ビジネス
2018/7/22 20:00

確定申告はしなくていいって本当? 「仮想通貨」の勘違い5選

一時期よりも沈静化した印象の仮想通貨。しかし、市場としてはグングンと広がっており、副業のひとつとして考えている人も増えています。

ただし、為替と同じく仮想通貨も損得の世界。過激的かつ扇情的なニュースばかりが先行しており、実は間違って広まっている情報や、あまり知られていないことが多くあります。そこで、今回は税理士法人レディング公認会計士・税理士、木下勇人さんにお話を伺い、仮想通貨に関して間違っている情報をまとめてみました。特に誤解されている方が多く見受けられる「税金」と「確定申告」の情報にフォーカスしています。

↑税理士法人レディング公認会計士・税理士、木下勇人さん。不動産の税務や法律はもちろん、仮想通貨にも詳しい

【仮想通貨の勘違い①】得た収入は確定申告をしなくてよい!?

為替の仕組みと近く、「草コイン」と呼ばれる一攫千金を狙うものでなければ、FXほどは荒っぽくないといった印象の仮想通貨のトレーディング。最も有名なビットコインを筆頭に多数の仮想通貨の銘柄があり、自分が選んで購入した銘柄の仮想通貨の取引によって収入を得るというもので、木下さんによれば、「まだまだ伸びる市場」とのことです。

 

−−これだけ仮想通貨をやる人が増えると、「もう儲からないんじゃないか」と思いますが、実際のところはどうでしょうか?

 

木下勇人さん(以下、木下):これまでは「草コイン」と呼ばれる超低位仮想通貨に投資をして、跳ね上がったタイミングで売買する人が大儲けをしていました。当然ながら誰しも草コインを探しますが、そのようなケースは現状ではかなり少なってきており、この意味で仮想通貨で一攫千金を実現する方は減ったと思います。ただし、まだ実際の法整備というものが追いついておらず、つまり、国側も仮想通貨の実態を掴みきれていないのが現状です。少し前にコインチェックが仮想通貨「NEM」を不正流出させて破綻し、業務改善という名のもとで締め出しを行いましたが、あの例も後手で行われた状態でした。

 

そういった意味ではまだまだ市場が政府よりも優先して行っているものですから、いまの縛りはまだ弱く、参加者が自由にはじめ、自由に儲けられる余地は残っていると思います。しかし、素朴な疑問として、仮想通貨で得た収入というのは、確定申告などをすべきなのでしょうか。国の法整備が後手に回っているとして考えれば、確定申告もしなくて良いような気がします。

 

−−仮想通貨で得た収入に対して「確定申告はしなくてよい」といった情報がインターネットで散見されます。これは実際はどうなのでしょうか?

 

木下:これは絶対にしないといけません。証券会社が扱う株式投資信託の売買で得た利益であれば20.315%天引きされ、登録FX事業者が扱うFXで得た利益であれば確定申告で20.315%自ら支払うことになる仕組みですが、仮想通貨の場合は現状では雑所得(超過累進税率:最高55%)として確定申告をしなければいけません。

 

【仮想通貨の勘違い②】仮想通貨にかかる税金の督促は来ない!?

理屈ではわかる仮想通貨の雑所得の申告ですが、しかし税務署からの催促もないし、前述の話で言えば国も実態を掴めていない状態です。このような現状だから、「申告しなくてもバレないんじゃないか」と思ってしまうのも無理はないかもしれませんが、木下さんは注意すべきと言います。

 

−−でも、仮想通貨の所得に対して督促がないからといって、申告しなくてもよいのでしょうか?

 

木下:おっしゃる通り、今年の確定申告では、仮想通貨に対する税務署内部での対応がバラバラだった感がありますが、そのため、税務署側は現段階で仮想通貨取引の全てを把握している可能性が高くはないため、現段階での所得に対する納税の督促も多くはないと推測しています。これらのことから「しなくてよい」みたいな話がまかり通っていますが、国はかなり急いで仮想通貨の実態を確認するはずです。

 

また、税務署からのペナルティーを含めた納税の督促は「法定申告期限から5年まで」と決まっています。例えば、平成29年度で儲けた分については、確定申告期限が平成30年3月15日ですので、そこから5年間は税務署からの督促があるというイメージです。つまり、今年や昨年、一昨年も申告漏れの指摘がなかったとしても、向こう数年以内に国が仮想通貨の実態を把握すれば、いまから遡って税金を請求することは十分考えられます。ですので、ここはきちんと雑所得(超過累進税率:最高55%)として申告しておくべきでしょう。

【仮想通貨の勘違い③】仮想通貨で得た利益の税率は最高55%!?

仮想通貨で得た利益の税率も気になります。様々な数字が噂で飛び交っていますが、これも不確かな情報だと木下さんは言います。

 

−−仮想通貨の所得に対する税率は55%と、メチャクチャ高額だという噂があります。これは本当でしょうか?

