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お酒
2020/8/21 17:00

紹興酒って何? どうやって飲む? いまさら聞けない「紹興酒の基本」の噺【前編】

長い歴史を持つ中国のお酒・紹興酒(しょうこうしゅ)。今回は、初心者でも家飲みで気軽に楽しめるよう、識者を招いて紹興酒の魅力と基礎知識を教えてもらいます。

 

餃子に麻婆豆腐、エビチリにチンジャオロースー……中華料理は、すでに我々の食生活には欠かせない存在となっています。特に今はおうち時間が増えて、中華料理のデリバリーや惣菜をつまみにして飲んでいる人も多いでしょう。そこで注目したいのが、「中華料理に合う」と言われる紹興酒。ただし、聞いたことはあるけれど、どんな飲み方をしたらいいかわからない、そもそもどんなお酒か、わからないので手が出せない……という人は少なくないはず。

そこで今回は、興味はあるものの紹興酒についてはあまり知らないGetNavi web編集部の小林史於(こばやし・しお)が、酒文化研究所の山田聡昭(やまだ・としあき)さんをガイドに招き、紹興酒の基礎を教えてもらいます。前編では、紹興酒の定義や製法、飲み方など、いまさら聞けない「きほんのき」を伝授してもらいます。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

↑今回、紹興酒のガイド役をお願いした山田聡昭さん。様々な媒体で連載をもつほか、『酒席に役立つ読む肴 サラリーマン酒白書』(紀伊国屋書店)など編集や執筆に携わった著書も多数

 

もち米の醸造酒を熟成させた老酒のうち、紹興市で造られたものが「紹興酒」

取材に協力してくれた山田聡昭さんは、「酒文化研究所」の設立メンバーであり、かつては情報誌「さけ通信」の編集長を務めるなど、お酒全般に造詣が深い人物。紹興酒の醸造現場を取材した経験もある、紹興酒の達人でもあります。さっそく、「紹興酒とは何か?」というところから解説していただきましょう。

↑今回は、伝統的な製法で造られる「塔牌(とうはい)」という銘柄を例に挙げてレクチャー

 

小林 本日はよろしくお願いします! 基本的すぎて恐縮ですが、紹興酒って何でしょうか。まずは、定義から教えてください!

 

山田 大きな分類でいえば、紹興酒は醸造酒(※)です。日本酒やワイン、ビールなどと同じ部類ですね。中国では穀物の醸造酒を黄酒(ホワンチュウ)と呼び、なかでも長期熟成させたものを老酒(ラオチュウ)と呼びます。もち米を原料とした老酒の一種が紹興酒。浙江省(せっこうしょう)の紹興市で造られた老酒のみ「紹興酒」と名乗ることができます。

※醸造酒……穀類・果実などの原料を、酵母によりアルコール発酵させて造ったお酒(日本酒・ワインなど)

↑紹興酒のふるさと・紹興市の風景。紹興市は湖沼が多く、水路が発達しています

 

小林 へえ、「紹興」って地名だったんですね。中国のどのあたりにあるんですか?

 

山田 紹興市は、上海から南西にクルマで2~3時間くらいの位置にあります。産地でブランド化している中国のお酒は紹興酒ぐらいでしょうね。スパークリングワインでいえば、シャンパーニュ(同地方で造られたものしかシャンパーニュと名乗れない)のようなものです。ちなみに紹興での酒造りの歴史は古く、2400年以上前の春秋時代には、紹興で盛んに酒造りが行われていたと推測されています。

 

小林 2400年前! 春秋時代といえば、マンガ「キングダム」の時代(戦国時代)のさらに前ですよね。これはロマンがある! でも、それだけ昔から酒造りが続いてきたってことは、紹興はかなり酒造りに適した場所、ということになりませんか?

 

山田 そうですね。紹興は中国屈指の水郷地帯で、紹興酒は名水として知られる鑒湖(かんこ・鑑湖と表記することもある)の水を使うのが絶対条件のひとつです。この水の良さは大きなポイントです。

↑会稽山脈系の伏流水が涌き出る鑒湖

 

↑鑒湖の水は、もち米の洗浄や浸漬(米に水をしみ込ませること)をはじめ、仕込み全般に使われます

 

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原料と製法は? 日本酒との違いに注目して解説

小林 では、続いて紹興酒の原料や製法について教えてください。日本酒と同様、お米を使っているということで、日本酒と比べて解説してもらえるとうれしいです!

