「出汁(だし)」「出し汁(だしじる)」とは、鰹節・昆布・煮干しなどを煮出した汁で、汁物や煮物など旨味(うまみ)を出すために使うものをいいます。でも「だしを取る」あるいは「だしをひく」というと、なんだかずいぶん敷居が高く思えますよね。
ところが実は、だしの取り方とはシンプルで、それほど時間もかからないのです。今回は京都で育ち、和食や精進料理を研究してきた料理研究家の荒木典子さんに、基本的なだしの取り方3種類と、それを使ったかきたま汁のレシピを教えていただきました。電子レンジやだしパックを使って、より簡単にだしを取れるアイテムも紹介します。
世界から称賛されているUMAMIとは?
“旨味”とは、酸味や甘味、塩味、苦味という4つの基本味に加えられた味覚で、1908年に日本人が発見したもの。日本以外では、この言葉に相当するものがなかったことから、「UMAMI」という表記が今も世界中で使われています。
旨味の成分の中でも主なのが、昆布に含まれるグルタミン酸と、鰹節などに含まれるイノシン酸、そして干し椎茸に含まれるグアニル酸。つまり、昆布や鰹節に含まれる旨味が、和食のおいしさを引き立てているのです。
旨味を感じられるだしの良さ
取っただしは、煮物や味噌汁などに使うだけでなく、さっと湯がいただけのほうれん草を浸したり、厚焼き卵を焼くときに混ぜたりすると、それだけでプロの味に近づけます。
「だしの取り方を覚えるだけで、ワンランク上の食事を楽しむことができますよ。肉、魚、野菜などどんな素材とも相性がいいので、だしがあるだけで料理上手になれるんです」(料理研究家・荒木典子さん、以下同)
マスターすべきだしの取り方3
それでは早速、だしの取り方を見ていきましょう。覚えておきたい基本の取り方は下記の3種類です。
1. 昆布と鰹節を使った一番だし
煮物や淡い味つけの料理にぴったり!
「火の調整やタイミングなどで、3つの中ではもっとも手間がかかる方法ですが、華やかな香りや強い旨味がほしいとき、味の底上げをしたいときにはこのだしがいちばん優れています。ただ、昆布は高価ですし、味噌や醤油などでくっきりと味をつけるようなものに使ってしまうともったいないので、日常的に使うのではなく、大根やかぼちゃを煮るときやお吸い物など、だしの味そのものを大切に調理するメニューに使うといいと思います」
では、昆布と鰹節を使った“一番だし”(煮出して最初に裏漉しにかけて出た汁のこと)の取り方を、順を追って説明していただきましょう。
1.鍋に1Lの水と昆布20gを入れ、30分浸しておく
「だしを取る昆布は、利尻昆布と真昆布の2種が適しています。利尻の方が塩分が高く、真昆布の方が塩分は低めです」
2.弱火にかけて、沸騰する前に昆布を取り出す
「昆布から旨味が出るのは、60〜70℃のときです。その温度帯である時間が長いほど旨味が出るので、あまり強い火にかけず、じっくりと温度を上げていきます。また、沸騰させてしまうと昆布の粘りが出てしまうので、泡が鍋底にふつふつと浮いてきた沸騰直前で、昆布を引き上げます」
【ポイント】
昆布を引き上げる前に、必ずだしの味見をしましょう。「いつもと同じように取ったつもりでも、レシピの通りにしていても、そのときの水温、昆布の厚さ、個体差などでだしの味は変わってしまうもの。必ずこの工程で、どんな風にだしが取れているのか、味見をしてください。昆布の香りや旨味が感じられないときは、鰹節の量をひとつまみ程度増やし、次から同じ昆布で取るときは昆布の量を増やしてみましょう」
3.沸騰させたら、温度を下げるために50〜100mlの水を入れる
「お湯の温度が上がったまま鰹節を入れると、えぐみが出てしまいます。鰹節のだしもしっかり取れるよう、いったん少し温度を下げるために水を入れます」
4.鰹節を入れてすぐに火を止める
「ここで入れる鰹節の量はひとつかみ分、10gくらい。昆布からしっかりと旨味が出ているときは鰹節は少なめ、イマイチ足りないなと感じたら鰹節を多めにして、自分がおいしいと思う味に調整していきます。昆布でしっかりだしを取り、鰹節はそこに添えるような気持ちで入れるとうまくいきますよ」
5.鰹節を漉す
「さらしやガーゼがなければ、キッチンペーパーや目の細かいざるなどでも大丈夫。鰹節を入れて火を止めたら、すぐに漉しましょう。鰹節を浸したままでいると、魚のえぐみや臭みがでてしまいます」
続いて、次のページでは「煮干し」を使っただしの取り方を解説していきます。
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2.煮干しを使っただし
味噌汁のときはコレ!
