本・書籍
2020/12/27 6:00

無人島にぽつんとたたずむ電話ボックスは何のため?~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

無人島に憧れませんでしたか?

前回、「子どものころ、宇宙に憧れた」という話をしましたが、もうひとつの憧れが無人島。洞窟を住みよくし、サトウカエデの樹液から砂糖を作る生活に心を奪われて、ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』のその箇所だけを何度読み返したことか。

 

世界名作劇場『ふしぎな島のフローネ』にも、木の上の暮らしに毎週ときめいていました(フローネのお兄さんが毒虫で目をやられたシーンはトラウマでした(笑))。

今回の新書『不思議な島旅 千年残したい日本の離島の風景』(清水浩史・著/朝日新聞出版・刊)は、日本の離島を巡る旅の本。主に紹介されている12の島のうち無人島は2つだけですが、どの島も都会の喧噪から切り離されていて穏やかな時間が流れています。

 

著者の清水浩史さんは国内外の海と島への旅を続け、『秘島図鑑』『幻島図鑑』といった島に関する著書も多い書籍編集者・ライター。この本では南の島を中心に、唯一の住人が自然をいとおしみながら暮らしている長崎県・五島列島の黒島、赤ん坊を近所や親戚のなかから選ばれた十歳前後の少女に任せる「守姉」の風習が残る沖縄県の多良間島など、さまざまな切り口で離島を取り上げています。

 

実際に現地の島へ行き、住人と触れ合って話を引き出している本書。観光ガイドとは一線を画した、人の温もりや生活のにおいが感じられるのがいいところ。住人が減っていく島の物悲しさもあり、ノスタルジーがかきたてられました。

 

無人島に電話ボックスがある理由

特に興味をそそられたエピソードが、愛媛県伊予灘にある由利島の電話ボックス。イワシ漁の衰退で1975年には無人島となった小さな島ですが、実は電話ボックスが残り続け、1993年までは使えていたのだとか。いつでもかけられるように通話用の10円玉も置かれていました。

 

気になるその理由は、ここに漂着した人の緊急連絡用。島の周りは潮の流れが速く、この電話のおかげで助かった人も結構いたそうです。無人島にひっそりとたたずむ電話ボックス。ある種SF的でもあり、ホラー味も感じます。

 

長崎県・五島列島の北部に位置する斑島(まだらしま)は、周囲5.6キロ、人口154人の小さな島。隣の比較的大きな小値賀島(おじかじま)と今では橋でつながっています。

 

ここでは著者が「報恩講」という、親鸞聖人の命日に寄り合う行事に参加します。この島では冠婚葬祭の客にボールのようにてんこ盛りのご飯を振る舞う風習が残っていて、とても食べきれない量のもてなしを受けます。まさに「まんが日本昔ばなし」に出てきた山盛りご飯(笑)。離島には人と人とのつながりが濃かった日本の原風景が、そのまま保存されているのかもしれません。

 

モノクロですが掲載写真も多く、それぞれの島の雰囲気が実感できます。コロナ禍が収束したら離島に旅したくなる一冊。日本のあちこちにたくさんの島とその地に息づいた暮らしが存在しているという事実が、私たちのロマンの源泉と言えるでしょう。

 

【書籍紹介】

不思議な島旅
千年残したい日本の離島の風景

著者:清水浩史
発行:朝日新聞出版

小さな島は大人の学校だ。消えゆく風習、失われた暮らし、最後の一人となった島民の思い──大反響書籍『秘島図鑑』(河出書房新社)の著者が日本全国の離島をたずね、利他的精神、死者とともに生きる知恵など、失われた幸せの原風景を発見する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。