 

木下:税率は仮想通貨から得る所得に対して決まります。例えば、仮想通貨以外の所得で2000万円があったとします。それに加えて、仮想通貨で100万円を儲けました。合計2100万円となり、これぐらい高い金額の総所得になると税率も高くなります。逆に、仮想通貨で100万円だけを儲けて、他の所得が0円だった場合は、税率は所得税・住民税合わせて15%で済みます。

 

ですので、必ずしも税金の上限である55%になるということではなく、総所得に対して税率が変わってきますので、これは一概に「仮想通貨は◯◯%の税金がかかる」とは言い切れません。

 

【仮想通貨の勘違い④】確定申告は自分でできる!?

こうなってくると、少しややこしくなる確定申告のやり方。通常、件数の少ない収入の場合は、個人でやる人のほうが多く、ネット上でも「仮想通貨の申告は個人で」という意見もあります。しかし、実際はどうなのでしょうか?

 

−−その確定申告ですが、個人でやるべきなのか、それとも税理士さんなどの専門家に依頼してやるべきなのか、実際はどうなのでしょうか?

 

木下:仮想通貨がない場合でサラリーマンの方が確定申告する機会というのは、医療費控除や住宅ローン控除などを適用し税金を還付する場合がほとんどではないでしょうか。一番の厄介は、仮想通貨での儲け(所得)をどのように計算するか。売り上げはいくらで売却したかですので、把握はすぐにできますが、これに対して、経費計算が煩雑になるのです。

 

最も煩雑なのは購入した仮想通貨のうち、いくら分を売り上げに対応するもの(売上原価)にするかだと思います。頻繁に売買を繰り返す方はその把握がかなり煩雑になるため、税理士などの専門家に依頼することも検討の余地があります。それほど頻繁に売買をされない方であれば、ご自身で計算することも可能かと思います。

 

また、経費は売上原価だけだと思っている方が多く見られますが、そうではありません。例えば、仮想通貨関連の書籍代・セミナー参加費・専用PC・専用スマホなどは経費計上可能です。さらに、通信費・電気代・部屋代・仮想通貨取引以外でも使用しているPC代・スマホ代などはプライベート部分を除外する必要がありますので、按分計算のうえ経費計上が可能です。

 

節税のポイントは、経費をこまめに集計できるかどうかにかかっていると思います。

【仮想通貨の勘違い⑤】いまからでもまだ「億り人」になれる!?

それだけの所得申告をしたとしても、まだまだ「儲かる」と言った話が尽きない仮想通貨。いわゆる億以上の利益を得るという「億り人」の逸話も数多く出回っており、これから参加する人の意欲を後押ししています。しかし、実際はどうなのでしょうか?

 

−−億以上の利益を得ている仮想通貨のトレーダーはいまもいるのでしょうか?

 

木下:どうなのでしょう。仮想通貨自体が始まってからまだ10年も経っていないのですが、私も知り合いに聞いた話ですが、「捨て金だ」と思って1万円を入れた人がいました。それが後に1億だか2億円だかに化けて、もう会社を辞めて悠々自適に暮らしているという億り人がいるらしいです。しかし、これは特殊なケースかもしれません。

 

一般的には、現在ではFXと同様、参加者が膨大に増えたことで、後から始めた人はそんなに儲かっていないようですし、損する人も増えてきているという感じがします。損をする人はやはりFXと同様で、価格が上がってしまったときに、それにつられて買ってしまい、その後急落するような方です。

 

ただし、では「絶対に儲からないのか」と言われればそうではなく、手数料や税金を差し引いてもうまみがないわけではありません。FXはレバレッジをかけられること、売りから入ることも買いから入ることもできるため、張り付きになっているイメージがあります。かくいう私も仕事中も気になってしまい仕事に集中できないことが多々ありました。

 

これに対して、仮想通貨は2018年度の年始に多くの仮想通貨が急激に跳ね、その後下がっていきました。現段階での市場はそれなりの変動はありますが、まだ落ち着いているほうだと思います。そのため、急落したときこそ買いのタイミングですし、急上昇したときこそ売りのタイミング。前述の草コインを探し出したらリスクが急激に高まりますので注意が必要ですが、草コインではなく通常の仮想通貨取引を冷静に行えばそれほど損をしないというのが、仮想通貨のイメージだと個人的には思います。

筆者個人は仮想通貨をやっておらず、正直、やや怖いイメージさえ持ってました。しかし、木下さんのお話を聞くと、冷静に付き合うことができれば、利益が得られないわけではないように思います。現状では市場の発展に法規制が追いついていない仮想通貨の世界ですが、今後の動向に注目していきたいですね。

木下勇人 | Hayato Kinoshita

相続・事業承継に専門特化した公認会計士・税理士。自らも不動産投資や起業をしている。税理士向け・一般向けセミナーを全国各地で年100回以上講演しており、ダントツでわかりやすいと評判。http://www.leding.or.jp