伊達淳一カメラマンがさまざまなレンズを使い倒しレビューする『CAPA』本誌人気連載の「レンズパラダイス」。今回の「伊達淳一のレンズパラダイス Other Shot」は、この秋発売された「ニコン Z 5」「LUMIX S5」のキットレンズとして登場した新型標準ズーム「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」と「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」をピックアップ。焦点域や開放F値を抑えながら、軽量化、低価格化をしつつ、必要十分な描写性能を確保している2本のアナザーカットを紹介しよう。
NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3
スペック
[大きさ] 最大径約73.5×全長約51mm [重さ] 約195g [レンズ構成] 10群11枚 [最短撮影距離] 0.35m [最大撮影倍率] 0.17倍 [絞り羽根枚数] 7枚 [フィルター径] 52mm参考価格 約52,800円 (税込)
非常に軽量でハイアングル撮影も楽にこなせる
約195gと非常に軽量な標準ズームなので、チルトモニターを利用したハイアングル撮影も右手だけでも楽に行なえる。アクセントとして観葉樹を前ボケで入れているが、顔/瞳AFまかせで目にビシッとピントが来ている。
四隅までキレのある描写
信州・白駒の池の苔の森。主題は樹の根元に生えた緑鮮やかな苔。手前から木の根元までを解像させるため、F8まで絞って被写界深度を確保しているが、画面下の四隅まで像の流れや甘さもなく、キレの良い描写が得られている。
後方の微ボケもうるさくない
倒木に生えた苔。ワイド端24mmでF6.3という中途半端な絞り値で撮影したので、手前の緑の濃い苔くらいまでが被写界深度。その後ろは二線ボケになりやすい微ボケエリアだが、それほどうるさい後ボケにはなっていない。
近接時の解像も高くてクリアーで
近所を散歩中、遊歩道の植え込みに咲いているハイビスカスを撮影。ワイド端でググッと花に近づいて、周囲の状況をさりげなく採り入れ、花が背景に埋没しないように絞り開放で狙ってみた。近接撮影でもピント面の解像とコントラストはしっかりしている。
周辺部の木漏れ日部分でも口径食は少ない
ハウススタジオのキッチン。窓から差し込む拡散光で、パスタを入れた瓶がフォトジェニックだったので、ワイドで仰角で迫って撮影。ビンに反射した光を見ても軸上色収差による色づきは感じられず、木漏れ日のボケも口径食は少なめだ。
ピント面はしっかり解像し後ボケは自然な感じ
テレ端絞り開放でポートレート撮影。肌の荒れを際立たせるほどエッジ立った解像ではないが、睫毛や睫毛の細い線までしっかり解像している。開放F6.3なので背景を大きくボカす力はないが、自然な後ボケだ。
ピント面前後もうるささのない描写
画面全体にビシッとピントを合わせるならもっと絞り込む必要があるが、ピントのピークが少し外れた箇所の描写をチェックするため、あえて絞り開放で落ち葉をほぼ真俯瞰で撮影。周辺の解像の落ち方や微ボケにうるささはあまり感じない。
収差はよく抑えられ、色づきはほとんど見られない
軸上色収差や球面収差が残っていると、金属の反射にパープルフリンジやニジミが生じやすいが、このレンズは近接撮影でも諸収差がよく抑えられている。支柱に注目してみると、前ボケにやや二線ボケ傾向が認められるが、後ボケは自然だ。
テレ端の近接撮影ではややにじむ傾向
テレ端絞り開放の近接撮影では、少しハイライトがにじんで柔らかな描写になるが、最近のレンズはカリカリし過ぎているので、むしろ絞り開放の近接撮影にはこれくらい柔らかいほうが、後ボケもザワザワしにくく個人的には好みだ。
中間域の近接撮影でも前ボケが二線ボケ傾向
ズーム中域の最短撮影距離付近の解像とボケ描写でチェック。コムラサキの茎の白い点々が前ボケしている部分は二線ボケが認められるが、紫の実や葉っぱの前ボケは自然なボケ味だ。後ろの微ボケは適度なにじみを伴いながらぼけていく。
LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6
スペック
[大きさ] 最大径約77.4×全長約87.2mm [重さ] 約350g [レンズ構成] 9群11枚 [最短撮影距離] 0.15m (ワイド端) [最大撮影倍率] 0.43倍 [絞り羽根枚数] 9枚 [フィルター径] 67mm参考価格 約81,400円 (税込)
手前から奥までスッキリクリアーに描写
群馬県富岡市の丹生湖近くの丘に咲くひまわり畑。秋咲きのひまわりにもかかわらず、非常に背が高く、持参した脚立に乗って撮影。遠くに見えるのは妙義山だ。手前から奥までパンフォーカスで撮影するためF14まで絞っている。一番手前のひまわりは少しだけピントが甘いが、全体表示ではいわゆる被写界深度内だ。
広角側の後ボケは柔らかめ
これだけの規模を誇るひまわり畑としては、知る人ぞ知る穴場的存在だが、今年は気合いが入っていて、記念撮影用に立て看板が立てられていた。ワイド端が20mmまで引けると、遠近感を強調した広々とした構図で撮影できる。広角としては後ボケもきれいだ。
広がり感を強調しながら撮影でき解像力も高め
松原湖畔のボート乗り場。一般的な標準ズームだともう少し画角が狭いので、これほど湖の広がり感が出なくなる。被写界深度内のスワンボートから奥の山々までピクセル等倍で見ても非常に高精細な描写だ。
被写界深度から少し外れたシラカバの幹も乱れが少ない
長野県佐久穂の八千穂高原にて。奥行きがあるシーンなので、白樺の幹にピントを合わせ、F8まで絞って撮影。一番手前や奥は微妙に被写界深度から外れるが、その微妙にピントが外れた部分の描写が不快に乱れないので、周辺画質が高く感じる。
ハイライト部のにじみは目立たない
空に太陽だけを配した場合はF16まで絞らないと光条がキレイに伸びないが、このように樹の隙間に太陽を入れればF11でもキレイな光条になる。木漏れ日は少し滲んでいるが、パープルフリンジや青ハロは目立たない。
ワイド端でかなり寄れるので重宝
佐久市の内山牧場のコスモス。残念ながら今年はコスモスの開花エリアが狭く、見ごろも過ぎていたので、まだ花びらがそれほど痛んでいないコスモスをワイド端でアップで写し、背景をボカしてアラを目立たせないようにしてみた。風でかなり揺れるのでAFCで連写し続け、ピントの合ったカットを選び出した。
ローポジションでキノコにグッと近づいて撮影
白駒の池に向かう途中の苔の森。苔の中に非常に小さいキノコを発見。20~26mm域で18cmまで寄れる強みと「LUMIX S5」のバリアングルモニターを生かし、ローポジションでキノコをワイドマクロ的に撮影してみた。こんな撮影ができるのが、このズーム最大の魅力だ。
高画素機でも通用する高い描写能力
4730万画素の「LUMIX S1R」と組み合わせても、ピント面は非常にシャープな描写が得られる。「LUMIX S5」よりも画素数が多いぶん、微ボケや周辺解像は多少乱れを感じる領域もあるが、S 24-105mmズームよりも小型軽量なので、ヘビー級ボディのS1Rも持ち歩こうという気にさせられる。
中間域の後ボケも滑らか
焦点距離的にも開放F値的にも、近接撮影時以外はそれほど大きなボケ描写は期待できないレンズだが、被写界深度が深いわけではないので、どこにピントを合わせるかは慎重に。うるさいボケになりそうな背景だが、必要以上にシャープネスをかけなければ、滑らかなボケ味だ。
このクラスの標準ズームとしては優秀なテレ側の描写
横浜大桟橋からみなとみらい方面の夜景をテレ端開放で撮影。ビルの窓から漏れる光に青ハロは少なく、周辺のコマフレアも軽微だ。ワイド端~ズーム中域の絞り開放は、周辺部で光源に少しニジミが出て、解像に緩さも出るが、点光源の大きな乱れはなく、このクラスのズームとしてはなかなか優秀な描写だ。
※参考価格は記事執筆時点の量販店価格です。