「煮干しのだしは、魚の香りがあるので独特のクセがありますが、手軽ですしお味噌との相性が抜群です。野菜の煮物にも使えます。取り方も、お味噌汁を作る工程で煮干しを入れればいいだけなので簡単。煮干しは大きさがいろいろありますが、どんなものでも大丈夫なので、使うときは大きさではなく量で決めましょう」
では、煮干しを使っただしの取り方を解説していただきます。
1.煮干しの頭と腹わたを取る
「頭と腹わたに魚のえぐみがあるので取り除くのですが、小さな煮干しなら取らなくても、それほど味は変わりません。時間のあるときに取っておくのがいいでしょう」
2.鍋に10〜12gの煮干しと水500mlを入れ、加熱する
「水に煮干しを浸したら、すぐに火をつけて加熱できるので、時間がないときにも簡単にできます。煮干しの量もひとつかみくらい、と覚えておくと便利ですよ」
3.沸騰して1〜2分たったら煮干しを引き上げる
「だしを取った後の煮干しは、多少苦味があるので引き上げますが、苦手でなければお味噌汁の具と一緒に食べると栄養満点です。その場合は、お味噌汁ができあがったあとに煮干しを戻しましょう」
3つ目は、「鰹節」を使った即席のだしの取り方です。
3.鰹節を使った即席だし
急いでいるときや少量でいいときに!
「こちらは、1カップだけだしが欲しいというときや、時間がないときに向いているだしです。鰹節の上から熱湯を注ぐだけで、簡単に取れます。出し巻卵やお浸しに使えますよ」
その鰹節を使った即席だしを取る手順は、たったこれだけ。
1.ざるに鰹節を1パック入れ、熱湯を100〜200ml注ぐ
「上から熱々のお湯を注ぐだけで、あっという間にだしが取れます。お湯を注ぎ、2〜3分したらざるを上げましょう。これでできあがりですから簡単ですよね」
取っただしはどう保存すればいい?
「取っただしは、2日程度なら冷蔵庫で保存できますが、すぐに使わない場合は冷凍しましょう。製氷皿や200ccくらいずつ小分けにして、保存袋で冷凍しておくと、さっと使えて便利です。また、だしに使う煮干しと鰹節は、必ず密封して冷蔵庫で保管するように。常温で保存していると魚の脂で酸化してしまい、風味が変わってしまいます」
だしを取った後のガラはどうする?