山田 日本酒はうるち米を使いますが、紹興酒の原料は、より粘り気のあるもち米ですね。そして、両者とも米のデンプンを糖に変える工程(糖化)を踏まないと、アルコール発酵ができない。だから、日本酒も紹興酒も、米を糖化させる麹(こうじ)というカビの一種を使うのですが、日本酒と紹興酒では麹の種類が違います。日本酒では米に「黄麹」(きこうじ)というカビを繁殖させた米麹を使うことが多いですが、紹興酒の場合は麦にクモノスカビという系統のカビを繁殖させた麦麹を使います

 

小林 なるほど。日本酒と同じで米を糖化させる作業は必要だけど、使う麹の種類が違うんですね。

 

山田 そうなんです。さらに紹興酒は麦麹で米のデンプンを糖化させつつ、酵母などを含んだ酒薬(しゅやく)というものを加えてアルコール発酵させる。これが、紹興酒の仕込みの概要です。仕込みの方法は、糖化とアルコール発酵を一つの容器で同時に行う「並行複発酵(へいこうふくはっこう)」で、その点は日本酒と共通ですね。ちなみに、近年の仕込みではステンレスタンクを使うことも多いですが、「塔牌」のような伝統製法の紹興酒は甕(かめ)で仕込みます。甕で二段階の自然発酵を行い、搾って原酒と酒粕に分けたら、今度は貯蔵用の小さな甕に詰めて長期熟成を行います。

↑伝統製法を守る「塔牌」の仕込み。職人たちは気候やもろみの温度、発酵の進み具合などを見ながら、長い棒を操って甕の中をかくはんします

 

↑貯蔵用の小さな甕にお酒を詰めたら、ハスの葉や油紙、竹の皮などで密閉して外気が浸透しないようにします

 

小林 うわあ、手が込んでいますね。いったいどれぐらい熟成させるんですか?

 

山田 3年や5年といったものから、8年、10年、15年、あるいはそれ以上とじっくり寝かせるものまで多種多様。かつて紹興では、娘が生まれたのを機に、父が紹興酒の甕を地中に埋めて娘が嫁ぐ日に振る舞ったことから、紹興酒は「花彫酒」(はなほりしゅ・かちょうしゅ)という別称で呼ばれることもあります。現在ではこの「花彫酒」が、長期熟成酒の愛称として使われることもありますね。この熟成の長さに応じた味わいの変化が、紹興酒の面白さでもあるわけです。日本酒の場合、3年以上の熟成を行うことはまれですから、そこも大きな違いですね。

↑「塔牌」の貯蔵庫。天井が高く、常に一定の温度に保たれた環境で甕を3~4段に積み重ねて貯蔵。年に一度、場所を入れ替えながら熟成させます

 

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軽快な味わいの5年ものをロックですっきり楽しむ

小林 紹興酒とは何なのか、とてもよくわかりました。 次は飲み方について教えてください!

 

山田 では、日本でもポピュラーな「塔牌」(とうはい)というブランドを使って、飲み方を紹介していきましょう。

小林 この赤いラベルに塔のマークが入った紹興酒は見たことあります! 居酒屋やスーパー、コンビニなどでもよく見かけますね。

 

山田 「塔牌」は日本での流通量が多いですからね。今でも伝統製法にこだわっていて、水質が最も安定する冬季にのみ仕込んでいるからか、紹興酒のなかでもクリアな味わい。初心者にもオススメです。まずは、何も入れずに常温で飲んでみてください。

↑紹興酒「塔牌」花彫 <陳五年>

 

小林 …ああ、これはウマイですね! 甘みや複雑な旨み、酸味が調和していてまろやかです。それでいてしつこさはなく、透明感もある……。熟成のせいなのか、独特の香味もあるんですね。

 

山田 おっしゃる通り、<陳五年>は5年の熟成を経ていて、深みのある味わいです。紹興酒のなかでも特に長期熟成させるものは「陳年」の名称が付けられるのですが、「塔牌」はすべてが「陳年」なんです。ちなみに「陳五年」とは、5年熟成酒をメインに4年ものや6年ものなどをブレンドして、加重平均で5年以上のものに付けられる酒齢のこと。若くて力強い酒や、年数を経て落ち着いた酒を巧みにブレンドすることも、おいしさの秘訣です。では、続いて5年以上の熟成酒だけを使用した<純五年>という銘柄をオン・ザ・ロックで試してみてください。

↑5年以上の陳年原酒のみを詰めた紹興酒「塔牌」<純五年>プレミアムをロックでいただきます

 

小林 ではひと口。あっ! ロックでほどよく冷えたからか、コクがありながらすっきりした味わいになりました! 飲み方のイチオシはロックなんですか?

