2026年9月25日、CAPAとFIA WECのコラボレーションによる「FIA 世界耐久選手権 富士6時間耐久レース」撮影セミナーを開催。CAPAのモータースポーツ写真コンテスト「流し撮りGP」審査委員長を務める日本レース写真家協会会長・小林稔先生による指導のもと、10名の参加者が富士スピードウェイでサーキットを疾走するマシン撮影に挑戦しました。

昨年に続いて2回目の開催となる「FIA 世界耐久選手権 富士6時間耐久レース」撮影セミナー。今回は、普段メディアしか入ることのできないコースサイドからの特別撮影体験です。当日の様子をレポートします。
「特別な場所に入っているんだ」というプライドを持って
富士スピードウェイに集合した10名の参加者は、ピットビルにあるメディアセンター内のセミナー会場で小林稔先生から撮影前のレクチャーを受けました。

- 特別講師・小林稔先生 (Minoru Kobayashi)
- 自動車専門誌や一般誌における国産車・外国車の新車試乗記の撮影、メーカーのカタログ、自動車ショーなどアウトドア、スタジオを問わずクルマとモータースポーツの写真を撮り続ける。現在、SUPER FORMULA、SUPER GTのオフィシャル・フォトグラファーを務め、ル・マン24時間レースなど国内外で年間20レース以上を撮影する。日本レース写真家協会 (JRPA) 会長。
特に今回はFIA (世界自動車連盟) から特別な許可を得て、メディアしか入れないコースサイドからの撮影ということで、ルールや注意事項もたくさん。「WECという世界選手権の舞台でコースサイド (フェンスの内側) に入ってみなさんが撮影できるというのは、おそらく初めての貴重な機会です。特別な場所に入っているんだというプライドと責任を持って、コースサイドに立ってほしいと思っています」と小林先生。

小林先生は、撮影セミナーを行うルートとそれぞれのコーナーでの作例を見せながら丁寧に事前解説。初めてのコースサイド撮影に向けて、具体的な作画イメージを思い描いて撮影体験に臨むことができました。

タバードを着用し、いざコースサイドへ
今回の撮影セミナーでは、金曜日の午後に行われた1時間30分の練習走行を撮影。まずは「GR GTコーナー」から。コースサイドからだと下からの見上げるようなアングルで迫力ある写真が撮れるポイントです。WECならではの看板を構図に織り交ぜたり、塗り直されたきれいな縁石を生かした絵作りが楽しめます。

参加者はフェンスに開けられた「メディアホール」から、待ってましたとばかりに撮影を始めます。小林先生は参加者が撮影している様子を見て回り、撮影フォーム、レンズの使い方、シャッターの切り方などをつぶさに観察しながら、それぞれにアドバイスを送っていました。


移動しながらコースサイドならではのポイントで撮影
「GR GTコーナー」の後は、イン側を下って「第13コーナー」「ダンロップコーナー」へと移動しながら撮影を行います。

いろいろなポジションからの撮影を体験してもらうため、ひとつのポイントでの時間は短くなってしまいますが、参加者は指示に従い集中して撮影していました。


セレクトに頭を抱えつつ、撮って出しの作品で講評会
1時間半の練習走行は、気づけばあっという間に終了。セミナー会場に戻って講評会です。さぁ、ここからが大変。撮影した写真の中から小林先生に講評をもらう2点を選びます。中には6,000カット以上を撮った参加者も。セレクトタイムは30分の予定でしたが、少し時間オーバーとなりました。ここからは、参加者それぞれの作品と小林先生の講評をお届けします。

細井渉さん

ダンロップの進入のところで、通常は金網で見えない位置から、WECならではの看板と赤いトヨタのハイパーカーを狙いました。1/15秒の手持ち流し撮りで背景の木々を流して、光を浴びたマシンのきれいな発色を表現しました。
小林稔先生の講評
背景を広めに入れた構図や、スローシャッターによる木々のブレ感が良く、車もしっかり止まっている。トヨタの赤い車がすごく印象的だね。車の配置や構図の作り方が非常に巧みです。

細野勉さん

サービスカー出口付近の芝生エリアから縦位置で撮影しました。WECならではの看板の赤、塗り直された縁石の赤、フェラーリのマシンの赤という「赤の要素」をまとめた構図にしてみました。
小林稔先生の講評
すごくまとまっているんだけど、要素 (縁石・車・看板) を詰め込みすぎた「欲張り写真」になっているかな。見せたいテーマを1つに絞り込んでシンプルにまとめることで、写真としての力強さが増すと思います。

松室誠さん

ダンロップコーナーの進入です。ハイパーカーの中で唯一、ブレーキローターが赤く光って見えたアストンマーティンを狙い、正面から光が当たるタイミングを意識してアップで捉えてみました。
小林稔先生の講評
ハイパーカーのローターがなかなか赤く見えない中、見えるマシンを見極めて、見せたい部分をはっきりさせている。ブレーキローターの赤さを目立たせるために、余計な要素を削ぎ落として大アップで切り取った画角選択は良かったと思います。

