう。ふるさとのアフリカやインドで、百獣の王に、なにがおきているのかを。