 

山田 いえ、飲み方は何でもいいんですよ。ただ、熟成の度合いや季節、料理に応じて合わせると、より楽しめると思います。今回の<純五年>はそれ以上の熟成期間の紹興酒よりも軽快な味なので、ロックのように爽やかな飲み方がよく合うと思いまして。

 

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ぬる燗のほか常温をワイングラスで楽しむのもオススメ

小林 なるほど、勉強になります! あれ、日本酒の徳利がありますけど、次は燗ですか?

↑白い甕が特徴の紹興酒「塔牌」2010年<福(フータオ)>を燗でいただきます

 

山田 はい、今回は40℃くらいに温めてみました。日本酒でいうぬる燗くらいですね。お酒は2010年に醸造した陳年原酒のみを使用したヴィンテージ紹興酒の<福(フータオ)>です。

 

小林 ああ、これもウマイ……じんわり染み渡るおいしさです!

 

山田 紹興酒は乳酸が多く、乳酸は温めると味わいがふくらむんです。温め方は、湯せんでも電子レンジでもいいですよ。

 

小林 熟成が深いからか、まろやかさや上品な酸味がより際立っていますね。

 

山田 熟成感が増すことで、カラメルのような心地いい風味がより豊かになり、味のやわらかさや厚みもアップするんです。さあ、次はさらにリッチな「塔牌」の<陳十五年>を飲んでみてください。こちらは飲み口がすぼまった大きめのワイングラスで、香りを逃さず楽しむのがオススメです。

↑15年の長期熟成を経た特撰紹興酒「塔牌」<陳十五年>

 

小林 ああ……なんというエレガントな香りでしょう。確かに、常温でワイングラスだと香りが際立ちます。味は繊細で軽やか、上品で芳醇……舌触りも滑らかで、すいすい飲めます。これはウマイ!

 

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暑い季節は中国茶割りや炭酸割りでゴクゴク飲むのもよし

山田 あとは、暑い季節だとソフトドリンクで割ってゴクゴク飲むのもいいと思います。例えばジャスミン茶やウーロン茶などの中国茶割りはいかがでしょう。

 

小林 紹興酒の甘味や酸味に、自然な香りや渋味が加わって、これもいいですね! アルコール度数が下がってグッと飲みやすくなりますし、さっぱり飲めるので、濃厚な料理によく合いそうです。

↑紹興酒をジャスミン茶で割っても美味しい!

 

山田 あとは炭酸割りも面白いですよ。町中華や居酒屋でも「チャイナハイボール」の名称でよく見かけるようになりました。

 

小林 こうしてみると、紹興酒って常温でも、冷たくしても、温めても、割っても楽しめるスゴいお酒なんですね! ちなみに、氷砂糖やザラメを加えて飲むというやり方もあると聞いたのですが、これはどうなんですか?

 

山田 ああ、それはかつて質の悪いお酒を飲みやすくするためにした方法ですね。これが正しい飲み方だと勘違いされている方が多いかもしれませんが、しっかりした紹興酒なら、本来の味を損なうのでオススメしません。

 

小林 なるほど、そうでしたか! 知らなければ、中華料理店で頼んでしまったかもしれません。

 

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紹興酒は油を使った料理や旨みの強い料理によく合う

小林 では、最後にもうひとつ、紹興酒はどんな料理と合うんでしょうか。

 

山田 中華料理をはじめ、油を使った料理にはよく合いますね。紹興酒の乳酸が油っこさを切ってくれますから。発酵食品や発酵調味料との相性も抜群です。あとは、旨みの強い料理。紹興酒の旨みと料理の旨みが重なって、相乗効果が生まれます。

 

小林 ああ、いいですね! 料理とのペアリングも試してみたい! そういえば、だんだんお腹がすいてきました……。

 

山田 では、紹興酒にこだわった中華料理店があるので、これからそこに行きませんか? 紹興酒を実際に料理と合わせたら、もっと美味しく感じると思いますよ。

 

小林 いいですね! ぜひ行きましょう!

 

……ということで、次回は山田さんとともに中華料理店で実地研修。「紹興酒と料理とのペアリング」について、紹興酒に詳しい飲食店のマネージャーにお話をうかがいながら、料理とのペアリングを堪能します。お楽しみに!

後編の記事はコチラ

 

記事に登場したお酒の紹介はこちら▼

・紹興酒「塔牌」(とうはい)
https://www.takarashuzo.co.jp/products/touhai/

 

・紹興酒「塔牌」花彫 <陳五年> 600ml

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=2275

 

・紹興酒「塔牌」純五年プレミアム500mlスリムボトル/業務用

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3140

 

・紹興酒「塔牌」2010年<福(フータオ)> 500ml

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3144

 

・特撰紹興酒「塔牌」<陳十五年> 500ml

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=2270

 

撮影/我妻慶一

 

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