ニコンがアメリカのシネマカメラメーカー・REDデジタルシネマ (以下、RED) を買収したのは2024年4月のこと。REDはここしばらく自社製カメラにキヤノンRFマウントを採用してきたが、2025年2月にはニコンZマウントの「V-RAPTOR [X] Z Mount」と、小型の「KOMODO-X Z Mount」を発売。キヤノンRFマウント機も引き続き併売しているものの、これは当然の成り行きといえる。Zマウントはフランジバックが16mmと現行のレンズマウントではもっとも短く、電子マウントアダプターを介せばソニーEマウントのレンズが使えるなど融通が利くのだ。

さらに翌10月にはREDとの協業により、ニコンから今回紹介する「ZR」が発売された。シネマカメラという立ち位置ではあるが、形状やスペックから、小さなレンズを着けてスチールカメラとして使う人が多いだろうな…と思っていた。発売直後にはネットでそういう人の投稿を多く見かけたが、操作性が一般的なカメラとは違いすぎて戸惑う声も聞く。実際のところどうなのか、少しの間スチール中心で使ってみた。
ちょうどよいサイズ感とシンプルな操作系
ニコンから一緒にお借りしたレンズは「NIKKOR Z 26mm f/2.8」「NIKKOR Z 40mm f/2」「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」の3本。前の2本は薄型のパンケーキレンズで、焦点距離もスナップにぴったりだ。個人的に使いやすい焦点距離ということもあり、結果的にほぼこの2本で撮影をした。

ボディサイズは同じような箱型の「Sigma fp」「Sigma fp L」や「ソニー α7C」シリーズよりひと回り以上大きいが、重さはバッテリーとメモリーカードを含めても約630g。26mmや40mmを装着したときの印象は、まさに軽くもなく重くもなく、ちょうどいい。一方、大口径ズームレンズを着けた場合、グリップが薄いので安定性に欠けてしまう。SmallRig製のL型グリップがニコン推奨アクセサリーとして発売されているが、そういった補助器具を併用するのがいい。

撮影でネックになりそうなのが、物理的なボタンやダイヤルが少ないこと。ソニーやキヤノンのシネマカメラと違い、もともとREDのカメラは操作部がシンプル。「ZR」でもボタンは電源を除いて6つ、ダイヤルが2つ、ほかに十字レバーとズームレバーという構成だ。とりわけダイヤルはシャッター速度・絞り・ISO感度・露出補正と、多くの役割を担う。3つは欲しいところだが、レンズのコントロールリングも併用すれば困ることはなさそうだ。
記録媒体はメインスロットがCFexpress Type BまたはXQD、そしてサブスロットにmicroSDを採用している。ムービーをRAW形式で記録するならCFexpress Type BかXQDは必須だが、一般的な形式のムービーであればmicroSDの高速タイプでも記録可能。スチールの通常撮影であれば記録媒体は関係なく、もちろん振り分け記録や同時記録も可能だ。ちなみに連写速度は最高で秒16コマ。記録がJPEGのLサイズ・ノーマルに固定されるが、プリキャプチャーも可能で、最高秒120コマの「ハイスピードフレームキャプチャー+」機能も備わっている。
また、バッテリーはこれまで多くのカメラで採用されている「EN-EL15c」(bやaも使用可能)。大型液晶モニターが常時表示されるにもかかわらず、かなりのロングライフだった。メーカー公称ではパワーセーブONで約370コマ、OFFで約350コマとあるが、実際にはそれくらい撮影しても5段階の目盛りが1つか2つ減る程度だった。
大型モニターはタッチ操作が快適

それ以上に4インチのバリアングル液晶モニターがすばらしい。大型でライブビューの表示が見やすいのはもちろんだが、まるでスマホのようなタッチ操作が可能なのだ。たとえばメニュー画面はニコンユーザーならおなじみの表示形式だが、そこを指でスワイプすると、高速でスクロールされる。2~3日使うと軽快なタッチ操作にかなり慣れてきて、まったく不便は感じなかった。むしろ液晶画面だけで操作が完結するのはシンプルで気持ちいいくらいだ。

また、物理的な操作系を削ぎ落としていながら、先に触れた通り十字レバーが存在する。これはメニューなどのセレクターも兼ねているのだが、もちろんAF測距点の選択にも使える。ただし、被写体の自動認識がスピーディーかつ正確なうえ、任意のポイントを指定したいときはタッチで操作できるので、AFに関するストレスは皆無といってもいい。

ちなみに、ボディ上部にはカスタマイズ可能な1・2・3のボタンがあるのだが、設定できる項目が多岐にわたり、よく理解できぬまま返却期限がきてしまった。ここを攻略するには、まず「ZR」そのものを使いこなす必要があるようだ。
同じ面にある「PHOTO」と「VIDEO」のスイッチを切り替えると、スチールとムービー (表記がMOVIEでもCINEMAでもないのが謎) が切り替わるが、一方でモードをはじめさまざまな設定は引き継がれる。スチールとムービーでは基本的な設定が異なることが多く、そこで1・2・3ボタンの出番となるようだ。
構えたときに押しやすいのは前面の「REC」ボタン。ここに撮影モードやAFモード、ISO感度の設定など、自分がもっとも使う項目を割り当てるのがいい。