西野和昭さん

後続のハイパーカーとの距離感を保ちつつ、若干のスローシャッターで縁石を流して撮影してみました。スローシャッター時にピントが車体中央に引っ張られ、前後がブレるのはどうしてでしょうか?
小林稔先生の講評
シャッタースピードの選択が良く、縁石が効いたバランスの良い作品ですね。マシンの旋回時は車体中央 (センター) にあるコックピットを中心に狙って流し撮りすると、前後部分の移動量が物理的に大きくなるので、写真上の流れが強く写ります。コックピット内のドライバーを止めて撮りたい場合「ヘルメットだけをニラミつけてシャッターを切ると止まって写る!」と言いますが…嘘か真か (笑)。

川島康平さん

ダンロップを抜けていくところで、マシンが要所にきれいに配置された瞬間を、1/150〜1/200秒程度のシャッタースピードで捉えました。もう少し流しても良かったかなとも思います。
小林稔先生の講評
手前に大きな要素があっても、BMWのマシンにバシッとピントが合って、流れながらも止まっている。圧倒的な存在感があるため、いろいろな要素が入っていても欲張り感を感じさせない非常に良い写真です。

船越陽太さん

600mmにクロップ (900mm相当) をかけ、縁石に深く乗りあげるマシンを正面から狙いました。マシンの左側に後続車のヘッドライトの光が当たる瞬間を捉えました。
小林稔先生の講評
フォードのマシンがバーンと浮き上がるのを狙って撮っていますね。狙い通りに撮れるというのは、すごく大事。クロップを効果的に使っていて、狙い通りのインパクトと迫力を見事に形にしています。

増田直也さん

ダンロップ正面立ち上がりです。マシンが凝縮するポイントで、フロントを確実に止めつつスローシャッターで後続車のヘッドライトを流し、躍動感・動感を表現しました。
小林稔先生の講評
明確な考えを持って撮っている写真は伝わりますよね。言葉での説明が不要なほど「フロントを止めてリアの光を流す」という意図がストレートに伝わる、非常に迫力があって力強い写真です。

中島竜珠さん

昨年から、WECでBMWのマシンがダンロップで跳ねる挙動を知っていたため、金網がないイン側のコースサイドという利点を生かし、側面からジャンプする瞬間を高速シャッターで撮影しました。
小林稔先生の講評
「被写体への深い理解 (マシンの挙動知識)」というのは大切なんですよね。これはモータースポーツに限らず。知っているからこそ撮れる写真があって、「被写体への深い理解」がそのまま素晴らしい写真として結実した最高の例です。

渡辺将人さん

皆さんも撮影されていましたが、ダンロップコーナーでアストンマーティンのマシンが縁石に乗って浮く瞬間を、あえて遅めのシャッタースピードで流して撮影しました。
小林稔先生の講評
通常は高速シャッターで力強さを出す「跳ね」のシーンをスローシャッターで撮ることで、背景のグリーンや木々の流れが柔らかく合わさり、詩的で抒情的な表現になっています。

joeiさん

S字の奥行のある写真が好きで、めったに見られないトヨタ2台のランデブー走行という一瞬のチャンスを逃さず、フロントにピントを合わせて適度なシャッタースピード (1/320秒程度) で流し撮りしました。
小林稔先生の講評
トヨタの2台が揃う貴重なシーンを見逃さずに、きっちり止めた集中力は素晴らしい。シャッタースピードも、後続車がきちんと認識できる絶妙な設定です。少ないチャンスでいかに撮れるかは大切です。

何をどう撮りたいか? テーマ設定は技術以上に大切
約6時間にわたって、事前レクチャーから撮影指導、講評まで、参加者たちと真摯に向き合い、交流してくださった小林先生。最後にCAPA「流し撮りGP」の審査で重きを置いているポイントや、モータースポーツ写真への熱い想いをお聞きしました。

写真の構図に角度をつけるかどうかには決まりはないし、かっこよく見せる手法としては全然アリだと思います。ただ、僕は根が古い人間だから、写真というのは何よりも “真実やリアルを伝えるもの” でありたいと思っています。登り坂なら登り、下り坂なら下りとして、そのサーキット本来の地形や美しさをそのまま伝えることをすごく大切にしますね。
それから、僕はレタッチ (画像加工) があまり好きじゃないんです。写真を整える調整としのレタッチは必要であり、デジタル映像の大きな長所ですが、「流し撮りGP」ではレタッチ競争を見たいわけじゃないし、加工に頼らなくても良い写真というのはたくさんある。大切なのは、ただスローシャッターでスピード感を出すような技術だけではなく、撮影者が何を伝えたいのか? 僕 (見る人) に何を見せたいのか? という思いやメッセージが伝わってくるかどうか。「あ、この人はここを考えて撮ったんだな」と共感できる写真に僕は惹かれるし、そういった作品を選びたいと思っています。

写真の技術やスキルというのは、経験を重ねて撮っていけばいつかは誰でも絶対にうまくなるものだと思います。でも、その人が持っている感性や “何をどう撮りたいか” という考え方やテーマ設定は、技術以上に大切なものなんです。自分が狙った通りの写真が撮れるようになると、写真はどんどん楽しくなっていく。だからこれからも、その “狙い” や “伝えたい思い” を何より大事にして、撮影を楽しんでいってほしいです。

〈撮影〉後藤佑紀
〈協力〉FIA WEC、富士スピードウェイ