「だしを取った後の昆布にはまだ旨味がたっぷり残っているので、“二番だし”に使ってもいいし、煮物をするときの落し蓋に使ったり、炊き込みご飯をするときに加えたり、昆布の間にお刺身を挟んで昆布締めにするのもいいと思います。ただ、とてもカビやすく、冷蔵庫での保存でも1〜2日しか持たないので、冷凍がおすすめです。また、だしを取った後の鰹節はふりかけにしたり、煮干しはそのままお味噌汁や煮物に入れるなどしてください」
おいしいだしを取れたところで、これを使った料理を作ってみましょう。さっぱりとでも味わい深いスープです。
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一番だしを使ってつくるレシピ
トマトの酸味とだしが好相性な「トマトかきたま汁」
「ふわふわの卵とだしの香りに、トマトを合わせた吸い物です。トマトは夏野菜で知られていますが、春先に旬を迎えておいしくなります。昆布に近い成分を含むのでトマトからもだしの旨みが出て、さっぱりしていながらも深い味わいです」
【材料】
・だし汁…500ml
・トマト…中1個
・卵…1個
・万能ネギ…2本
・塩、薄口しょうゆ…各適量
【作り方】
1.種を取り除いてひと口大に切ったトマトを、沸かしただしの中に入れる
「トマトは湯むきすると口当たりがよくなりますが、しなくてもおいしいですよ」
2.ふたたび沸騰させてふつふつと湧いてきたところに、ざっと溶いた卵を流し込む
「だしの温度が低いと卵が固まらず、濁ったお吸い物になってしまいます。きちんと沸かしたところに流しましょう」
3.卵が鍋底にたまらないよう、ざっとかき混ぜて、塩と薄口しょうゆで味を整える
「薄口しょうゆはだいたい小さじ1ほど入れます。おつゆに色をつけたくないので、薄口しょうゆはあくまでも香りづけです。塩を加えてから味見し、薄口しょうゆで味をととのえましょう」
4.盛りつけて小口切りにした万能ネギを飾る
「普段はお味噌汁でも、お祝いごとやちょっと特別なときにお吸い物を作ると、上品でよそいきの食事が楽しめます。だしがじょうずに取れたら、具材は冷蔵庫にある青菜やお麩などでもいいですし、おろし生姜や柚子の皮を添えれば、さらに本格的なお吸い物になりますよ」
最後に、次のページでは本格的にだしを取るのはやっぱり難しい……という人にも使いやすいアイテムを紹介します。ぜひチェックして活用してみてください。
Profile
料理研究家 / 荒木典子
京都で育ち、料理上手な祖母と母に囲まれて料理への興味を抱く。大学卒業後にフランスへ留学。帰国して調理師学校へ進み、料理の基礎を学ぶ。その後、世界文化社株式会社で料理本の編集者として働き、2007年より独立。書籍や雑誌の仕事を中心に、企業へのレシピ提供、料理店の監修、料理教室の開催など、幅広く活躍している。
http://arakinoriko.com/
本格的にだしを取るのはやっぱり難しい…という人にも使いやすいアイテムを紹介します。
編集部選 だしをもっと身近にするアイテム4
1.濃厚なだしを取りたいときの、椎茸も入っただしパック
うね乃株式会社「おだしのパックじん(赤)」
1030円+税
いわしやさば、昆布、椎茸と豊富な食材からだしを取れるパック。大根を煮たり、豚汁や普段の味噌汁に使ったりと、パックを入れるだけで濃厚で香りのよいだしを取れます。
2.上品なあごだしを取れるだしパック
無印良品「国産素材を使っただしパック 飛魚(あご)とかつお 」
574円+税
「トビウオ」とも読む飛魚は、日本海沿岸では「アゴ」と呼ばれ、鮮魚ではなく干物にしたりだしをとったりするための魚として使われてきました。他の魚よりも雑味が少なく、上品なコクがあるだしとして人気があります。
3.急いでいるときには電子レンジを使って
にんべん「だしポット・削りぶし4袋セット」
3500円+税
セットになっている削りぶしと水を入れて、電子レンジ(500W)で7分間加熱するだけで簡単におだしがひける、便利なだしポット。こし器を外してそのまま冷蔵庫で保存することもできるので、毎日のお味噌汁にも使いやすいセットです。※にんべんのネットショップ限定販売
(問い合わせ先 net-info@ninben.co.jp)
4.水出しでだしを取るときにあると便利!
HARIO「フィルターインボトル」
2000円+税
ボトル上部にフィルターがついているので、昆布や鰹節、だしパックなどを入れておき、水を注いで冷蔵庫で一晩保存すれば、できあがり。忙しい人は、朝セットしておけば、夕食の準備も効率よくできそうですね。
だしを取ると、素材の味を活かす薄味の料理にいっそう旨味が出ておいしく感じられるようになり、自然と調味料を使う量も減るかもしれません。胃の疲れやストレスに悩んでいるときにも、だしの香りが癒してくれるはず。時間やシーンに合わせて取り方を変えながら、楽しんでみてください。