一般的にスイセンといえば、ニホンスイセンを思い浮かべると思います。白い花びらに黄色いカップ形の副花冠がついた独特な形状で、2cmほどの小さな花が房状に広がっています。12月から2月にとてもよい香りを放ちながら咲く冬の花です。
ニホンスイセンは、日本の海岸線などで群生していますが、公園や道端でも見ることができます。野山に咲いたり、都心の公園などでも見られるスイセン。昨今は広大なスイセン畑が観光の目玉となっている場所もあります。
花を小さく写すとスイセンらしさが出るが、背景が広く写るので、その描写にも気を配ろう
スイセンの花は小さいので、画面の中でも小さめに写したほうが、そのかわいらしさを表現できます。その際、花が小さく写るぶん、背景の面積が広くなるので、そこに何を入れるかが重要になってきます。
スイセン畑で撮れば、主役の周囲にあるのも同じスイセンになり、変化を求めるならせいぜい見上げた空でしょう。また、公園などでは後ろの木々が背景になり、海沿いの斜面に咲く場合は、海岸の景色を入れることもできそうです。天候を見極めたり、景観を観察したりしながら、最適なレンズを選んでフレーミングを行いましょう。レンズによって、背景の写る範囲やボケ具合などが変わってきます。
基本テクニック
煩雑な場所で背景をすっきり見せるには望遠レンズを使おう
同じ絞り値でも、焦点距離によってボケの違いが出るのと同様に、背景の写る範囲も変わってくる。広角は画角が広いため、背景の写る範囲が広くなる。その逆で、望遠は狭い画角ゆえ、背景の写る範囲も狭くなる。これにより、広角ではスイセンをクローズアップしても、周囲の風景を見せられる。一方、望遠でもあえて遠くから写せば花は小さく写り、画角が狭い望遠では、背景の写る範囲は狭くなる。ごちゃごちゃした場所でも、背景をすっきりと見せることができて花を引き立たせられるのだ。
24ミリ相当=背景広い
80ミリ相当=背景中ぐらい
〇300ミリ相当=背景狭い
主役のスイセンを同じ大きさに撮影。背景の入り方に違いが見られる
花の可憐さを出すため、主役はあえて小さめに配置した。背景の面積が広くなるが、スイセンは細かい花なので、背景があまり煩雑になると目立たなくなる。そこで、画角の狭い300ミリ相当の望遠レンズで背景をすっきりさせて、花々を目立たせた。同じ場所で、花が同じ大きさに写るように焦点距離を変えて撮影してみると、広角24ミリ相当では背景が広く写り、若干うるさい。80ミリ相当では背景が感じられる程度の入り方である。
応用テクニック①
背景の広がりを見せたいときは広角レンズで接写する
背景の雰囲気を取り入れたいときは広角レンズを使おう。基本テクニックでも述べたとおり、広角レンズは背景の写る範囲が広いので、花の咲いている環境を容易に写し込むことができる。また青空を広く捉えるのにも効果的だ。ただし、画面の隅に余計なものが写り込みやすいので、周囲までよく確認してからシャッターを切ろう。
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80ミリ相当で撮影。背景の写る範囲が狭くなるので、背景が青い空だけになった。主役は目立つが、雲もないのでなんだか平坦で面白くない。
開放的なシーンを広角レンズで生かす
広角レンズでもスイセンに迫れば、わりと大きく写すことができる。ここでは邪魔なものが何もなか ったので、花を見上げることで周囲の花と広がる青空を取り入れることができた。開放的な場所を生かせて、爽やかな1枚に仕上がった。
24ミリ相当 絞り優先オート(F2.8 1/1250秒) +1.3補正 ISO200 WB:晴天
応用テクニック②
背景の景色を程よく見せるには標準から中望遠レンズが最適
スイセンは沿岸部の斜面に群生を作っていることが多い。そのため、海辺と組み合わせることができる。背景に遠くの景色を入れる場合は、標準から中望遠程度のレンズを選び、背景の写る範囲は焦点距離で調整しよう。しかし、背景が煩雑な場合はスイセンが目立たなくなってしまうので、絞りを開けるか、焦点距離を短めにして背景を少しぼかすといい。
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スイセンが咲いている場所から海や岸辺が見えた。200ミリ相当の望遠で撮ると、背景の写る範囲が狭いので岩礁しか入ってこなかった。
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海辺の景色が伝わるように、70ミリ相当の中望遠域で撮影
中望遠の70ミリ相当を選ぶと、半島までが入って奥行きが出た。遠くの風景までシャープに写すには絞りを絞り込めばいいが、スイセンは小さいので背景がくっきり写っていると目立たない。中望遠の画角で海辺を感じさせつつ、少しぼかして咲いている環境を伝えている。
70ミリ相当 絞り優先オート(F3.2 1/1000秒) ISO200 WB:晴天
写真・解説/吉住志穂