「Z6III」と同画素のセンサーは階調豊か
どうしても操作に関する話が長くなってしまうが、いじるのは露出補正と、せいぜい絞りくらいというスタイルであれば、難しい話抜きに軽快に撮影が楽しめる。搭載するセンサーは2450万画素の部分積層型、画像処理エンジンはEXPEED7で、これは「ニコン Z6III」と同じ。ムービーでは6Kをカバーするのでこの画素数で十分なのだが、スチールでもこれくらいが扱いやすいと思う。
画素ピッチに余裕があるせいか、トーンに厚みや深みがある。電子シャッター専用機だが、心配していたローリング歪みも試した限りは気にならなかった。また、静止画では中央7段・周辺6.5段という5軸手ブレ補正も、ニコン推奨のスポーツモードを選択したが、しっかりと効いているという印象を受けた。


オールドレンズとの組み合わせも

「ZR」の形状は箱型でレトロ感もあり、オールドレンズを楽しむ人も多いようだ。そこで焦点工房から発売されている電子マウントアダプター「TECHART TZM-02」との組み合わせも試してみた。これはニコンZマウントのボディで、ライカMマウントのレンズをAFで使えるようにするもの。当然「ZR」にも対応しており、レンズ側にライカMマウントへ変換するアダプターを重ねることで、さまざまなマウントのレンズを装着できる。

今回はニコンS→ライカMの変換アダプターを挟んで、私物の1952年製「W-Nikkor・C 3.5cm F2.5」を着けてみた。中央部は絞り開放から解像力が高く、F8くらいまで絞ると隅々まで繊細に写る。つまりオールドレンズの味は薄いのだが、真鍮製の外装や「Nippon Kogaku」の刻印もそそるものがあり、「ZR」に装着すると時代を超えたフィット感がある。もちろんAFも問題なく駆動し、快適に撮影できた。


多彩なピクチャーコントロール
ピクチャーコントロールには、ほかのニコン製ミラーレスカメラにある、エフェクトの強い「クリエイティブピクチャーコントロール」のほか、最大9つまで設定できる「カスタムピクチャーコントロール」の1番目に、RED独特の淡いトーンをイメージした「CineBias_RED」がプリセットされている。
また、RED監修の設定を「Nikon Imaging Cloud」のサイトからダウンロードすることができる。これらは撮影時に選択するのはもちろん、カメラ内RAW現像で割り当てることも可能だ。


ハリウッドが求める品質の動画を手軽に
最高6K/59.94pを記録するムービー機能にも触れないわけにはいかない。ニコンのN-RAW、AppleのProRes RAW、そしてREDのR3D NEという3つの12bit RAW形式で記録できるほか、写真でいうJPEGのようなH.265形式などにも対応している。
ムービーのRAWは、ハイスペックなパソコンと高度な技術を要する。僕にはとても試せるものではないが、「ZR」には撮って出しでRED風の仕上がりを体験できる「シネマティック動画」というモードがある。そこで、作例はこのモードで撮影した。フルHD/23.976pで、アクティブD-ライティングは最大、ピクチャーコントロールは「CineBias_RED」に自動設定される。
彩度やコントラストが低く、ハイエンドシネマカメラで撮影したような雰囲気がある。手持ち撮影なので通常の5軸手ブレ補正に加えて電子手ブレ補正も併用。ジンバルで撮影したような滑らかさはないものの、不自然な挙動もなく好感が持てる。
ニコン ZR NIKKOR Z 26mm f/2.8 F7.1 シャッターアングル180° 23.976fps ISO100 WB : オート
「ZR」が従来のニコン製ミラーレス機と大きく異なるのは、ムービー撮影時のMモードやSモードではシャッタースピードがシャッターアングル (角度)に変わること。
昔 (当然フィルム) のシネマカメラは、シャッターが回転する円盤だった。フィルムへ光を通す隙間が円周状に開いており、それが1秒間に24コマ撮影するフィルムに合わせ、1秒間に24回転する。シャッター速度の代わりに隙間の角度 (シャッターアングル) で露光を調節するが、狭くなる (=シャッター速度でいえば速くなる) とコマ間の動きが欠け、動作がカクカクして見える。理論上は360°がもっとも滑らかだが、実際には多少欠けるほうが雰囲気があり、180°が多用されてきた。
それをシャッタースピードに換算すると約1/48秒。デジタルカメラで動画を撮影する際は、同様の理由で1/50秒が多用される。そこで今回の作例も180°で撮影。明るい屋外でボケを生かしたいときは、NDフィルターが必須だ。
ニコン ZR NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II F4 シャッターアングル180° +0.3補正 23.976fps ISO100 WB : オート 可変NDフィルター使用
ムービー撮影に関しては一般的なミラーレス機と異なる部分も多く、一方で従来型のRED製品には搭載されているプロ必須の機能・設定が省かれたりもしている。ただ「ZR」が想定する用途は、ライブステージなどでメインカメラを補う固定カメラだったり、YouTuberがワンオペで撮影する場面だったり、つまり従来型が活躍する映画やドラマの現場ではないだろう。またスチールがメインのアマチュアやカメラマンに、REDやシネマカメラをアピールする目的もあると思う。
ニコン ZR NIKKOR Z 40mm f/2 F2 シャッターアングル180° 23.976fps ISO100 WB : オート
バリアングル液晶モニターの裏側には、定番の「Nikon」と並んで「RED」のロゴも刻まれている。「Sigma fp / fp L」よりはムービー寄り、しかしソニーFXシリーズほどスチールカメラマンに冷たくないという立ち位置は、ニコンも新たなカメラ像を模索しているように思う。個人的にはさらにコンパクトなモデルが登場するとおもしろいが、今後がますます楽しみだ。
