プロの現場で何をつかんだ? 参加者に聞いた
客席からは絶対に撮れない写真を狙った
普段はライブステージなどを撮っていて、陸上競技は撮ったことがないという石井柾さん。フォトポジション確認の合間にどんな写真を撮りたいかと聞くと、客席からは絶対に撮れない写真だと言う。講義で青木さんが「今日は仕事ではないのだから、どアップで撮るくらいの勇気を持って」と話したのを受けての答えだ。

100m走の撮影では、まず選手横一列で全体を撮り、前に出た選手を見つけて追う。それがわずか10秒ほどの間に起こってしまうので、思いどおりに追い写せたときが楽しかったそうだ。青木さんの講評は、「やる気があれば十分食べていける写真」。そのうえで、まだ仕事ではないのだから「プロが撮っていない写真を撮るくらいの気持ちを持って」と付け加えた。

タイムを見るときこそ選手の個性が出る
光と影。水谷塾でスポーツ写真を始めた梅田朗江さんが意識してきたテーマだ。ナイターの陸上競技は初めてだったが、狙いは背景と選手のシルエットの美しさ。そして絶対に撮りたいのは、選手の表情だった。

撮影を終えた梅田さんは、自分の中の基準はある程度超えたと振り返った。フォトポジションの取り合いもゆずり合いも楽しめたという。現場に入ったからこそわかることもあり、もっと実験したかったとも話した。梅田さんが選んだ1枚は、女子の準決勝を終えた選手が、タイムを確かめる真剣な眼差し。喜ぶ姿や悔しがる姿を撮りがちだったが、今回はそこを狙ったという。青木さんは、「タイムを見るときこそ本人の個性が出る」と、その狙いを認めた。

表情が見えることにこだわった
弟が陸上競技をやっていて、客席から見たことはある。けれど、そのときは本当にただ応援しているだけだったと、三谷結さん。普段は子どもの撮影を仕事にしていて、陸上競技を撮るのは初めて。大丈夫かなと言いながらも、すごくワクワクしていると話した。

フィールドに入ってみると、「自分の見る視点がそもそも違った」と振り返った。初めて入る場所で試行錯誤し、ここで撮るならこういうのがいいと少しずつわかってきた。この経験は、仕事にも生かせそうだという。仕事では、こう撮ってと言われたとおりに撮ってきた。今回の撮影で「もっとやっていいんだ」と思えた。距離感の近い写真を、もう少し自分から「踏み出して」撮りに行くのも、ちょっと面白そうだと話す。

三谷さんがベストショットに入れたのは、こちらを向いた棒高跳びの選手の必死な顔を捉えた1枚。青木さんが「ちゃんと顔が見えることを大事にして撮っている。見る人の心を捉える」と、表情が見えることにこだわった狙いを評価した。
勇気を持って撮ることを心に刻んで世界を目指す
野球と飛行機を撮ってきた宇佐美雄大さんにとって、陸上競技は初めて。それでも準備をしてから臨んだ。今大会を含めて映像でいろいろ見て、どこから撮れるのか、どんな写真が撮れるのかを想像した。撮影前には、いくつものポジションを回り、この競技はここで撮ろうと考えていた。

フォトポジションに入った感想を聞くと、すごく高ぶったという。隣には著名なカメラマンがいて、世界のプロカメラマンたちと肩を並べて撮っている。プロが現場から送っている写真を見て、こんな撮り方もあるんだと気づかされた。いちばん楽しかったのは最後の100m決勝。最前列に座って撮れたうえに、選手から目線をもらえたことだという。カメラに目線を向けたのは、100mを制したタイのブーンソン選手だった。

宇佐美さんの作品を見た青木さんは、こう語った。「すごく勇気がある。この気持ちを忘れないようにしてほしい。仕事になると忘れちゃうから。勇気を持って撮る、いい姿勢だと思います」。宇佐美さんが持ち帰る青木さんの言葉も、「勇気を持つこと」だという。通信社を志望し、目指すのは世界大会を撮るカメラマンだ。
最優秀作品は「仕事では撮らない写真」
最優秀作品に選ばれたのは、男子100mを制したタイのブーンソン選手が国旗を掲げる姿を、やや後ろからハイキーな露出で捉えた金野恵理さんの1枚だ。「仕事で撮っている人はこの写真は撮らないです。撮る暇がないと思う」と青木さん。選手の向こうに並ぶカメラマンまで入れた構図と光の狙い方を評価した。例えば陸上競技でグラビアを8ページ組むなら「これ表紙になりますよね」と話した。

「やった!」という瞬間が好きな金野恵理さん。バスケットボールが好きでカメラを始め、陸上競技を撮るのは今回が初めて。狙いは棒高跳びと100m走、そして目標を達成した選手の表情だった。実際に撮ってみて感じたのは、バスケットボールとの違いだ。フィールドが広く、撮りたい選手との距離が遠い。動く距離も長いので、そのぶんずっと狙い続けなければならない。周りのプロからは、ポジションをどこにするかを瞬時に判断することを学んだ。プロのフォトポジションに入った高揚感は、もちろんあった。緊張するよりも、ワクワクしたという。いちばん楽しかった瞬間も、会場に足を踏み入れた時だった。
